88歳認知症の当事者が語るリアル 自分のことを「プライドが壁…妻に当たり散らしてしまう」と分析 役立てることもあり「社会からはじき出さないで」
長野県松本市四賀地区でグループホームなどを運営するNPO法人「峠茶屋」の元理事長で、半年前に認知症となった江森元春さん(88)と、NPO法人の運営に携わる看護師のけさ子さん(83)夫婦が5月、松本市内で開かれた認知症がテーマの勉強会で講演した。元春さんは「認知症の人を特別扱いせず、できないことにはさりげなく手を貸してほしい」と呼びかけた。 認知症となった元春さんと、支える妻けさ子さん
■「社会からはじき出さないで」
元春さんは東京都内の乳製品メーカーなど働いた後、24年前にけさ子さんの古里の四賀地区(刈谷原)に移り住み、夫婦で介護事業を始めた。3年前に脳梗塞を発症。すぐに回復したものの、1年前に運営から退いた。物忘れが多くなり、昨年秋に医師から認知症だと診断された。
元春さんが大勢の前で自身の認知症について話すのはこの日が初めて。「そろばんが得意だったが、計算が難しくなり、包丁がうまく研げなくなった」などと日常の変化に触れ「今までできていたことができずにいら立ち、妻に当たり散らしてしまう」「プライドが壁をつくっているのかもしれない」と打ち明けた。
一方でうれしかったこともあるという。最近、元春さんが通うデイサービスで幼少期から慣れ親しんだハーモニカを披露したところ、目の見えない利用者仲間から「生きていて良かった」と言われた。認知症への偏見も感じるというが「認知症であっても人の役に立てることがある。社会からはじき出さないでほしい」と呼びかけた。
■妻「心地良く老いを迎えたい」
夫婦が暮らしている安曇野市内のアパートの住民に脳梗塞の後遺症について伝えるなど周囲の協力も得るよう努めているという。けさ子さんは「老いはしんどく悔しい。避けられないので、少しでも心地よく老いを迎えられるよう皆さんと一緒に考えたい」と訴えた。
勉強会の合間には、元春さんが得意のハーモニカで「おぼろ月夜」や「信濃の国」などを演奏。透き通った音色に合わせて勉強会の参加者約30人が歌を口ずさみ、会場が和んだ。
勉強会は後見人制度などで高齢者らを支援するNPO法人ライフデザインセンター(松本市)が主催した。代表理事の久島和子さん(84)は「認知症の本人が公の場で話すのは珍しい。認知症になっても大丈夫だと思える社会をつくっていきたい」と話している。