フランスと日本の双方の精神科病院で入院経験がある女性(22)が「こちら特報部」の取材に応じた。多くの違いはあったが、女性が愕然 としたのは「日本の病院で不当な身体拘束を受けたこと」。拘束しないことを掲げる病院も出始めているが、縛りたがる日本の精神医療の構造は根本的には変わっていない。収容主義の「精神科病院大国」のレッテルを貼られたままで本当にいいのか。(木原育子)
◆家庭にも学校にも居場所がなく…
女性は日本人の両親のもと、2001年にパリで双子の次女として生を受けた。現地の小中学校を卒業し、姉とはフランス語、母親とは日本語、父親とは両方で会話するバイリンガル。どちらかというとフランス語のほうが得意という。
パリと言えば、華やかなイメージがあるが、女性が通ったパリ市内の小中学校ではアジア人ということで、人種差別によるいじめが絶えなかったという。
家庭内では異国で双子を育てる困難さを抱え、母親が心に不調を来すように。父親が外出すると暴れ、児童相談所が介入するなど「花の都」とは程遠い生活だった。
◆摂食障害で入院…献身的なケアに安心
家庭にも学校にも居場所がなく、食事を取りたいと思う気力をなくしていった女性。15歳だった16年春、身長154センチで、体重は一時19キロに。摂食障害と診断された。白血球の数値も落ち込み、一般病棟の無菌室の集中治療室(ICU)に運ばれる事態に。命の危機は脱したが、その後8カ月間、精神科病院に入院した。
だが、日本のようなスティグマ(負の烙印 )は感じなかった。「初めて人間扱いされた気がした。看護師さんは優しく、安心して過ごすことができた」。病室は個室15部屋で、看護師は3交代制。日中は8人で、準夜勤(午後6時〜午前1時)と深夜勤(午前1〜8時)帯は2人ずつ配置。各部屋にシャワーがあり、献身的なケアの姿勢に、食べることへの罪悪感も少しずつ消えていった。
精神科医のアドバイスもあり、環境を変えるため、母親と双子の姉はフランスに残り、女性と父親は16年12月に帰国。だが体調は改善しなかった。
◆隔離半年、身体拘束も…「どこが治療なのか」
日本の精神科病院への入退院を繰り返すように。18年2月からの入院では、外から鍵を掛けられて自分の意思で出入りできない「隔離」を半年間受け、そのうち2カ月半は身体拘束された。「日本ではこんなにも簡単に自由が奪われる。フランスでは経験しなかった事態。とても驚いた」と女性。オムツをはかされ、腹部と左右の手足を縛られる5点拘束を受け、「大変なショックだった。ものすごい抵抗感があったが、あきらめるしかなかった」。
起きていると自身の状況をさらされているようで、睡眠薬をもらい眠り続けた。「これのどこが治療なのか」とも感じた。
寝ている時はよく夢を見たという。「当たり前に手足を動かし、自由に走り回る夢」だ。ただ、目が覚めると「ガチャッ」。拘束具とベッドの柵が当たる冷たい音で現実に突き戻され、再び失望感にさいなまれることの繰り返しだった。
別の精神科病院に入院した時も、拘束と隔離を受けた。別人格が動き出すように自傷行為が始まってしまうような状況だったが、薬を飲むと、落ち着きを取り戻した。行為は収まっていたのに、看護師から報告を受けていた主治医ではない医師が拘束を指示。3日後に主治医が初めて状況を把握し、すぐに解除されたが、拘束理由を記す書類は「他害行為」となっていた。
「誰に聞いても暴れていた事実はなかった。自傷行為も収まり切迫性も全くなかった。誰のための何のための拘束だったのか」と悔しさをあらわにする。
◆隔離室で亡くなった友人をきっかけに訴え
女性が取材に応じることを決意したのは、自身の経験もさることながら、1人の大切な友人の死だ。
友人は日本の精神科病院に入院していた今年5月、隔離室で拘束されたまま世を去った。折れた骨が肺に刺さ...
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