どうしてこうなった!? 波ダッシュをめぐる考察

どうも、『人文×社会』の中の人です。

今回は、WindowsとMacで起こった「波ダッシュ」をめぐるドタバタ劇をご紹介したいと思います。

波ダッシュといえば、「〜」という記号。どこにもドタバタする要素がないように思えますが、実は今でも組版業界で問題となっている大混乱があります。

波ダッシュと全角チルダ

「それ、不等号ですよ! 紛らわしい約物3連発!」の記事でもご紹介したように、見た目が「〜」に見える約物には、2種類あります。

「波ダッシュ」「全角チルダ」です。

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「波ダッシュ」は、日本語で範囲を表すときに使われる約物です。「明治〜大正」みたいな感じで使います。

「全角チルダ」は、半角チルダ(~)の全角版です。チルダは「漸近的に等しい」ことを表す数学記号として使われます。つまり、全角イコール(=)の仲間です。(他にも半角チルダは、コンピュータ上のホームディレクトリを表したり、プログラミング言語の演算子として使われたりします)

したがって、これら二つは、見た目が全く同じであるものの、いちおう全然違う文字です。なので、Unicodeの文字コード上でも、「波ダッシュ」の方は「U+301C」、「全角チルダ」の方は「U+FF5E」というふうに区別されています。

ちょっと紛らわしいですが、ここまでならば、気をつけていれば特に混乱は生じないはずです。

WindowsとMacで入力方法が違う!?

ところが、PCが普及し始めたころに大混乱が起きてしまいます。

なんと、Windowsでは、日本語を表現する文字コード「Shift_JIS」の「波ダッシュ」の文字コードと、Unicodeの「全角チルダ」の文字コードを対応づけてしまったのです。そのため、現在でもWindowsでは「から」を変換すると、「波ダッシュ」ではなく「全角チルダ」が表示されます。

他方、Macは「波ダッシュ」をきちんと割り当てているため、「から」を変換すると「波ダッシュ」が表示されます。

これが組版上でも大混乱のもとになりました。

ですが、なぜWindowsはこんな奇妙なことをやってしまったのでしょうか。実はこれには重大な理由がありました。

原因はUnicode仕様書のミス!?

きっかけは、Unicode仕様書のミスと言われています。

実は、Unicode 7.0以前の仕様書では、次のように字形が定義されていました。

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そうです、波ダッシュと全角ダッシュは、波の上下が反対になっていたのです。

ところが、よく考えてみると、上のような「波ダッシュ」を日本語の中で使う機会はありません。どう考えても、波ダッシュと言えば、「〜」という字形です。

つまり、Unicode仕様書の字形そのものが間違っていたのです!

これにどう対応するかで、WindowsとMacの方針が分かれてしまいました。

WindowsはあくまでUnicode仕様書の字形に準拠するため、日本語で波ダッシュを使う際には、同じ字形の全角チルダで代用して表示する、という方針を採りました。

Macは逆にUnicode仕様書の字形を無視して、波ダッシュに相当する字形そのものを「〜」という字形にしました。

Unicode改定の影響

ちなみに、Unicodeにおける波ダッシュの標準字形は、2015年に発表されたUnicode 8.0で修正されています。これにより、両者とも下記のように同じ字形になりました。

画像3

Windowsもこれに合わせて、波ダッシュの標準字形を上のように全角チルダと同じようにしました。

ところが、文字コードの対応関係はそのまま変えていません。OSやソフトウェアの互換性を考えると、むしろ別の問題を引き起こしてしまうからでしょう。

その結果、Windowsでは、現在正しい字形で波ダッシュを表示することが可能であるものの、普通に文字を変換して波ダッシュを表示しようとすると、同じ字形の全角チルダが表示される、というものすごくややこしいことが起こっています。

どうして間違えた?

では、どうしてUnicode仕様書は間違えたのでしょうか?

これについては、「日本語をよく知らない人のうっかりミスだ」というのが通説のようですが、私はそもそも日本語の表記そのものに間違いを誘発する原因があったと思っています。

それは、縦書きにおける波ダッシュの表記に関するものです。

縦書きにおいては、波ダッシュは次のように表示されます。

アートボード 1@300x

これを横書きにすると、どのような字形になるか、パッと判別できるでしょうか?

えっ……そのまま横に倒せば、「〜」という字形になるんじゃないの!?、と思った方は、次の図を見てみてください。

アートボード 1@300x

そうなんです、実は縦書きの波ダッシュの字体は、他の文字と違って、普通に回転させても、横書きの波ダッシュの字体にならないんです。

つまり、そもそも私たちは縦書きと横書きで異なる字体の波ダッシュを使っているのです。

こうしたことがUnicode仕様書の間違いを招いた可能性があります。

もしかしたら、Unicode仕様書の標準字形を決めた人は、縦書きの波ダッシュの方に合わせたのかもしれません。

まとめ

以上、波ダッシュをめぐるドタバタ劇のご紹介でした!

波ダッシュは本当に身近に使われている約物ですが、私たちの手書きでもPC上でも、かなり変わったことが起こっています。今後、波ダッシュを使う際には、ぜひこうした事情にも思いをはせてみてください。

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東京大学文学部の学部生・院生が創る新たな電子学術雑誌『人文×社会』の組版チームです。組版にまつわるこぼれ話を投稿していきます。 【公式サイト】https://jinbunxshakai.org/ 【Twitter】https://twitter.com/jinbunxshakai
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