性的少数者への攻撃に利用される「子ども」 その戦略が効果的な理由

聞き手・田中聡子

 「子どもが同性愛に誘導される」「子どもが性暴力の被害に遭う」――。性的マイノリティーを攻撃するために繰り返し利用されてきたのが、「子ども」です。「子ども」が持ち出されることにどんな意味があるのか。性的マイノリティーに関する情報発信に取り組む一般社団法人「fair」代表の松岡宗嗣さんに話を聞きました。

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1970年代のアメリカでも

 「子どもがかわいそう」は、マイノリティーを抑圧するために政治的かつ戦略的に利用され続けています。一般の人にも伝わりやすく、「怖い」「危ない」という不安が広がってしまう。「子どもを守らなければ」という社会的合意と結びつき、差別や抑圧が目的で広められた言葉であっても否定しづらいものです。

 1970年代の米国で、歌手のアニタ・ブライアント氏がつくった反同性愛運動の団体名が「Save Our Children(私たちの子どもを守れ)」です。「子どもが同性愛に誘導される」「子どもが性被害に遭う」という訴えを繰り広げました。最近は、同じ言葉がトランスジェンダーへの攻撃に使われています。昨年の米大統領選でトランプ氏がトランスジェンダーを攻撃する発言をしたのは、性的マイノリティーに関する学校での教育などに反対する「Moms for Liberty(自由を求めるママたち)」という保守系団体の集会でした。

猛烈なパターナリズム

 日本でも、ジェンダーに関するテーマで、「子ども」が何度も持ち出されています。2000年代の男女共同参画を「学校のトイレや更衣室が男女共用になる」と言ったり、学校での性教育が「子どもには早すぎる」と進まなかったり。米国と同様に、同性愛やトランスジェンダーを抑圧する時にも持ち出されますし、選択的夫婦別姓の議論でも「親と名字が異なる子どもがかわいそう」という話が出てきます。

 この問題が根深いのは、「子ども」となったとたんに、普段は多様な個人の生き方を尊重する人であっても、「かわいそうだ」という感情に流されやすいことです。パターナリズム(父権主義)がものすごく強い。実際、子どもは弱い立場なので、「子どもの育ちを支える」という考え方は必要ですし、社会的合意もあります。だから多くの人が、子どもに少しでも危険があるものは遠ざけたい。特に性的なものには敏感で、差別や偏見につながりやすい。自分にとって未知な存在を性暴力加害者に結び付けがちです。マイノリティーを攻撃する人はそれを戦略的に利用しているのですが、受け手もこの認識が抜け落ちています。

 ですが、不安を感じている人を「間違っている」と突き放すべきではないと私は考えています。子どもの性被害のニュースがあふれる社会です。不安を抱いてしまうこと自体は受け止め、不安の根源を知り、社会を改善していかなければなりません。ただ、その不安を性的マイノリティーにぶつけても何の解決にもならず、マイノリティーの実態を知れば、多くはデマや偏見だと分かるでしょう。実際、「同性カップルの子どもはかわいそう」という言葉は、世界各地で同性婚の法制化が進み、同性愛者の実態が広く知られるようになったことで、以前に比べて通用しなくなっています。

 人々の感情を動かす分かりやすい言葉に対し、「歴史的にはこうなんです」「マイノリティーの実態は違います」という反論はどうしてもかき消されやすく、マイノリティーとマジョリティーというパワーバランスの不均衡がある中で、「子ども」を利用した感情的な言説にあらがうことも難しい。ですが、「子どもがかわいそう」という言葉は、むしろ現実に存在するマイノリティーの子どもを不可視化し、抑圧しています。「親の年収がこれくらいないと子どもがかわいそう」「親が美しくないと子どもがかわいそう」と置き換えれば分かるはずです。「子どもがかわいそう」と言う人こそが、子どもをかわいそうな存在にしていると気づいてほしいです。

松岡宗嗣さん

 まつおか・そうし 1994年生まれ。性的マイノリティーに関する情報発信や差別禁止の法制化に取り組んできた。著書に「あいつゲイだって」。

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