性加害少年たちは学歴もIQも高い 少年鑑別所の精神科医が語る特徴
少年による不同意性交や不同意わいせつなどの事案が増えている。警察庁によると、2024年に不同意性交罪で検挙した少年は、前年の約1.5倍で、不同意わいせつは約1・2倍(23年7月までは罪名はそれぞれ強制性交、強制わいせつ)。性的姿態撮影処罰法違反で検挙した少年は、前年比の5倍近い。非行少年たちの性加害問題をどのようにとらえるべきなのか。長年、京都少年鑑別所で子どもたちと向き合ってきた精神科医の定本ゆきこさん(64)に聞いた。
少年鑑別所で見た非行少年たちの性加害と性被害
少年鑑別所で長年、非行の少年少女たちを見てきたが、彼らが関わる性加害と性被害の実情をみると、男女ともに包括的性教育の必要性を強く感じる。
非行の中での性の問題は、男子と女子では表れ方が違う。男子の非行少年は性被害よりも性加害が多く、しかも「反省」はあまり見られない。ケロッとしていて、それほど悪いことだと思っていないように見受けられる。被害者が受けた深刻な傷つきの程度と比べて、すさまじいギャップがある。
IQ高い性加害少年
2018年から21年3月末までに少年鑑別所に入所、あるいは在宅のまま鑑別された少年のうち、性加害以外の男子非行少年362人と、性加害少年57人を比較調査したことがある。
その結果、見えてきたのは、一般の非行少年と比べて、性加害少年はIQが高く、成績がよく、学歴も高い。不登校歴も少ない。両親がそろっていることも多いが、いじめにあった経験は一般非行少年より多かった。保護観察歴や薬物使用歴も少なく、万引きや無免許運転などほかの非行歴もない、という傾向が出た。
近年は、10代前半の少年による単独の性非行が増えている。妹や妹の友人、学校や施設の下級生などに性的接触をしている事案が多い。性加害少年は、SNSやスマホなどからの誤った有害な性情報にさらされ、正しい性情報、性知識を得る機会がないのが実情だ。
ほとんどが性被害を受けている非行少女
男子少年の性加害行動を抑制するためには、情報の制限と性教育が急務だ。性加害少年は一見「普通の少年」であり、学校に適応していることも多いため、学校で包括的性教育をすることの効果は大きいと考える。
一方、女子はほとんどが性暴力の被害を受けている。心に深い傷を負い、フラッシュバックなどに苦しみ、リストカットやOD(薬の過剰摂取)、アルコールや薬物依存になり、精神科医療を必要とする子どもも多い。
これまでの調査から、初交年齢は14歳以下が60%で、12歳以下も13%いる。5.7%は出産経験があり、人工中絶の経験も20%だ。少年院の法務教官は「ほとんどすべての女子少年が性的搾取の被害者だ」と話している。
非行の女子少年の特徴は、半数が身体的虐待を受けており、家に居場所がない場合が多い。いじめの被害に遭っているか、あるいはいじめの加害側になっている割合も高い。中卒が6割を占め、低学力、低学歴で、学校にも居場所がない子が多い。
そのため、受け止められない思いを持て余し、異性に依存対象を求めがちで、その相手は往々にして不良者だ。また、虐待を受けていたり、機能不全家庭に育っていたりするために自尊感情が低く、自分を大切にできないし、守れない。そして、性については無知、あるいは誤解も多く、正しい性情報に接していないことがほとんどだ。
そうした状況を見ると、女子については、本人が被害に向かわないようにするために、自分を大切にすることにつながる包括的性教育が必要だ。
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- 【視点】
つくづく思うが、子どもを加害者にも被害者にもしないために、公教育での包括的性教育が絶対に必要である。包括的性教育の実施に反対することは、子どもの幸福追求の機会を妨げることだ。 選挙の都度、性教育についての関心や意欲も候補者選びの材料の一つにしてほしい。性教育は、非科学的で異様なバッシングによって攻撃されてきた不幸な歴史があるが、これに抗い続けるために、強い有権者の意思と、政治の場で闘う議員が必要だ。 また、記事中、少年院の法務教官の「ほとんどすべての女子少年が性的搾取の被害者だ」という言葉が引用されているが、私が弁護士としてかかわったことがある女子少年もそうだった。「非行少女」はその前の時点で圧倒的に被害者であることが多い。適切な支えがあれば「非行」に走らず性的搾取の被害者になることもない。社会が彼女たちを過酷な状況に追いやっていることに全ての大人は責任を感じるべきだと思っている。
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- #子どもと性教育
- 【提案】
最近、『性的虐待を犯した少年たち: ボーイズ・クリニックの治療記録』『性的虐待を受けた少年たち: ボ-イズ・クリニックの治療記録』『少年への性的虐待: 男性被害者の心的外傷と精神分析治療』などを故あって読んでいましたが、『少年への性的虐待』によると、若い成人男性のうち性的虐待の加害者は80%近くがかつて虐待を経験した被害者であり、子どもの時に虐待を受けその後に虐待者になるのは20%だという話でした。虐待を受けた者が虐待を行う者になるという説は偏見を煽る「吸血鬼神話」だと批判する論考もありますが(宮地尚子)、そこそこ高い「連鎖」はあるように思います。女子の非行もそうですが、虐待は、複雑性トラウマの後遺症などの被害の重さの割に、まだまだ社会の対応が甘い領域であり、社会や地域や親族の共同体やつながりが弱体化した現在には、密室化し、深刻なことになっているケースも多いと思われます。こども家庭庁は、そこにこそ対応するべきであろうと思います。様々な被害や加害の連鎖の根を改善することは、社会にとっても、子供たちにとっても利益は非常に大きいだろうと思われますので。 それはともあれ、今回の記事は、「性加害少年はIQが高く、成績がよく、学歴も高い。不登校歴も少ない。両親がそろっていることも多いが、いじめにあった経験は一般非行少年より多かった」、だから包括的性教育が行われるべきであるというのは、確かでしょう。しかし、「性加害少年はIQが高く、成績がよく、学歴も高い。不登校歴も少ない。両親がそろっている」ということだけで、「普通」と見るのも違うかもしれません。それが教育虐待や、異様な上昇志向の強制の「結果」なのかもしれませんし、いじめの経験は考慮されるべきでしょう。 上記の書物によると、加害少年たちは、自身が虐待や被害を受けて「男らしさ」などに混乱を抱え、それを回復させるために、加害者の立場になり、「支配」などの立場を得ることで、屈辱や無力感から逃れようとする動機があるようでした。では、「普通」「より恵まれている」と見える彼らの内部に何が渦巻いていて、何が彼らを駆りたてているのか。そこを丁寧に見ていく必要もあるのではないかと思います。
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