第20話 蛮族王子、失言する





「はあ♡ はあ♡ す、全て差し上げますわ♡ お金もカジノも♡ 私のすべて貴方様にお貢ぎ致しますわ♡ ですからどうか、私に貴方様の女を名乗らせていただくお許しをっ♡」


「許してやるよ、アカネ」



 アカネは俺の七日七晩に及ぶ『説得』でようやく堕とすことができた。


 さて、その後の話をしよう。


 俺はアカネを堕としたことで公爵家の財力をも遥かに上回るお金を自由に扱えるようになった。


 しかもアカネは要塞作りに必要な資材を値上げしやがった商人たちに借りがあるらしく、より安く買い叩くことができた。


 そうして要塞作りが再スタート。


 ユラが作ったクルス率いるホムンクルス軍団によって工事は着々と進み、ルナも魔導具の武器や防具を量産。


 もう勇者の生存がバレて俺の正体が露呈したとしても問題ないくらいには磐石だ。


 しかし、何故か妙に心が落ち着かない。



「どうしてだろうな、アンリ」



 建設中の要塞の視察と称して久しぶりにバンデッドへ帰ってきた俺は、アンリに相談をした。


 俺の問いにアンリが真剣に考え込む。



「それはマンネリというものではありませんか?」


「マンネリ?」


「たまに強い戦士が陥るものです。圧倒的強さ故に何でも手に入る、それ故につまらないと感じるそうです」


「……なるほど」



 言われてみれば、最近は何もかも上手く行きすぎていた気がする。


 主人公、リオンを生け捕りにしたことも、ネドラ帝国と全面戦争をするための備えも、全てが上手く行った。


 それは俺が予想だにしなかった出来事、つまりは刺激がないということだ。



「マンネリ、か。うーむ、どうしたものか」


「新たな目標を決めるのはいかがでしょう? 行商人や旅人ではなく、村や街を襲うのも面白いものかと」



 相変わらず思考が蛮族なアンリ。


 そして、それをちょっと楽しそうと思ってしまった俺も大概蛮族だ。


 だが、村や街を襲う、か。



「……面白そうではあるが、どうせならもっと大きい目標がいいな」


「では帝国と戦いますか? ちょうど要塞が完成しますし、ホムンクルスも着々と数を増やしています。勝負にはなるかと」


「たしかホムンクルスの数は二千だったか?」


「はい。ユラ様とクルス様が要塞地下に大規模なホムンクルスの製造所を作ったそうなので、数は今後も増え続けるでしょう」



 ホムンクルスは食事を必要としない。


 少量の水と日光があれば魔力を自動で生成して丸一日活動することができる。


 命令にも忠実で、恐怖を感じることもない。


 もし本格的な戦争をするなら確実にこちらが有利になるだろう。

 ネドラ帝国と正面から衝突しても負けることはないはずだ。


 俺はふと笑みが溢れる。



「……ふっ、ふふふ」



 いざという時のために色々と備えているのに、自分から戦争を仕掛けることを考えるとは。


 やはり俺も大概蛮族である。



「エルト殿下? どうなさいましたか?」


「いや、何でもない。いっそ世界征服でもしてやろうかと考えていたところだ」


「!?」



 俺の冗談に目を見開くアンリ。



「それは、素晴らしい目標かと。不肖アンリ、未熟な身ではありますが、全身全霊でお手伝いさせていただきます」


「ん? あ、ああ、そうか」



 アンリが恍惚とした表情で宣言する。


 世界征服は適当に言っただけだが、まさか本気だと思ってないだろうな。


 ……ないよな?



「エルト様♡ 少々昂ってしまいました♡ 久しぶりに可愛がってほしいです♡」



 ……まあ、あまり細かいことは気にしちゃダメだよな!!


 俺はアンリを抱くのであった。








 それから三ヶ月後。


 バンデッド城の地下牢に入れておいたはずのリオンが脱走した。











 時は少し進む。


 要塞が完成間近となり、エルトが女を抱きまくっていた頃。



「はあ、はあ、うっ」



 薄暗いバンデッド城の地下牢で、リオンは自らを慰めていた。


 奪われてしまった愛しい女を想いながら、自分がこうなった原因の男に抱かれている家族たちを思いながら。


 果てると同時に惨めな気持ちと悔恨、憎しみの混じった感情が押し寄せてくる。



「また、やっちゃった……」



 もう何度目かも分からない行為にリオンは思わず歯噛みする。


 その時だった。



「お元気そうですね、リオン様」


「っ、ア、アンリ、さん……。こ、今度は何の用ですか?」


「釈放です」


「……え? 釈、放?」



 リオンは一瞬、その言葉の意味を理解することができなかった。



「はい。牢屋の鍵は壊しておくので、好きに出て行っていいですよ」


「ど、どういう風の吹き回しだ!!」


「あら、別に何も企んでませんよ? ただいつまでも囚われている貴方を気の毒に思っただけです」



 何を考えているのか分からない笑顔で言うアンリにリオンは不信感を募らせる。


 しかし、アンリはそれ以上何もせず、静かに地下牢から出て行った。

 リオンは警戒しながらも、アンリが破壊した牢屋の扉を開けて外に出る。



「何が目的か分からないけど、チャンスだ!!」



 リオンは牢屋を抜け出し、そのままバンデッド城から脱出する。


 それからリオンは森へと走った。


 急いで帝都まで戻り、バンデッド王国の存在や騎士たちを虐殺した真犯人を皇帝に伝えねばならない。


 全ては勇者として善良な人々を守るため。


 そこに復讐の念が混じっていることはリオン自信把握していなかった。


 リオンが走ることしばらく。



「な、なんだ、あの要塞……」



 凄まじい威容と存在感を放つ要塞を目の当たりにしたリオン。


 そして、その要塞のある点に気付く。



「この要塞、まさか帝国の攻撃を防ぐために作られている……?」



 バンデッド側に比べて明らかにネドラ帝国側が強固に作られている。


 一体どうやってこの要塞を作ったのか。


 商人や旅人を殺して物を奪うだけのバンデッドにこの要塞を作る技術があるわけない。

 リオンの脳裏に思い浮かぶのは大切な家族たちの姿だった。



(もしかして母上たちが……。いや、考えるのはやめよう。迂回して早く皇帝陛下にお伝えしないと!!)



 と、その時。


 考えながら走っていたリオンは、ドンッと勢いよく誰かとぶつかった。



「うわっ、だ、誰!? ――え、女の子?」



 リオンは咄嗟に拳を構えるが、すぐにその警戒を解いた。

 おそらくリオンとぶつかった拍子に倒れてしまったのだろう。


 青みがかった美しい白髪の美少女だ。


 しかし、その少女にはもふもふなキツネの耳と三本の尻尾が生えていた。


 獣人である。



「き、君は……?」


「……吾はアオイ」



 それがリオンとアオイの出会いだった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「うーん、これはエルトが悪い」


エ「え?」



「エルトやっちまったな」「アンリが怖い」「アオイが怪しすぎる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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