自立支援施設から“作戦”練り深夜に8人で脱走…家族が内緒で「引き出し屋」と契約、元入居者が語る“ずさんな”内情とは?
家族が勝手に家を解約…脱走後も厳しい生活続く
結局、渡邉さんがワンステップスクールにいた期間は4か月だったが、それ以降も厳しい生活が続いたとして、次のように語った。 「脱出後は、無料低額宿泊所で半年ほど暮らしていましたが、生活を一から立て直すのが大変でした」(渡邉さん) 入所時に、携帯や財布などの貴重品は没収されたまま返却されず、実家に戻れば通報されて施設に連れ戻されてしまう恐れがあった。さらに、一人暮らしをしていた家も、家族が入所期間中に解約していたという。 「免許証も失効間際になっていたので、母に連絡して問い詰めたところ、まともに請け負ってもらえませんでした。どこに頼るわけにもいかず、独立のための生活資金をためる必要がありました」(渡邉さん) 結局、紹介された派遣のバイトに従事することを条件に、渡邉さんはようやく、無料低額宿泊所を出ることができたという。
「チャイムの音が鳴るとトラウマで家から出られない」
その後、住む場所を見つけ、仕事を探す渡邉さんだったが、思うように生活は進まなかった。ワンステップスクールの職員に拉致された時のトラウマが刻まれ、思うように外出できない日々が続いたことで、継続的な勤務は困難を極めた。 「チャイムの音が鳴ると、連れ去られた時の記憶がよみがえって、当時は1週間ぐらい家から出られない日々が続きました。 今はだいぶ収まりましたが、物理的に職場に行けず仕事は長続きしませんでした。在宅の仕事も探しましたが、出社を求められる機会もあるので、継続的に働くのは難しかったです」 現在も渡邉さんは、生活保護を受給する日々が続く。ワンステップスクールへの入居を機に、人生の歯車を狂わされた遺恨が消えることはない。 同時に、案じたのは、同じく精神的苦痛を負った入居者らだった。全国には、当該のスクールと近しいやり方で、ずさんと言える運営を行う団体もあるという。 表向きには自立支援をうたい、内情は人を踏みにじる団体がはびこっているのはおかしいーー。 そう思い、渡邉さんらは同じく元入居者とともに、2020年10月に前述した訴訟を提起。その後2025年5月15日に、ワンステップスクール側から、88万円の慰謝料が支払われる判決が出た。 ■佐藤 隼秀 1995年生まれ。大学卒業後、競馬関係の編集部に勤め、その後フリーランスに。ウェブメディアを中心に、人物ルポや経済系の記事を多く執筆。趣味は競馬、飲み歩き、読書。
佐藤隼秀