第12話 蛮族王子、爵位を得る






 俺が賊の手から聖女と皇女を救い出したことにする計画。


 これは大成功を収めた。


 というか、アンリのこの計画は成功することが決まっているのだ。


 何故なら――



「こちらにいるエルト君が私を賊から救い出してくださったのです!!」


「本当よ、お父様!!」



 当の聖女と皇女、フェリシアとネルカがそう証言するからだ。


 すでに真実を知る騎士は一人もいない。


 勇者に関しても未だにバンデッド城の地下牢に囚われ、アンリが世話をしている。


 加えてアンリの提案で、成人したばかりで調子に乗って俺を襲ってきた黒髪のバンデッド王国民の顔を潰し、死体を森に転がしておいた。


 勇者は死んだと思われるだろう。


 俺の正体や行為が露呈する可能性はこれで極めて低くなった。


 ……と言いたいところだが、この世界には魔力を使った占いであらゆる隠し事が暴かれることがある。


 作中のイベントでも占い師の力を借りて人に化けた魔物の正体を見破ったりしてたからな。


 もしかしたら、いつか死体が勇者ではないとバレるかもしれない。


 そうなれば勇者の捜索が始まり、バンデッド王国が見つかって俺の正体が露呈する可能性だってある。


 だから死体の偽装は、あくまでも時間稼ぎ。


 その間にネドラ帝国を相手取れるような力を手に入れる。


 そんなことを露知らず、俺と皇帝の謁見に同席していたネドラ帝国の大臣らが亡くなった勇者の陰口を叩く。



「まったく、勇者殿は何をしておられたのか」


「女神の加護があるくせに賊に遅れを取るとは情けない」


「どうするのだ、魔王が復活したら我らは……」



 ざわめく大臣たち。


 それを制したのは他ならぬ彼らの主、ネドラ帝国の皇帝だった。



「お前たち、あまりそういう話を恩人の前でするものではない」



 流石は皇帝と言うべきか。


 本人の強さは大したことなさそうだが、覇気と呼べるものをまとっている。


 皇帝は俺を見つめ、穏やかな表情を見せた。



「重ねて礼を言う、エルト殿。貴殿さえよければ、報償金と爵位を与えよう」


「「「!?」」」



 皇帝の一言が再び大臣たちをざわめかせた。


 大臣たちが反応したのは報償金ではなく、爵位の方だろう。


 普通、爵位はそうポンと渡せるものではない。


 何世代にも渡って国に忠義を尽くしてきた者に与えられるものが爵位だからだ。


 いくら聖女と皇女を救ったとはいえ、どこの馬の骨かも分からない子供に易々と与えていいものではない。


 大臣たちが皇帝に諫言する。



「へ、陛下!! それはさすがに……」


「何だ、そなたたちはネルカの命が爵位よりも軽いと申すのか?」


「い、いえ、そうではありませんが!!」



 どうにか説得しようとする大臣と意地でも主張を曲げない皇帝。


 話が平行線になりかけた、その時だった。



「そもそも本当にそちらの少年がお二人を救ったという話が本当かどうかも怪しいですがな」



 一人の大臣が嫌味ったらしい物言いをする。


 マッチポンプがバレたのか、それとも疑われているのか。


 俺はその大臣に向かって問う。



「それはどういう意味でしょうか?」


「おや、お子様には難しかったですかな? 我が国の騎士や聖騎士ドランドを討った賊から聖女様と皇女殿下を救い出した? ただの子供が? 到底信じられませんな」



 まあ、正論だな。


 普通に考えるなら俺のような子供にできると思うはずがない。

 しかし、マッチポンプがバレていないなら説得するのは容易だ。


 俺はちょっぴり本気で床を踏む。


 その次の瞬間、大理石の床が砕けて謁見の間を重苦しい空気が支配する。



「これでは証明になりませんか?」



 俺の問いに答える者はいない。


 というより、プレッシャーをもろに食らって答えられないのだろう。


 と思っていたら……。



「エルト殿、どうかそれくらいで許してやってほしい。我が国の大臣の非礼、代わりに余が謝罪しよう」


「こ、皇帝陛下!?」



 皇帝が謝罪してきた。


 常人なら言葉すらロクに発せられなくなる威圧を受けたのに、特に焦った様子もなく皇帝は口を開いた。


 やはり大国の支配者となると、肝の据わり方が違うのだろうか。


 俺は威圧するのをやめた。



「いえ、こちらこそ申し訳ありません。床を壊してしまいました」


「よいよい。して、爵位と報償金の話に戻るが、受け取ってもらえるか?」


「はい。今後は帝国に忠誠を誓いましょう」



 俺の言葉に満足そうに頷く皇帝。


 こうして俺は皇帝から男爵の地位と多額のお金を貰った。


 その日の夜。


 俺は皇帝の計らいでお城に泊めてもらうことになり、バンデッド城にあるものより何倍もふかふかのベッドに身を委ねた。


 このベッドでエロいことしたら最高だろうな。



「のぅ、主殿♡ 久しぶりに二人っきりじゃな♡」


「そうだな」



 メルトレインが大きなおっぱいを俺に押し付けながら猫なで声で媚びてくる。


 フェリシアとネルカはいない。


 さすがに二人が俺の女ということが露呈したら色々とまずいからな。


 アンリも今はバンデッドに残って勇者の世話をしているし、この場にいるのは俺とメルトレインの二人だけだった。



「あ、主殿っ♡ 激しすぎなのじゃっ♡ もう妾っ♡ 壊れちゃうのじゃあっ♡」


「聖剣は壊れないだろ」



 自分から誘ってきたくせにメルトレインはすぐダウンしてしまった。


 というか、俺の持続力が上がっている。


 最近は何人もの女をまとめて抱いていたからか、相棒も成長したような気もする。



「しかし、物足りないな……」



 気絶してしまったメルトレインを朝まで抱いてもいいが、反応がないと面白くない。


 やることもないし、今日は早めに眠ろうか。


 そう思った次の瞬間、誰かが俺の部屋の扉を軽くノックしてきた。


 慌てて外用の人当たりがいい笑顔を浮かべて扉を開ける。



「はい、どちら様で――!?」



 扉を開けた先に立っていた人物を見て、俺は思わず硬直してしまう。


 そこに立っていたのは、長身の美女だった。


 床まで届きそうなほど長い紫色の髪とアメジストのような瞳。


 服がはち切れんばかりに大きなおっぱいと細く括れている腰にムチムチの太もも、それから安産型のお尻。


 まとうドレスは露出が多いものの、決して下品ではなく上品さすら感じる。


 俺はその美女のことをよく知っていた。



「はじめまして、わたくしはノレア。リオンの母でございます」



 彼女の名前はノレア。


 【ファイナルブレイブ】ではフェリシアに次いで人気を集めた、未亡人ヒロイン。


 主人公の母親である。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「最近はママ属性が最も響く」


エ「そ、そうか」



「またマッチポンプしてて草」「次のターゲットが決まったか!?」「作者の性癖は定期的に変わるのか……」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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