第24話 勇者、手遅れを悟る
その日、リオンの足取りは軽かった。
皇妃メイラと聖母ルイシャに真実を伝え、どうにかすると言ったのだ。
その言葉にリオンは安堵した。
もしかしたら、あの男に染められてしまったネルカやフェリシアも正気に戻るかも知れない。
否、彼女たちだけではない。
血の繋がっていない自分にも精一杯の愛情を注いでくれた母、優しく接してくれた姉、懐いてくれていた妹。
ネルカ同様に奪われてしまった彼女たちとも、前のように仲良く過ごせるかもしれない。
そう思っていた。
しかし、いつまで経ってもメイラたちからの連絡は来なかった。
自室でアオイと遊びながら待つのも暇で、遂にリオンは様子を見に行こうと決心する。
そうしてリオンがやってきたのは、人気のないネドラ城の一室だった。
『んっ♡ あ、ちょ、馬鹿っ♡ もっと優しくしろよっ♡』
『聖母様ったら♡ 可愛い反応ですね♡』
『くっ♡ ネルカっ♡ 今すぐやめなさいっ♡ 今ならまだお説教で許して――んっ♡』
『ああもうっ♡ うるさいわねっ♡ お母様だって楽しんでるくせにっ♡』
ドアの前で足を止めたリオンは、その向こう側から聞こえてきた声に心臓が大きく鼓動する。
まさか、あり得ない。
メイラとルイシャはネドラ帝国でも指折りの実力者だ。
いくら騎士を相手に無双する強さがあっても、リオンとそう年齢の変わらない子供を相手にして負けるわけがない。
そうだ、きっとそうだ。
それに扉の向こう側から聞こえてきたのは、ルイシャやフェリシア、メイラやネルカの声だった。
きっと四人で仲良く何かのボードゲームでもしているに違いない。
まるで手を叩いているかのような乾いた音が部屋の中から響いてくるが、そうに決まっている。
リオンは自分に言い聞かせて、部屋の扉をノックした。
すると、慌てて中からルイシャが出てきた。
「っ、お、おう、リオンか。どうしたんだよ?」
相変わらず男勝りな口調で快活な笑顔を見せるルイシャにリオンは安堵する。
しかし、それは一瞬の出来事だった。
よく見るとルイシャの服が乱れており、呼吸も荒くなっていて、汗を掻いている。
普段は欠片もしない濃密な『女』の匂いがルイシャから漂ってきて、リオンは思わずドキリとしてしまった。
「あ、あの男はどうなったんですか?」
「え? あ、あー、アイツな。アイツならもう帰ったぜ」
単刀直入にリオンが問うと、ルイシャは頬を掻きながら視線を逸らして言った。
頬を掻く仕草。
それはルイシャが何か隠し事をする時に見せる癖だった。
「あ、安心しろって!! アイツならオレがお前の分までしっかりボコボコにして分からせておいてやったからな!!」
「そ、そう、ですか」
「でもまあ、何だ。お前が言うほど悪い奴でもなかったぞ?」
「……え?」
ルイシャの放った相手の肩を持つような発言にリオンは思考が真っ白になる。
「そ、それは、どういう……?」
「あ、いや、お前の言ってたことが嘘っぱちだって言ってるんじゃねーぞ? ただこう、アイツはちょっと誤解されやすい奴なんだよ」
「ご、誤解って!! 僕は本当のことを――」
と、その時だった。
不意に部屋の中からメイラの悲痛な叫び声が聞こえてきたのは。
『お、おいっ♡ ルイシャっ♡ 私一人でこの三人の相手は身が持たんっ♡ 早く戻れっ♡』
三人。
ルイシャで遮られていて部屋の中の様子は何も見えないが、メイラは確かにそう言った。
リオンがルイシャに問う。
「あ、あの、中で何をしてるんですか?」
「あー、内緒だ。内緒」
「な、中に誰がいるんですか? メイラ様と、フェリシアとネルカと……」
「ちっ。うるせーな」
「っ」
ルイシャが豹変し、心の底から面倒くさそうに舌打ちした。
「別に誰がいたってお前には関係ねーだろ」
「そ、それは、で、でも……」
「あー、ったくもー!! 男のくせにゴチャゴチャうるせーんだよ!!」
「っ」
リオンがビクッと肩を震わせる。
ルイシャはリオンを怯えさせたことにバツが悪くなったのか、大きな溜め息を零した。
「その反応やめろよ。まるでオレがいじめてるみたいじゃねーか。お前のそういうところ、直した方がいいと思うぜ。男ならもっとアイツみたいにガンガン来いよ、ったく」
「……」
「あー、まあとにかく。アイツも反省してたし、許してやれよ」
リオンが何も言えずに硬直していると、ルイシャは興味を失い、扉を閉めて部屋の中に戻ってしまった。
その次の瞬間だった。
「ちょっ♡ おい♡ あんまり乱暴すんなよ♡ 別にオレは逃げたりしねーって♡」
明らかにリオンと話していた時とは違い、好きな相手にしか聞かせない声で誰かと話すルイシャ。
リオンは我慢できなかった。
扉の向こう側には誰がいて何をしているのか、それが知りたくて知りたくて、リオンは耐えられなかった。
音を立てないよう、リオンが静かに扉を開こうとしたその時。
「あら、リオンったら何をしているの?」
「え?」
後ろから声をかけられ、咄嗟に背後へ振り向いたリオン。
そこに立っていたのはリオンと直接血は繋がらずとも、精一杯の愛情を注いでくれた母――ノレアだった。
否、ノレアだけではない。
ノレアの後ろにはルナとユラもいて、軽蔑の眼差しをリオンに向けていた。
「……コイツ、エルト兄様を覗き見していたのです?」
「リオンくんにはそういう趣味が……。まあ、好みは人それぞれだし、ボクはいいと思うよ。覗きはどうかと思うけど」
「あらあら、二人とも厳しい言い方をしちゃメッよ」
欠片も関心のない眼差しを向けてくる家族たちにリオンは悟ってしまった。
あ、もうダメだ、と。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「優しかったギャル美女が寝取られて厳しくなるシチュに胸が高鳴る同志おる?」
エ「いや、いない」
「これは凄まじい脳破壊」「読者も脳を破壊された」「いや、いる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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