東京でリトリート事業を営む女性Ｅ様から「これまでのやり方が通用しなくなっていることを感じる。気持ち悪い言い方かもしれないけど、坂爪さんと同じ空間にいたい」とご連絡をいただいた。私の正しい使い方である。非常に優雅な施設に案内されて、Ｅ様は「ごゆっくりしてくださいね」と言った。多感症の私は「俺がゆっくりしたいとでも思っているのか。こっちは戦いに来てるんだよ」と言った。当然、優しく、朗らかに、笑いを誘う感じで。Ｅ様は「ごめんなさい。ここに来る人は疲れている人や癒やされたい人が多いので、ついついクセでやってしまいました」と言った。

Ｅ様は、最近事業で起きたトラブルについて話した。そして「問題を起こした自分に問題がある」と、相手のせいにするのではなく、自分の至らなさを反省する方向に話を持っていった。私は「ちょっと待て」と思った。自分にも責任があるというのはど正論だが、ど正論過ぎてつまらない。せっかく私といるのである。いつもと違う結論を出そう。例えば「全部相手のせいにする」のはどうだろう。自分は一切悪くない。全部相手の責任にして「どうしてくれるんだ！！」とか「ふざけやがって！！」とか「金返せバカヤロー！！」と叫ぶ。魂の成長なんてどうでもいいから、啖呵を切る。内なる山口百恵を目覚めさせて「バカにしないでよ」と叫ぶ。憂いと色気を秘めた女になる。

会話とは言葉のドッヂボールである。投げ合って魅せ合って、いい試合をすることが目的である。会話が苦手だと言う人は、自分にボールが回ってきた時に、それをギュッと掴んで、ジッと見つめて、人といるのに自分と会話をして、一向にボールを投げない。ベクトルが自分に向かっていて、自分の世界に自分しかいないから「こんな私とは誰も会話をしてくれない」などと悲劇の自己完結を迎える。ちょっと待て。お前は何をやっているのだ。みんなはお前とゲームをしたいと思っているのに、お前がゲームを止めているんだよ。まず投げろよ。お前に足りない視点は「どんなボールを投げたいか」だ。嫌われたくないとか、つまらない人だと思われたくないとか、それ、全部自分のことじゃないか。自分を守るな。「一緒に死のう」と叫びながら、愛の爆弾を投げつけるのだ。

Ｅ様は「つまらない奴と思われたかもしれないけど、つまらないのが自分なのだから、つまらない自分を受け入れようと思う」と言った。ちょっと待て。つまらない自分を採用するな。自分がつまらなくなっている時は、自分以外の人間を生きている時だ。誰かが言っていたことや、誰でも言えるようなことを言うのではなく、もっとお前を出してくれ。俺はお前に惚れたいのだ。心のメンター的な人がいると言ったが、そいつをまずは追い出してくれ。メンターに自分の心を明け渡すな。依存させるメンターは、ダメなメンター【通称ダメンター】である。せっかく俺と一緒に焚き火をしているのである。この貴重な時間を、ダメンターに汚させるな。ダメンターを焼き尽くせ。真のメンターとは、自分の魂である。自分の魂以外を指標にさせる、ダメンターに自分を明け渡すな。

Ｅ様は「他力本願だった自分に気づいた。誰かにどうにかしてもらおうとする自分をやめようと思う」と言った。ブラボー。そうだ。そうなのだ。生きていたら、心が高まり「最高！！」と叫びたくなる瞬間がある。その時の自分を採用しよう。あがっている時の自分が本当の自分で、さがっている時の自分は偽物の自分。さがっている時の自分を採用して「だから自分はダメなんだ」と責めるのは、ダメンターの仕業、悪魔の仕業である。俺たちの人生にメンターは要らない。百恵ちゃんを見よ。二十歳そこそこであの憂いとあの色気である。百恵ちゃんを好きになった俺たちに、自信がないとか言っている時間はない。別れ際、Ｅ様と熱いハグを交わした。心が蕩けるような、濃厚なハグに私の心は高まった。Ｅ様は「適当にしないでくれてありがとう」と言って、泣いた。私の心も泣いていた。心が高まったことだけが本物。自分の魂は、自分で守れ。男一匹、今日も行く。