<連載「措置入院のはざまで」①>全6回
精神医療特有の措置入院(強制入院)。退院後も措置を受けた経験に傷つき、苦しむ人もいる。一方、医療につながらなかったことで、事件被害者となった人の心の傷もまた深い。社会としてできることは何か、改めて目を向けたい。双方の立場から考えてみたい。
◇ ◇
2月下旬、1通の手紙が記者の元に届いた。「会って話を聞いてほしい」。措置入院をしたことがあるという夫婦からだった。
◆入院者の1%にも満たない、例外的な形態
措置入院とは、精神科病院の入院形態のひとつだ。精神科病院は、一般病院と違い、本人が入院に同意する「任意入院」と、本人は同意せず家族などが同意する「医療保護入院」、そして「措置入院」と主に三つに分かれる。
厚生労働省の精神保健福祉資料によると、2024年6月30日時点で全体の入院者数は25万525人。このうち、任意入院が12万6326人、医療保護入院が12万1468人と両者が圧倒的多数を占める。措置入院は1426人で、1%にも満たない存在だ。
かつ、この措置入院は警察などに保護され、自傷他害の恐れがある場合に、2人以上の精神保健指定医(精神科医)の診断で入院が必要と認められた場合、知事の決定で行われる。つまり、公的権力の強制力を伴った入院となる。
措置入院以外の入院形態は、地域に居場所などの社会資源があれば退院できるが、さまざまな理由で入院にとどまり長期化しているとして社会問題になってきた。だが、措置入院の実態はあまり語られず、置き去りにされてきた一面がある。
◆朗らかに迎えてくれた夫婦の経験談は…
そんな措置入院の経験者からの手紙。実態を聞かせてもらいたいと向かった。
「ようこそ」。朗らかに迎えてくれた夫婦。きれいに整頓された一軒家につつましやかに暮らしていた。
夫(68)は早稲田大学を卒業後、市役所に勤務。長年生活保護の担当ワーカーとして定年まで勤めた。妻(73)も小学校の事務職で長く働いた。2000年に家を構え、特段のトラブルもなく過ごした。
そんな2人が異変を明確に感じ始めたのは2019年から。異変とは「隣家からの嫌がらせ」。夫婦が書きためた記録には「騒音があまりにひどい」「眠れない」と切々とつづられている。最寄りの警察署に7月から4カ月間で4度出向いたが、被害届も受理されない。
それから1年半余り。2人は、ほとんどの人が経験しないであろう道へと向かっていく。(木原育子)
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