授業はそこそこ真面目に受けていますが、
本当に心を奪われているのは“都市伝説”という、教科書に載らない世界でした。
マツブロは、実際に起きた怪事件や古い噂話を徹底的に裏どりし、
当時の新聞・映像・取材音声まで掘り起こして検証するスタイルが秀逸でした。
怖がらせるだけでなく、一次資料を揃えて組み立てる
“謎解きドキュメンタリー”としての完成度に毎回うなりました。
現存しない深夜ラジオや放送禁止CMの断片を探し当てる回は鳥肌もの。
動画の最後に表示される〈情報提供はこちら〉というテロップを見ながら、
密かにそんな思いを抱くようになりました。
家の裏手にある古い倉庫の整理を手伝ってほしいという両親からの依頼でした。
埃まみれのガラクタを仕分けるだけの地味な作業で、正直気乗りはしません。
それでも帰省の口実にはなるし、
久しぶりに実家の空気を吸うのも悪くない――そんな程度の気持ちでした。
N県行きの夜行バスの予約を済ませたその晩。
午前三時ちょうど、目を射抜くスレッドが現れたのです。
かぞくがだんらんしてたとおもうと きゅうにみんなきえて
でも みんなとてもしあわせそうでした
わたしも しあわせになりました
投稿者名「うれしいひと」
違和感のある語尾に「怪しいな」と思いつつも、
これはチャンスだと胸が騒ぎました。
なにしろ N県は私の地元だし、ちょうど帰省する予定があるのですから。
ホームに立つだけで故郷の湿った土と醤油工場の甘い匂いが絡みついてきます。
薄曇りの空の下、改札を抜ける頃には、
「みんなとてもしあわせそうなCM」のことで頭がいっぱいでした。
昼過ぎには祖父の三回忌の読経や納骨堂への挨拶も滞りなく終わり、
親戚一同が帰路につきました。
さっそく家の裏手にある物置へ向かいました。
扉を開けた瞬間、
薄暗い空間には、粗大ごみ寸前の品々が雑然と積み上げられていました。
黄ばんだ健康器具、片方だけ車輪の外れた三輪車、角が欠けたファミコンのカセットケース、
新聞で包まれたまま湿気を吸った陶器の置物――まさに“ガラクタの見本市”といったありさまでした。
そんな中、奥の壁際に置かれたひときわ古い段ボールが目に止まりました。
箱のふちには水染みが広がり、側面のガムテープはほとんど剥がれかけています。
ゆっくり開けると、
中にはビデオデッキとVHSテープが十本ほど乱雑に詰め込まれていました。
手袋をしていなかったので、汗ばんだ指に埃がまとわりつきます。
テープはどれもケースが反っており、
その中で、もともと白かったはずのラベルが黄変し、
タイトルは《夏97 未整理》。
妙な胸騒ぎを覚えつつも、私はそれを丁寧に取り出しました。
深夜、家族が寝静まったあと、
幸い、持参していたRCAケーブルとHDMI変換アダプターが役に立ちます。
電源を入れ、例のテープをセット。
ヘッドクリーナーも回していないデッキは一度「ガコン」と大きく鳴り、
見覚えのないCMが割り込んできました。
温かみのあるリビングセット、テーブルを囲んで微笑む四人家族。
みんな しあわせになってね
背筋を氷で撫でられたような感覚――でも、それ以上に
という興奮がはじけました。
胸が熱くたぎり、鼓動の高鳴りを抑えられませんでした。
マツブロからの返信は当然ながらすぐには来ませんでした。
考えてみれば、こんな深夜にDMを送っておいて即レスを期待するほうが無茶です。
むしろこの時間まで起きている自分のほうが珍しい――と頭を切り替え、
興奮で震える手を落ち着かせながらデッキとテープを元の箱へ戻しました。
「もう夜明けか」と驚きました。
そういえば昨日の昼から一睡もしていません。
覚醒しきった脳を無理やりクールダウンさせるように布団へ潜り込み、
腕時計は十二時半。
家族の気配はなく、どうやら皆どこかへ出かけたようです。
真っ先にスマホを手に取り、マツブロのDMを確認しましたが未読のまま。
あれだけ人気のチャンネルです、即返がないのも当然かと自分を納得させました。
代わりに、昨夜撮影した動画をもう一度見ようと思い、カメラロールを再生。
みんな しあわせにってね
みんな しあわせになってね
「な」が消えている。
その瞬間、スマホが震えました。
通知バーに「DM from @matsuburo_ch」の文字。
慌てて開くと、シンプルな一文が届いていました。
「映像確認します。可能であれば、カメラで撮影したものではなく直接キャプチャした動画ファイルを送ってもらえますか?」
午後一時、私はノートPCを立ち上げ、キャプチャソフトに例のテープを流し込みました。
タイムラインが問題のCMに差しかかると、やはり画面下の字幕は――
みんな しあわせにってね
やはり 「な」が消えている。
昨夜は確かに「みんな しあわせになってね」と読んだ記憶がありますが、
興奮していたせいで見間違えたのかもしれません。人間の記憶は案外当てにならない、と自分に言い聞かせました。
背筋に冷たい汗がにじみ、キーボードを打つ指先が震えましたが、
書き出しファイル名は、
自分へのメモを兼ねて 「みんなしあわせにってね.mp4」 としました。
すぐにギガファイル便へアップロードし、生成されたリンクをマツブロ宛てのDMで送信。
「これで採用されるはずだ」と胸が高鳴り、呼吸が浅くなるのを感じました。
すべてを終えて電源ボタンを長押しし、PCの画面が闇に落ちるのを見届けました。
消えたモニターは鏡のように部屋を映し返し、そこに揺れている自分の顔の瞳孔が、異様に大きく開いていたのがはっきりと見えました。
翌朝、マツブロからDMが届きました。
「ありがとうございます。これは素晴らしいネタです。
情報提供者としてお名前(ハンドルネーム可)を教えていただけますか?」
心臓が跳ね上がりました。
すると「確認しました。近日中に動画にします」という返信が入り、
そのあとの二日間は、三回忌で集まった親戚と食事をしたり、倉庫の整理を再開したりと、
不思議なことに、スマホのカメラロールに残っているあの動画には一度も手が伸びませんでした。
見るのが怖かったのか、誇らしかったのか、自分でも判断がつきません。
帰京の日、夜行バスのリクライニングを倒しながら掲示板を覗いてみると、
見つけてくれて、ありがとうございます
投稿者は「うれしいひと」のままです。
「どうして知っているんだろう? マツブロが知らせたのか」と首をかしげていると、
ゆっくりボイスが事の経緯を語ったあと、
「それでは、問題のCMをご覧ください」と画面が切り替わりました。
流れてきたのは、私がキャプチャしたあの映像――の、はずでした。
温かみのあるリビングセット、テーブルを囲んで微笑む四人家族。
みんな しあわせてね
みんな しあわせにってね
と映っていたはずです。「にっ」が丸ごと消え、文章としても破綻しています。
ラストの協力者クレジットに 情報提供:たけるる さん と表示されました。
喜びよりも、映像が勝手に変化している事実に動揺が勝りました。
胸の内側を冷たい手で握られる感覚のまま、
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
先日、私は無事に東京の部屋へ戻ってきました。
あのCMはいったい何で、どうして実家のVHSに紛れ込んでいたのか――
手がかりは皆無です。映像の出どころも、録画された経緯も、私にはまったく分かりません。
みんな しあせてね
結論を申し上げるなら、都市伝説やロストメディアには、興味本位で首を突っ込むべきではありません。
今、その扉の向こう側で、残り二文字の行き先がひっそりと私を窺っている気がしてなりません。
主にチャットGPTで書いたよ