戦後80年の今年は、先の大戦を題材とした映画が「ドキュメンタリーを含め15本前後公開されるのでは」(映画関係者)ともいわれる。13日から全国公開された時川英之監督(52)の「惑星ラブソング」は、そのうちの1本だ。時川監督は、広島市を拠点に活動。被爆80年の記憶を風化させず、平和な未来のため、今できることを考えようと語り掛ける映画になっている。
きっかけに
若い俳優を中心に、宇宙人や時間旅行などを絡めてファンタジー色が濃いのが特徴だ。
「楽しく見た後、戦争と平和について考えてもらえたら、うれしいです」と話すのは、ヒロインのアヤカを演じた秋田汐梨(22)だ。
秋田は京都府出身。ティーン誌のモデルとしてデビューし、平成29年から俳優としても活動。ドラマ「3年A組 今から皆さんは、人質です」(日本テレビ系)や映画「惡の華」(井口昇監督)などに出演している。
一方、広島市出身の時川監督は、これが長編映画は5作目だが、すべて広島で撮った。脚本も自ら手掛けた。こんな話だ。
広島の若者、モッチ(曽田陵介)とアヤカ(秋田)は米国人観光客、ジョン(チェイス・ジーグラー)と出会い、広島の街を案内することに。一方、小学生のユウヤは夢の中で出会った少女に戦時中の広島の街へ誘われる。やがて、広島の過去と現在、幻と現実が融合し始める。
秋田は、オーディションで選ばれた。広島の原爆投下を扱った作品であることは、台本を手にして初めて知った。
「アヤカを演じるには、広島のことをもっと知っておくべきだ」
そう考えた秋田は、広島平和記念資料館に足を運ぶなど広島の原爆投下について学び始めた。
「学校の授業で触れただけでしたが、アヤカを演じたことで、より深く、より多く知ることができました」
未来を託す
アヤカは留学資金をためようと、広島の観光情報をSNSで拡散することに夢中になっている。
「アヤカは、やりたいことに向かって一直線に進んでいく」と秋田。「関西生まれのせいかな」と広島弁のせりふは難なくこなし、「ナチュラルだ」と時川監督にも褒められた。ただ、アヤカは英語が堪能という設定。こちらは「撮影中に何度も修正されました」と笑う。
苦労したのは、原爆ドームの前で撮ったクライマックスの場面だった。劇中ではドームの上に巨大な〝あるもの〟が現れるのだが、実際には何もない空を見上げての演技となった。どのぐらいの大きさのもので、視線はどこに向けたらいいのか。手探りの撮影だったが、楽しい思い出になった。
映画は、モッチやアヤカら若者に未来の希望を託して幕を閉じる。
広島では他に先駆け5月23日から上映開始。「見終わった観客の皆さんが、本当に良い顔をされていた」。上々の反応を秋田は喜ぶ。
「映画が伝えたいことが、ちゃんと伝わったのでは。これは幸せについて考えるハッピーな映画であり、改めて戦争について考える入り口になる映画でもあります」
新しい1歩
この春、大学を卒業した秋田。学生という〝わらじ〟を脱ぎ、俳優というわらじだけで歩くのは、デビュー後、初めての経験になる。
「役について考える時間が増え、さまざまな作品を見る時間も増えた。つまり、インプットとアウトプットの時間が増え、これはすごくいい変化だと思っています」
俳優として、さらなる飛躍が期待されるが、「これからは間とか空気感を大事にしていきたいです。せりふがない時間も、自分の内側から出るものでお芝居ができる人になりたい」と決意を語る。
22歳。同世代の俳優がひしめき合う芸能界だが、表現者として、さらなる深化を目指し、新しい一歩を踏み出したばかりだ。(石井健)
「惑星ラブソング」は八嶋智人、川平慈英、谷村美月らが共演。1時間42分。