自立支援施設から“作戦”練り深夜に8人で脱走…家族が内緒で「引き出し屋」と契約、元入居者が語る“ずさんな”内情とは?
金銭やスマホは没収、自由に使えるお金は月3000円
時系列を戻すと、ワンステップスクール到着後の渡邉さんに与えられたのは、窓にストッパーがかけられた約6畳一間の個室だった。 部屋からは出られるものの、寮内には複数の監視カメラが常設されており、夜間は職員が巡回警備を実施。入居者は金銭やスマホなど通信機器の所持を禁止され、月3000円のお小遣いが支給される程度だった。 また、外出の時間は限られており、スクール側は1日に複数回の点呼をとることで、入居者の所在を確認。 もしも入居者の所在が確認できず、時間が経過した場合は、保護者への連絡と警察への家出人捜索の依頼が実施された。入居者からすれば、脱走を試みても連れ戻される環境にあり、軟禁に近い状態だったという。
50人近くが共同生活も「十分な支援を行う環境ではなかった」
ワンステップスクールは、契約を結んだ入居者の保護者から、入寮費など月額制で徴収していたとされる。入寮さえ決まれば運営側としては原資が入ってくるため、入居者を施設に“軟禁”しておく環境は都合が良かったのかもしれない。 当時、50人近くいた入居者らは、4班に分けられ、食事などを当番制で分担しながら共同生活を行っていた。起床後、午前中は小学生向けのドリル学習を行い、午後は運動や散歩、映画鑑賞などのプログラムを繰り返した。 日によって午後のカリキュラムは変わり、特定の曜日は精神科医と臨床心理士による訪問診療等もあったが、渡邉さんは「十分な自立支援や就労支援を行う環境ではなかった。午後の時間は勝手に自室で読書していた」と回顧する。
弁護士とコンタクト取り、深夜に8人で脱走
意味のない入所生活に、当初から脱走を試みていた渡邉さんだが、連れ戻される懸念もあった。施設では家族の要請もあり脱出に成功した人もいた一方、所轄の警察に駆け込んだものの結局連れ戻される人もいたという。 そこで渡邉さんは、同様に脱走を試みる入居者らと、時間を見計らっては“作戦会議”を練った。そのうちワンステップスクールに対して、異議申し立てをしている人がいると知り、そこから弁護士を紹介された。 それから外出時の隙を見計らって、入居者の一人が弁護士とコンタクトを取り、無料低額宿泊所に逃げ込むよう指示をもらった。裏で弁護士が、宿泊の手続きや、所持金がなくても生活できるよう生活保護の申請を済ませてくれたという。 こうして逃走の手配を整えた2018年7月、施設側の管理が緩くなる深夜帯に、計8人での脱走に成功した。