スーパーで牛肉と白砂糖だけをかごに入れているおばさんを見かけた。肉と砂糖、以上。それ以外は一切なし。栄養バランスとか気にしないのか、というか、そもそもこの組み合わせで何を作るつもりなんだろう。想像がつかない。たぶん、想像したくもない。
セルフレジが混んでいて、仕方なく並んでいたら、そのおばさんが後ろにやってきた。距離感ゼロで、かごをガンガンとこちらにぶつけてくる。無言の圧がすごい。「早くしろ」と言わんばかりの態度。セルフレジの前で、肉と砂糖だけのかごを握りしめて、なにかに取り憑かれたような目をしている。完全に自分の世界に入り込んでいる感じ。後ろからの圧力に負けて、こちらも焦って操作をミスりそうになる。
ちらっと横目でおばさんの顔を見たら、年齢は60代後半くらいだろうか。妙におでこだけがてかてかしていて、他の部分は乾いているのに、そこだけ異様に光っている。人間の皮膚って、あんなふうになるものだろうか。なんだか気持ちが悪い。人間というより、どこか獣じみたものを感じてしまった。肉と砂糖だけ食べていると、ああいう外見になるのかもしれない。いや、そんなわけないと思いつつも、妙に納得してしまう自分がいる。
その姿を見ていたら、ふと、どこかで見たことがあるような気がした。ああ、匿名ダイアリーを住処にしているおばさんたちだ。日々、肉と砂糖みたいな極端な思考をぶつけ合って、無言の圧をネット越しに発している。現実世界でもネット世界でも、同じような存在感を放っているのだな、と思った。
今日もどこかで、肉と砂糖だけをかごに入れたおばさんが、誰かに無言の圧をかけているのかもしれない。自分も、いつかああなるのだろうか。いや、なりたくない。