スーパー耐久富士、国内唯一「24時間の熱戦」◆記者がモータースポーツ初観戦

2025年06月05日13時00分

 「モータースポーツ」と聞いて何を思い浮かべるだろう。高速で走行する鮮やかな車体、最先端に挑戦する技術開発、コンマ1秒を削るドライバーのテクニック…。自動車やバイクを象徴する華やかな戦いだが、初心者にはハードルが高いとも思われがちだ。モータースポーツ初観戦の記者が、「スーパー耐久(S耐)富士24時間」(5月30日~6月1日)を取材。競技の魅力に迫った。(時事通信名古屋支社 福島寿紀)

スーパー耐久は「草の根」レース

 モータースポーツは競技性によって大きく2種類に分けられる。サーキットで複数の車両が同時にスタートして順位を競い合う「レース」と、公道や未舗装の郊外などで1台ずつ時間をずらしてスタートし、かかった時間で順位を決める「ラリー」。前者は「フォーミュラワン(F1)」などに代表され、ごう音での高速周回や抜き合いの駆け引きが見どころ。後者は「世界ラリー選手権(WRC)」などで、ダイナミックな走りが特徴だ。

 「誰もが参加できる『草の根レース』がS耐の魅力です」と話すのは、トヨタ自動車GRモータースポーツ事業部の江口直登室長。S耐はプロドライバー以外も参加可能な四輪レースで、誰でも購入できる市販車がベースの改造車両で競う。富士スピードウェイ(静岡県小山町)は「S耐シリーズ2025」の第3戦会場。国内唯一、24時間の耐久レースには10クラスから計60台が参戦した。飲食はもちろん、お祭りのような野外ライブや花火などのイベント、キャンプを楽しみながら、ゆったりとした観戦が可能となっている。

出走前にウォークイベント

 5月31日、決勝レースが行われる会場を訪ねた。午後3時のレース開始前からさまざまなイベントが用意されていた。まずは午前中に45分程度行われた「ピットウォーク」。レースの合間や走行前に車両を整備する「ピットレーン」と呼ばれるエリアを各チームが開放し、観客がドライバーと交流できるイベントだ。写真撮影やサイン会が開かれ、チームの雰囲気を間近で楽しむことができる。開始早々からピットレーンには幅広い世代の観客が押し寄せ、終始にぎわいを見せていた。

 その後、レース前には50分程度の「グリッドウォーク」が催された。グリッドとは、レーシングコースに設定されたスタート時の開始位置のこと。決勝前に行われた予選の順位を基に決定され、速い程前列に並ぶことができ、レースを有利に運ぶことが可能だ。コンパクトカーからスーパーカーまで、一斉に並んだ出走直前のマシンを見ていると、熱戦への期待が高まる。強まる雨脚にも気をとめず、写真を撮るファンの姿が印象的だった。

レース開始、爆音に興奮

 この日はあいにく悪天候。雷を伴った激しい雨の影響でレースは1時間延期され、スタートを告げる「グリーンフラッグ」は午後4時に振られた。立ち上がりはセーフティーカーを先頭にゆっくりとした走行で、「想像より遅い」という印象を受けた。しかし、5、6周目を過ぎたあたりで本格的なレースがスタート。逃げを打つ先頭車両を後続車両が追い上げる。富士スピードウェイが誇る、1475メートルのメインストレートでの加速がすさまじい。空気が圧されてはじけるような「パンッ!」という乾いた音が響き、少し遅れてエンジンの重低音が体に響く。水しぶきを上げて高速で走り抜ける車両に圧倒された。大きさや形、速度によって走り方や音が微妙に変わり、見ていて飽きない。

 レースは一昼夜かけて行われた。夕方ごろにはコースサイドに張られたテントからBBQの煙が立ち上がる。夜になり花火が打ち上げられると、缶ビールを取り出す団体客も。テールランプの赤い軌跡を指で追う姿も見られた。

 一方、夜のレースは大荒れ。午前0時を過ぎると接触によりコントロールを失った車両がクラッシュ。選手の無事は確認されたが、レースは一時中断された。その後も未明から明け方にかけて濃霧にコースが包まれ、再度レースは中断。記者がそれを知ったのは、ホテルで寝て起きた朝のこと。耐久レースの面白さとともに、怖さも知った。レースが終われば「ノーサイド」。死闘を繰り広げた車両とドライバーを、観客やチームが拍手と歓声で出迎えた。

観客「粘り強い走りが好き」「いろんな楽しみ方できる」

 S耐の魅力とは何だろうか。会場で会った観客に聞いてみた。「昔はF1やスーパーGTを見ていたが、耐久は長く走っているのでゆったりと見られる」と話すのは静岡県在住の61才の男性。妻と2人で観戦に来たといい、「いろんな楽しみ方ができ、初心者にもおすすめできる。こういうレースが日本でも広まればいい」と笑顔で語った。

 千葉県から来た会社員の三宅雅裕さん(56)は「GTやフォーミュラの方が『音』の迫力はあるが、最後まで粘って強く走り抜ける耐久が好き。出場する台数も多くて面白い」と太鼓判。青山友貴さん(56)はチームの応援に埼玉県から親子2人で駆け付けた。「夜にやっているレースはないから面白い」と話し、テントで泊まり込み。息子さんも「ライトの光もかっこいいし、夜の駆け引きが楽しい」と満足そうだった。

 記者がとりわけ注目したのは、厳しいレースを支えるメカニックの存在だ。耐久レース中には何度もレーシングカーがピットに帰還する様子が見られるが、フロントガラスの清掃、給油、タイヤ交換など、分業制で迅速に作業を行い、1分程度でまたコースに送り出す。ドライバーに応える「縁下の職人技」に目を奪われた。コーナーでの駆け引きやチーム戦略など、知れば知るほど奥深いモータースポーツ。これからも「1コンマの戦い」から目が離せそうにない。

(2025年6月5日掲載)

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