資産1億円超・月26万円の年金収入で「使い切れないほどの老後資金」を確保した65歳会社員。幸せな余生のはずが、5年後「まったく減らない残高」を前に後悔の溜息

老後資金に悩みを抱える人が多い中、「なんの心配もないほど潤沢な資産がある」という人もいます。しかし、そのお金も上手に使えなければ後悔をすることになります。見ていきましょう。 【早見表】年収別「会社員の手取り額」

老後の家計事情…お金があっても安心できない?

最近では、老後破産や年金だけでは暮らせないといった暗いニュースを目にする機会が多いかもしれません。しかし、実際のところ、どれほどの高齢者が経済的に苦しいと感じているのでしょうか。データを見てみましょう。 内閣府「高齢者の経済生活に関する調査結果（令和元年度）」で、60歳以上の男女に現在の家計状況について尋ねたところ、「家計にゆとりがあり、まったく心配なく暮らしている」と答えた人は20.1％。「家計にあまりゆとりはないが、それほど心配なく暮らしている」も54.0％でした。 逆に、「家計にゆとりがなく、多少心配である」は20.3％、「非常に心配である」と答えた人は5.1％にとどまっています。 「ゆとりがある」と答えた人の方が多いことがわかるデータですが、「いくらあればゆとりがあると感じるか」は、人によってまったく違います。1億円あっても安心できない人もいれば、貯金が少なくても楽観的な人もいる。どんな考え方も正解はありません。 また、今はゆとりがあると感じていても、近年では物価高騰や光熱費の負担増も深刻化しており、家計の状況は変化していくかもしれません。こうした不安に加えて「病気になったらどうしよう」「施設に入るかもしれないから」と必要以上に節約し、結果的に我慢ばかりの老後になってしまうケースもあります。 次にご紹介するのも、お金は潤沢にあるのに使わなかったことで後悔をしたケースです。

資産は1億円超、豊かな老後を送れるはずが……

小谷一郎さん（仮名・65歳）は、長年勤めた会社を定年退職しました。ピーク時には年収1,000万円に達しましたが、役職定年後は750万円、さらに継続雇用で60歳からは450万円ほどに。 モチベーションは下がりましたが、それでも「周りもまだ働いている。稼げるうちは稼いだほうがいい」と65歳までの5年間を乗り切り、ようやく待ちに待ったリタイアを迎えたのです。 そのとき、手元には1億円を超える資産がありました。退職金、長年の貯蓄と投資、親からの相続。さらに夫婦で合わせて月26万円の年金が入ってくる計算です。 子どもや孫がいない小谷さん夫婦にとって、それなりに贅沢をしても問題のないほど十分な資産です。共働きで、小谷さんとほぼ同時期にパートを辞めた妻から、せっかくだからお金を使って老後を充実させようと提案を受けました。 25年以上前に買ったマンションのリフォーム、13年乗った車の買い替え。それまでなかなか行けなかった、少し贅沢な温泉旅行や海外旅行、外食……。そういったことにお金を使っても、十分足りると妻は主張したのです。 ところが、小谷さんは極度の心配性で節約家。家も車も古くたって十分に使えるし、わざわざ贅沢をする必要はない。介護にお金がかかるかもしれないのだから、旅行や外食もこれまで通りの慎ましいもので満足するべき。それで十分幸せじゃないか……。 小谷さんは妻の提案を一蹴。妻もそれ以上何もいいませんでした。結局、安いツアー旅行に数回行ったほかは、特別お金を使うこともなく老後生活が5年ほど過ぎました。 しかし、突然の別れが訪れます。妻が心筋梗塞で急逝し、小谷さんは突然一人の生活に。自分の生活を支えてくれていた妻を失い、慣れない家事に追われる日々が続きました。 年金の中でやりくりできていたため、貯金はほとんど減っていません。しかし、小谷さんは、大きな後悔に襲われたといいます。 「65歳までだらだら働かずに退職を決断して、妻の言う通り多少の贅沢をして、ゆったりと楽しい老後を送ればよかった。お金だけがこんなに残っていったい何になるのか。私の人生を支えてくれた妻になんの恩返しもせず、申し訳なくてしょうがない……」

お金をどう使うか…節約がすべてではない

お金は貯めるだけでなく、「どう使うか」も同じくらい大切です。節約することは決して悪いことではありませんが、元気なうちにお金を使って、自分や大切な人との時間を豊かに過ごすこともまた、大切な人生の選択です。 将来の医療や介護への備えが不安で、お金を使えないまま人生が過ぎてしまう――。しかし、お金は使ってこそ価値があるもの。 人それぞれ安心できる金額や生活レベルは異なりますが、残された時間のなかで何を大切にしたいかを考えたとき、今使うべきお金はきっとあるはずです。老後を後悔のないものにするために、資産の使い道を前向きに見直してみることも必要ではないでしょうか。