やられ役の蛮族王子が主人公に逆襲したら原作崩壊したんだが。~ひたすら努力して鍛えまくった結果、いつの間にかラスボスすら上回る強さになっていた~

ナガワ ヒイロ

第1話 蛮族王子、決意する





「そなたの名は今日からエルトだ。バンデッド王国の王子として、よく殺し、よく奪い、よく犯すのだぞ!!」



 よく殺し、よく奪い、よく犯す。


 俺を抱き上げるオッサンの蛮族がすぎる台詞に思わず絶句した。


 そして、自分の身に起こっている異変に気付く。



(俺、赤ん坊になってる!?)



 俺はエッチなゲームをこよなく愛する平凡な二十歳の大学生だった。

 それがどういうわけか、今では赤ん坊になってしまった。


 理解不能だ。


 しかし、夢にしては俺の顔を覗き込む父親と思わしきオッサンの顔が妙にリアルで怖い。


 これは間違いなく現実だろう。


 でもまあ、どうやら俺が転生したのはバンデッド王国なる国の王子みたいだし、嘆く必要はあるまい。


 ……ん? バンデッド王国の、エルト王子?



(も、もしかして【ファイナルブレイブ】のエルト王子か!?)



 偶然だと思いたい。


 エルト・バンデッドは、俺が前世で最もやり込みまくったエッチなゲーム【ファイナルブレイブ】に登場するやられ役の蛮族王子である。


 バンデッド王国は何というか、蛮族の国だ。


 強ければ何をしてもいい、人を殺したって罪には問われない。

 むしろ弱い奴を間引くために積極的に殺そうという風潮すらある。


 ああ、子供は例外ね。


 バンデッド王国は十二歳で成人になるが、それまでは一切の攻撃を禁じられている。


 逆に言えば、それまでに強くならないと家族だろうと容赦なく殺しにかかってくるくらいには蛮族なのだ。



(まあ、エルトなら心配ないか)



 エルトは才能の塊、という設定だった。


 剣と魔法を誰から教わるでもなく、感覚で習得するくらいには。


 ただ、忘れてはならない。



(でもエルトって、なんだよなぁ)



 当然ながら【ファイナルブレイブ】には主人公がいる。


 魔王を倒す使命を背負った勇者の主人公だ。


 物語の中盤、主人公ら勇者一行はバンデッド王国に魔王を倒すための武器があることを知り、この地にやってくる。


 バンデッド王国は身内すら躊躇なく殺したり、犯したりするような国民性だ。


 他国の人間が入り込もうものなら戦いになる。


 特に【ファイナルブレイブ】はエッチなゲームなだけあって、主人公が連れている仲間は見目の整った美少女美女ばかり。


 バンデッド王国民は大喜びで主人公らに襲いかかるのだ。


 でもまあ、そこは主人公。


 エルトを含めたバンデッド王国民をあっさり返り討ちにしてしまい、むしろヒロインたちからの好感度が上がる。


 要はヒロインとのエッチをより興奮できるようにするための舞台装置。


 やられ役とは、そういうことだ。



(よし、今からでも真面目に努力して強くなろう。死にたくないし)



 エルトは才能の塊だったが、その強さ故に驕って努力をしなかった。


 しかし、赤ん坊の頃から真面目に努力すれば、きっと勇者の主人公にも負けないくらい強くなれるはず。


 まあ、まだこの世界が【ファイナルブレイブ】の世界だと決まったわけでもない。


 偶然の一致という可能性もあるし、万が一に備えて強くなっておこう、程度でゆるーく生きていこう。


 そうして何となく第二の人生をどう生きるか決めた、まさにその時だった。



「我が妻、クインディアよ」


「何でしょうか、陛下」



 俺が寝かされているベッドの横で俺の両親と思わしき男女が語らう。


 男の方は俺を抱っこしていたオッサンだ。


 そして、女の方は思わず息を飲みたくなるような美貌の持ち主だった。


 彼女の名前はクインディア。


 黄金に輝く長い髪と血のように光る真っ赤な瞳が印象的な美女だ。


 大きくて柔らかそうなおっぱいやムチムチの太ももを始め、キュッと細く締まった腰や安産型の肉付きがいいお尻等々……。


 更には性的な魅力に溢れたそれら全てを強調するような露出度の高い衣装が最高すぎる。


 ゲームではバンデッド王国最強のエルトを倒した主人公を誘惑し、濃厚なエッチをするシーンがあるキャラだ。


 倒した敵の母親というシチュエーションが個人的に物凄く興奮したのでよく覚えている。


 赤ん坊の横で父と母が何を話すのか気になって、俺は眠ったフリをしながら様子を窺うことにしたのだが……。



「お前はもう用済みだ」


「うふふ、こちらの台詞ですわ」



 次の瞬間、父は躊躇わずに大剣をクインディアに向かって振り下ろした。

 クインディアが横たわっていたベッドが真っ二つになる。


 クインディアは父の攻撃を予測していたのか、難なく回避していた。


 刹那、クインディアが父に肉薄する。



「ぐふっ!! き、貴様っ!!」



 クインディアはどこからか取り出したナイフを父の胸に突き刺した。


 父が口から血を吐き出し、それを見たクインディアが嘲笑うように言う。



「わたくしが陛下の奇襲を予想していないとでも思ったのですか?」


「ま、待っ――」


「命乞いなんて、そんな情けない真似はしないでくださいませ。さようなら」



 父の胸に刺した短剣をぐりっと捻り、トドメを刺すクインディア。



「アンリ、そこにいますか」


「はっ」



 クインディアに呼ばれて部屋に入ってきたのは、空色の瞳が綺麗な銀髪ショートカットの幼い少女だった。


 あ、そっか。バンデッド王国には彼女がいることを完全に忘れていた。


 部屋に入ってきた少女の名前はアンリ。


 【ファイナルブレイブ】では中盤で仲間になるヒロインだ。


 ゲーム本編の開始は十数年後なので、まださすがに幼いが、アンリは将来ボンキュッボンの美少女になる。


 主人公の仲間に加わることもあってエッチシーンも多い人気ヒロインだった。


 クインディアがアンリに命令する。



「陛下の、いえ、元陛下の死体を片付けておきなさい。今日からわたくしが女王です」


「おめでとうございます、クインディア様」


「ありがとう。それとアンリ、貴女にはエルトのお世話を任せます」


「畏まりました」



 人を殺したにも関わらず平然としているクインディア。


 目の前に死体があっても動じないアンリ。


 前世では考えられないような光景に、俺は思わず泣きそうになる。


 クインディアやアンリがいる時点で分かっていたが、確定だ。

 この世界は紛れもなく【ファイナルブレイブ】の世界で、俺はやられ役の蛮族王子に転生してしまったのだ。


 怖すぎる。


 これは勇者とか関係なしに絶対に強くならなくちゃいけない。

 少なくとも誰も反抗しようとは思わないくらいには強くならなきゃダメだ。


 何となくではなく、俺は確固たる決意を抱いた。



「うふふ、エルト♡ お前が私よりも強くなった時が楽しみですね♡」



 返り血を浴びたクインディアから不意に向けられる眼差しにビクッとする。


 俺がその言葉の意味を知るのは、もう少し先の出来事であった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「蛮族ママとか最高やんけ」


エ「エロいより怖いが勝る」



「うーん、これは蛮族」「クインディアさん!?」「この作者はほんま……」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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