鶴田真由つるたまゆ
俳優
アジア海道“不思議の島々”をゆく~鶴田真由 2000キロの旅~(2012)
出演
インタビュー
アジアの海に浮かぶ不思議な島々を一か月かけて訪ねた番組です。行ったのは、インドネシア・バリ島の東にあるヌサントゥガラ諸島。その中で忘れられないのが、一番最後に訪ねたライジュア島です。インドネシアは織物が盛んですが、この島は特に織物と呪術が密接に関わり合っていました。
魔女を信仰していて、一番大きなお祭りが「タオレオ」というお葬式なんです。私たちが滞在している間に村の長老が亡くなりました。月の満ち欠けでお祭りをするそうで、葬儀の日程に合わせるために一度日本に帰ってから再び島を訪れ参加したのですが、不思議な体験がとても多かったです。
タオレオは一週間くらいかけて行われるんですけど、死体は腐敗していくので、代わりに人形を作るんです。その人形が安置されている場所にイカットと呼ばれる織物を何枚も吊します。それをかける順番も決まっているそうなんですが、イカットの模様の意味について詳しく聞こうとすると、みんな口をつぐみました。なぜなら、魔女が深く関わっているようで、話すとたたりがあるそうなんです。
タオレオにはいけにえの儀式があり、四つ足の動物たちをお祭りの期間中に何頭も殺すんです。生き物を殺すには、ものすごいテンションが必要で、その殺気がすごかったのを覚えています。
撮影が終わり、翌日帰国をするというタイミングで、船が出ないと言われました。一日多く滞在することになったのですが、その日の夜、この島を守る魔女二人のうち、一人がいるとされる海辺の洞窟に呼ばれているような夢を見たので、翌朝そこへ行きたいという話をしました。島の人たちの間では今でも魔女は生きていると信じられています。なので、その場所は現地の人たちもほとんど足を踏み入れることのない大聖地なのです。島の人から「命をかけても行きたいか」と覚悟を聞かれました。夢を見たからとは言えなかったので、「撮影が無事に終わったお礼を言いたい」と伝えたところ、島の人たちで話し合いが行われて、行かせていただけることになりました。
洞窟に近づくと、入ってから出るまで絶対に口をきいてはいけないと教えられました。巨大な岩の上から私たちを見下ろす3頭の鹿、女性器のような形の洞窟の入り口。その光景はとても神秘的でした。
洞窟に入り、日本で参拝する時のように私が手を合わせてお祈りをすると、普段はそんな祈り方をしないはずの島の人たちも、私に倣って参ってくれていました。信仰は違うけれども、同じように祈りを捧げてくれた姿に、アジアの国の人たちの懐の広さを感じました。
洞窟を出ると、海が真っ赤に染まるほどの夕日が目の前にあり、涙があふれました。行く前は、「私が行っていいのか」といろんな重圧がのしかかってきていたので、その夕日を見た瞬間に「来て良かった」と思うことができたように思います。
そして、飛行機に乗った夜はちょうど満月で、日本までの間ずっと月がついてきていたんです。もう二度と、あんな体験はできないだろうなと思っていました。そしたら、この翌年に行った『太平洋の楽園をゆく 鶴田真由 ミクロネシア 魅惑の島めぐり』という番組になった旅でも、太陽のエネルギーの強い楽園を感じる祭りに参加させていただくことができました。
まるでインドネシアの旅と「陰陽」になっているかのようでした。また不思議な旅に出かけたいですね。
鶴田真由つるたまゆ
俳優
1970年生まれ、神奈川県出身。テレビドラマ、映画、舞台など話題作に次々出演し俳優として活躍。主な出演作は、映画『きけ、わだつみの声 Last Friends』『梟の城』『恋する彼女、西へ。』『海を駆ける』など。NHKでは、大河ドラマ『花の乱』『徳川慶喜』『篤姫』、土曜特集ドラマ『菜の花の沖』、時代劇シリーズ『ゆうれい貸します』、月曜ドラマシリーズ『恋する京都』ほかに出演。『アジア海道“不思議の島々”をゆく~鶴田真由 2000キロの旅~』など、世界を巡るドキュメンタリーにも出演。2023年度前期 連続テレビ小説『らんまん』では、東京で印刷所を営む大畑義平の妻・イチを演じる。