広島を拠点に活動する映画監督の時川英之さんが手がけた「惑星ラブソング」が、広島県内での先行上映に続いて全国公開になった。原爆という重いテーマに初めて挑んだ作品は、ファンタジーの要素を盛り込み「新しい平和の物語を世界に届けたい」という思いを込めた。気付かなかった広島を見つける機会にもなったという。
広島で出会った米国人観光客を案内することになった若者。物語は過去と現在が交錯しながら進み、幻と現実が溶け合う。浮かび上がる原爆投下前の光景。忘れてはならない記憶と、広島が大切にしてきたもの。平和の歌が空に響くとき、人々は奇跡を見る――。
中心人物の男女は若手俳優の曽田陵介さんと秋田汐梨さん。八嶋智人さんや川平慈英さん、谷村美月さんら実力派の俳優も出演する。時川監督は脚本も担い、プロデューサーを横山雄二さんと務めた。
宇宙にまで話が広がるエンターテインメント性の強い作品。「ネガティブな反応も覚悟しました」。平和をテーマにした映画は説教臭くなりがちで、「どうしたら見てもらえるか」を考えて構成を練った。
メディアなどを通じて入ってきた反応は――。「まちに出ると広島が輝いて見えた」「どういうまちに生まれ育ったのかを認識できた」「平和教育の教材にしてはどうか」。訪れた上映館では、すすり泣く声も聞こえた。「きちんと平和について描いていることが、広島の皆さんに伝わったのだと思います」と手応えを感じる。
時川監督は1972年生まれで広島市内の高校を卒業後に上京。国内外で映画やドキュメンタリーの製作などに関わり、2012年から故郷の広島に拠点を移した。
「平和に真正面から取り組むのは荷が重い。避けていました」。心境が変わったのは22年2月からのロシアによるウクライナ侵攻。核兵器の使用が現実味を帯び、突き動かされるようにデモにも参加した。「もし核兵器が使われたら、広島や長崎の人はどう思うだろうか」。そんな思いから構想が始まった。
にぎやかで、楽しく、美しい広島。それが伝わる場面をふんだんに盛り込んだ。撮影であちこちを訪ね、このまちを訪れる外国人の多さに改めて気付いた。「真剣に広島に向き合ってくれる。ありがたいと思いました」
被爆80年。これからを継ぐ世代の1人として、映画ならではの手法で新しい物語を作り上げた。多くの人に鑑賞してもらうことを期待している。【宇城昇】