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【オレが私になるまで】藤宮アキラの成長を見守りたい【TSF】

 「TSF」という言葉がある。これは「Trans  Sexual  Fiction」の略称で、異性への性転換を扱うフィクション作品を意味する言葉だ。

 異性への性転換作品…とだけ聞くと、ものすごくマイナーなジャンルに思う人がいるかもしれない。筆者も最初はそう思っていた。

 しかし、この「TSF」作品というのは意外に多くWikipediaでは性転換の原因に応じた作品の分類までされてるのだニコニコ大百科ではさらに詳細な解説がされており、「TSF」は性転換に対する「反応」が重要視されていること、完全な変身がなされることがキモであること等が熱く論じられ、なんだか学術論文を読んでる気分になる

 てっきりマイナージャンルなのかと思いきや、超メジャー作品の「君の名は」(入れ替わり系)や「らんま2分の1」(変身系)なども含まれるようで、もしかしたら誰でも人生に一度くらいは「TSF」作品に触れてるのかもしれない。

 そんな一般ファン向けからコアファン向けまで幅広い作品のある「TSF」なのだが、その中でも、今回は、佐藤はつき先生の「オレが私になるまで」を皆さんにおススメしたい。

 Wikipediaにも書かれているように、この作品を一言でいうと「小学生の男の子がある日起きたら、女子小学生になっていて、そのまま戻れずに、年を重ね続けていくお話」となる。見どころは自分の意思に反して女子となった藤宮アキラの心の揺れだ。

<注意> ここからはネタバレありの記事になります。「オレが私になるまで」は佐藤はつき先生のツイッターコミックウォーカーニコニコ静画等で一部読めます。まずは先入観がない状態で読んでみてください。また、気に入った方はぜひコミックスの購入を。

 主人公の藤宮アキラは心が不安定だ。

 原因不明の『突発性性転換症候群』により女子になった結果、自分の居場所を失ってしまう。さらにある事件をきっかけに男子には恐怖心を抱き、男子時代に総すかんを受けた過去から女子にもビクついて、おまけに自分の身体までもが心をおびやかしてる。

 そして、宿泊研修先の夜のトイレでついに藤宮アキラの感情が爆発する。クラスメイトの渡井瑠海に付き添ってトイレに行った際、突然、自分の身体に生理がきて涙が溢れ、そんな泣いてる自分が「気持ち悪い」とどんどん自己嫌悪に陥っていくのだ。

自己嫌悪トリミング

 著者:佐藤はつき 「オレが私になるまで」 第6話 8頁より引用

 言葉だけだとよくあるシーンに思えるかもしれない。
 しかし、実際に読んでみると「瑠海」と声を出すのをこらえ、泣いてるのをバレたくないと腕を噛んで耐える様子や、「オレなんて最初からいなければよかったんだ」と自分を責め続ける姿などが丁寧に描写され、ガンガン読者の心を揺さぶってくる。

 このリアルで繊細な心理描写の積み重ねが「オレが私になるまで」の特徴で読者は感情移入しっぱなしになる。
 この後、渡井瑠海が声をかけて藤宮アキラの心が救われるのだけど、何と声をかけたか、ぜひ直接読んでみてほしい(ほんと名シーンです。)。

 心が不安定な藤宮アキラも、先の渡井瑠海や周囲の人々との関わりを通じ、迷いながらも少しづつ成長していく。
 そして、中学生編では藤宮アキラもある程度女子の行動様式に馴染んでくるのだが、今度は周囲の変化に翻弄されていきそうなのである。

 特に、筆者的には現在進行形で進んでいる佐原翔馬との関係が気になってしょうがない。

佐原

著者:佐藤はつき 「オレが私になるまで」 第5話 1頁より引用

 ニコニコ静画のコメント欄ではなぜか『たけし』と呼ばれる佐原翔馬だが、野菜が固いと文句を言われる渡井瑠海をフォローしたり、男子と喧嘩した藤宮アキラを身体を張ってかばったり作中屈指の性格イケメンである。
 そんな翔馬がアキラの恋愛事情に関わってきてるのだ。

 例えば、下心がなんとなく透けてみえる陽キャが藤宮アキラにちょっかい出してるとかだと筆者的には微妙にNGである。結果としてその陽キャがアキラの心を救うナイスガイであっても、極論を言えば「君に届け」の風早くんであっても「こやつめ、ハハハ(殺)」と心の底では笑えない。
 自分のフィールドに巻き込む王子様ではどうしても釈然としないのだ。

 一方、佐原翔馬は陽気すぎることもなく、かといって暗すぎることもない。ちょうどいい塩梅で、また、こいつなら藤宮アキラを任せられるという安心感もあって応援してしまう。

 とはいえ、いまだ男子か女子かで心が揺れる藤宮アキラに男子への恋愛感情は鬼門である。さらにややこしいのがクラスメイトの蛯原江梨香もまた幼馴染の佐原翔馬に想いをよせている。
 いまのところ翔馬の好意は表立って伝えられていない。なのだけど、話の流れからするともはやアキラに告白するまで時間の問題にみえる。

 蛯原江梨香のことがあるから告白は断るのか、いや藤宮アキラも好意をもってそうでOKするのか、でもそうなるとアキラの心の中の男子的部分はどうなるのか、その前に江梨香と気まずくなるんじゃないか…などなど、いろいろ考えて既にアキラ以上に筆者の心が揺れ動いてしまってる。
 
どっちにしても作品の性格上、告白がなかったことになる展開になるとは思えず確実にアキラの世界はまた変わるはずだ。

 現在連載中の「オレが私になるまで」は、この佐原翔馬との関係がいよいよ正念場になってきそうな気配があり目が離せない。だけでなく藤宮アキラの元男子カミングアウト問題も残ってることを考えると、これからまだまだ大きな山場が控えている。
 心が痛くなるシーンもあるけれどちゃんと救いもあるので、読んだことが無いと言う人も今からリアルタイムで読んでみてほしい。いま学生の人だけでなく、もう卒業したという人も、きっと思春期の心の揺れを思いだして楽しめると思います。


 

 

 

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