「引き出し屋は必要悪ではなく人権侵害」それでも“根絶”が難しい理由とは… 横浜地裁が「自立支援業者」に慰謝料の支払い命じる判決
「同種の業者に対する警鐘に」
双方の主張を踏まえ横浜地裁は、1点目の「連れ出し行為」と2点目の「侵害行為」を、一連の違法行為として認定。3点目「支援内容」に関しては、慰謝料が発生する程度までは至らないと判断した。 地裁の判決を受け、徳田弁護士は、「単に渡邉氏の個別の事例を超えて、監禁や連れ去り行為といった、被告らのやり方自体に、明確な違法性を認められた点に意義がある」として、以下のように総括した。 「施設からの出入りが可能だろうと、多少は通信手段での連絡を取ることができようと、そもそもの管理体制が問題だと判断されたことは、同種の業者に対する警鐘になるでしょう。 これまでも引き出し屋は、必要悪であると報道される側面も見受けられ『保護者からの依頼で支援を要望している』といった観点から、何らかの社会的意義があると報じるメディアまでありました。 ただ、そうした報道によって、原告や連れ去られた被害者は非常に苦しめられ、問題の本質が誤った方向にゆがめられてしまっています。 ですので、被告の言い分と関係なく、やり方自体が人権損害だと認定されたことに意義があるといえるでしょう」(徳田弁護士) 続けて、原告代表の渡邉さんも、判決を受けた所感を語る。 「お金ではなく、問題提起として起こした訴訟で、とても有意義な結果であったと見ています。 ひきこもり支援という名目のもとに、何の問題もない人を強引に連れ出して、施設に監禁していくのは違法であると、周りの家族含めて知ってもらえたら幸いです。 当該の施設に限らず、全国では似たような手口で、連れ出しや監禁行為を行う団体がはびこっています。 同様の被害に遭われた方に対しても、自分の人生を諦めないでほしいですし、当事者の方々の意識が前向きになっていただければ幸いです」(渡邉さん)
「引き出し屋」今なお複数存在
徳田弁護士や渡邉さんが語るように、「引き出し屋」と呼称される業者は今もなお複数存在している。 原告側によると、当該のワンステップスクールは現在廃業しているものの、被告のうち1人は看板を変え、現在もなお不登校支援の全寮制スクールを運営しているという。 こうした引き出し屋の根絶が難しい背景には、多々要因が絡む。 法的観点から見れば、家族が「本人のために必要」と考え依頼していることは、「連れ出し行為」「侵害行為」の違法性の立証にとって障害となりうる。 また、連れ出す際に暴力を伴わない場合や、短時間の拘束では、違法性の立証が困難となることがある。 その他にも、家族間の問題に関しては、行政機関による介入が難しい課題も大きい。 渡邉さんは「こういった類いのビジネスが根絶するのは難しい側面もある。ただ、今回の判決を礎に、こうした環境が少しでも是正され、みんなが当たり前のように安心して暮らせる世の中に進んでほしいです」と切に訴えた。 現状ではずさんな民間業者の見極め、また違法かどうかの線引きは難しい。それゆえに、今回の判決で、明確な違法性が認められたのは大きな潮目となりそうだ。 ■佐藤 隼秀 1995年生まれ。大学卒業後、競馬関係の編集部に勤め、その後フリーランスに。ウェブメディアを中心に、人物ルポや経済系の記事を多く執筆。趣味は競馬、飲み歩き、読書。
佐藤隼秀