夫が痴漢で逮捕されると家族に何が起きるか…「性犯罪加害者の家族」1012人が味わった精神的・経済的苦しみ
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■アノニミティの尊重が大前提 クリニックでの家族会は、「母親の会」「父親の会」「妻の会」という3つのグループに分かれ、それぞれ月に一度開催されています。 家族会が行われる会場はクリニックではなく、近隣のビルの一室なのですが、これには理由があります。多くの家族は、事件のことやクリニックで治療を受けていることを知られたくない、クリニックの入口で他の人から目撃されるのを避けたい、と考えているためです。 また、参加者のプライバシーを守るためにも、家族会では本名を名乗る必要はありません。ミーティングなどで他の参加者と関わる際には、自分で決めた仮名を伝えます。このように、加害者家族のプライバシーを保護すること(アノニミティの尊重)が家族会の大前提です。 家族会のプログラムは1回90分で構成され、心理教育プログラムとテーマミーティングが主な柱となります。 最初の30分は心理教育の時間として、性犯罪加害者が受講する再犯防止プログラムの内容の紹介や、性依存症とはどのようなものか、どのようにプログラムを実施して、リスクマネジメントをしていくか……といった性依存症全般とその治療についての正しい知識を学びます。これにより加害者家族が、加害当事者と問題行動について話し合うための基本的な知識と共通言語を身につけることができます。 ■ミーティングは「言いっぱなし、聞きっぱなし」 家族会で欠かせないのは、ミーティングの時間です。特定のテーマについて「言いっぱなし、聞きっぱなし」を前提に、皆でミーティングを行います。 話題は子どもやパートナーのこと、事件の前後での家族の変化、裁判について、加害者と暮らしていくうえでの悩みごと……など多岐にわたります。とくに、裁判を控えている家族にとって、すでにさまざまな経験をした先輩家族、「先行く仲間」の話を聞くことは、人生を再構築していくための貴重な情報源となっています。 そしてミーティング後、希望者には個別セッションの時間を設けています。カウンセリング形式でのフォローアップを行い、必要に応じてカルテを作成し、薬物療法も実施しています。 加害者家族のなかには、事件のショックや周囲からの偏見などで心を深く傷つけられ、不眠や抑うつ状態、ときには自傷行為に至るケースもあるからです。また、加害当事者が未成年の場合、「息子と心中したい」とほのめかす家族(主に母親)もいるため関わるうえで注意が必要です。 この家族会の取り組みは20年近くになりますが、セッションでは参考資料を毎回配布しています。参加者がそれを自宅に持ち帰り、加害当事者や他の家族と分かち合うことができるからです。 最近では、性依存症の当事者である津島隆太さんの漫画『セックス依存症になりました。』(集英社)の一部を教材として使用しました。さらに、刑法改正の話題や再犯防止プログラムで起きた最近の出来事をテーマとして取り上げるなど、タイムリーな話題を提供することもあります。 ---------- 斉藤 章佳(さいとう・あきよし) 精神保健福祉士・社会福祉士 西川口榎本クリニック副院長。1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模と言われる依存症回復施設の榎本クリニックでソーシャルワーカーとして、長年にわたってアルコール依存症をはじめギャンブル・薬物・性犯罪・DV・窃盗症などさまざまな依存症問題に携わる。専門は加害者臨床で現在まで3000名以上の性犯罪者の治療に関わり、性犯罪加害者の家族支援も含めた包括的な地域トリートメントに関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいる。主な著書に『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』(ともにイースト・プレス)、『「小児性愛」という病 それは、愛ではない』(ブックマン社)、『しくじらない飲み方 酒に逃げずに生きるには』(集英社)、『セックス依存症』、『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(ともに幻冬舎新書)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、監修に漫画『セックス依存症になりました。』(津島隆太・作、集英社)がある。 ----------
精神保健福祉士・社会福祉士 斉藤 章佳