酒癖が終わってるアグライア概念
Q.酒癖が終わってるアグライア概念ってなんですか?
A.さあ?
アグサフェのようなものが一部含まれております。脳を焼かれた方はご注意ください。
今回はそんな感じのお話。楽しんでいただければ幸いです。
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「ライアちゃん、いるかちら?うっ…………お酒臭い。」
部屋に満ちる酒気に思わず顔をしかめながら、酒をあおるように飲む部屋の主人に目を向ける。
「ああ、師匠でしたか……。何かありましたか?」
どこか虚な目で彼女は呼びかけに答える。
「ううん、そう言うわけじゃないんだけど……。ねえライアちゃん、ちょっと飲み過ぎじゃない……?」
「放っておいてください師匠。今はこうでもしないとやってられないんです。」
顔を真っ赤にした彼女の周りには、よく見れば数えきれないほどの酒瓶が転がっている。一体どれだけ飲んでいるのだろうか。
「アグライア、いる?………うわ酒臭っっっっっ!!!!」
「ごめんねグレーちゃん、その流れはさっきやったの。」
「すみません、大きな声は控えていただけませんか?頭に響くので……。」
「え、ああごめん?で、アレどうしたの?普段からは想像もつかない感じになってるけど。」
「あたちも分からないの。でも帰ってきてからずっとあの調子で…。」
「ううっ……セファリア……。どうして戻ってきてくれないのですか……?私はこんなにもあなたを……。」
「なんか始まったけど。」
「なるほど、どうやら久しぶりにフェルちゃんに会ったせいで限界化ちてるみたいね。」
「久しぶりってどれくらい?」
「500年から600年くらいかちら。その間は一度もあってないはずよ。」
「半神の時間感覚おかしいよ。」
そんな会話をしている間にもアグライアはペースを落とさず飲み続ける。
「小さい頃は大きくなったら私のお嫁さんになるって言ってくれたのに…。」
酔っ払いの妄言である。そのような事実は一切ない。
「娘が反抗期迎えた親みたいなこと言い始めた。」
「ライアちゃん、あなた疲れてるのよ。」
「…………師匠達も飲みませんか?セファリアの可愛い話がまだまだあるんです。聞いてください。」
「あたちはお酒飲めないから…。」
「私も遠慮しとく。なんか今のアグライアめんどくさいし。」
「めんどくさい……。そうですよね、昔のことをいつまでも引きずって酒に逃げるこんな私が一番めんどくさいですよね。でも彼女にも悪い所はあってぇ……。」
「めんどくせぇ…………。」
「なんで怒ってるのか言ってくれないから私もどこを直せばいいのか分からなくなってしまってどうにもならないんですよ!!私はセファリアを愛でたいだけなのに!!!」
「ライアちゃん、一回落ち着こう?ほら、お水飲んで?」
「聞こえていますかセファリア!!好きです結婚してください!!!!!あわよくば○○○○○○○○とかもしたいです!!!!!」
「ライアちゃん!?それ以上は本当にダメよ!!??」
「私もう帰っていい?」
「待ってください。あなたにも頼みたいことがあります。」
「絶対碌なもんじゃないな。」
「コレを…付けてくれませんか?」
とても真剣な顔で懐から取り出した猫耳を星に手渡す。
「……………………………………。」
「その上で『アグライアおねーちゃん、大好き♡』って言ってみてもらえませんか?なんというかこう……生意気な子猫みたいな感じで。」
「……………………………………。」
何かを諦めたかのように、黙って猫耳をつける。目が死んでいるように見えたのは、きっと気のせいではないだろう。
「………(つけるんだ)。」
そして大きく息を吸い込み……
「アグライアおねーちゃん!だーいすき♡」
「チェンジで。」
「表出ろこの野郎!!!!私のバットの錆にしてやる!!」
「落ち着いてグレーちゃん!!気持ちは分かるけど暴力はダメ!!」
てんやわんやしながらも、アグライアはその後も飲み続け…。
「……もうなくなってしまいましたか。師匠。」
「どうちたのライアちゃん?」
「お酒買ってきてください。あとおつまみも適当にお願いします。」
「ライアちゃん、ぶつわよ。」
「百界門を使えばすぐでしょう。」
「そんな用途で使っていいと思ってるの!?」
「可愛い弟子のお願いですよ?」
「ダメなものはダメ!これ以上は許ちません!!お水飲んで寝ること!!」
「嫌です。私はまだ飲めます。」
「こっそりしまってあるフェルちゃんのグッズ全部捨てるわよ。」
「すみませんでした。それだけは勘弁してください。」
「なんて情けない決着だ………。」
どうやら、師匠の方が幾分か上手だったようだ。
その夜。
「うわ、酒瓶まみれじゃん。どんだけ飲んだのさ…。」
静まり返った部屋にサフェルの声だけがこだまする。
「グレっちに裁縫女が大変なことになってるって言われたから一応様子を見にきたけど、思ってたのとだいぶ違うな。………ん?」
ふと机の上に目をやると、グラスが二つ並んでいた。どちらのグラスも金を基調とした煌びやかなものだ。
「おー!流石裁縫女!グラスもいいの使ってんじゃーん!どれどれ〜、値打ちはいかほどかな〜?」
グラスを手に取って隅々まで観察する。見たところ相当貴重な素材が使われているようだ。
「うわ、こんなレア物使っちゃうの!?金持ちの考えることは違うねー!……お?何これ?」
グラスの底に文字が彫られていることに気づく。片方には『アグライア』、そしてもう片方には『セファリア』と。
「……………………っ。」
そっとグラスを机の上に戻す。
「……いくらなんでもあたしのこと好きすぎでしょ。」
小さくそう呟いて、二つのグラスに酒を注ぐ。
そしてチン、とグラス同士のぶつかる音。
「かんぱ〜い。………なんちゃって。」
だが相手は目の前にいない。今はまだ、いてはいけないのだ。
「全部終わったら、今度は一緒に飲んであげる。」
「またね………ライア。」
人の気配が消え、部屋は再び静けさを取り戻す。
机の上に黄金色の酒で満たされたグラスと空っぽのグラスが、寄り添い合うように並んでいた。