インターネット上で扇動したり、特定の相手への抗議を呼びかけたりする「犬笛」。真偽不明な情報も少なくない。交流サイト(SNS)や動画サイトで発信される情報とどう向き合えばいいのか。事情に詳しい国際大・山口真一准教授(経済学)に聞いた。
SNSは情報源
SNSや動画サイトは今や、利用者にとって娯楽だけではなく、重要な情報源になっている。メディア情報リテラシー(情報を読み取る能力)を高めていくことが肝心だ。
選挙との関係で言えば、2024年は一つの転換点だった。兵庫県知事選では、有権者が投票で参考にした情報源について、SNSがテレビや新聞を上回ったという調査結果があった。
SNSは個人が興味のある情報が優先的に表示される仕組みで、そうではない情報に触れにくい「フィルターバブル現象」が起きる。自分と似た意見の人ばかりとつながる「エコーチェンバー現象」も生じる。
これらの現象がある中で、扇動的な「犬笛」が吹かれることにより、「自分が正しい」と信じ込んで行動してしまう。意見の対立が極端になると、分断が進み、相手を中傷するといった深刻な問題を生むこともあり得る。
一方、動画サイトでは収益の問題も絡む。注目を集めるコンテンツは広告などを通じて発信者の収入となる。真偽が不明なまま、過激な情報で注目を集めようとする動きが起きやすいとされ、多くの人が注目し、支援者が分かれる選挙との親和性がある。
健全な情報空間を
中傷している人たちの多くは、自分が正しく、相手が悪いと考えている。選挙はより良い社会のために議論し、合意形成を得る民主主義のプロセスの中で根幹をなす。中傷がまかり通ってしまえば、多方面に悪影響を及ぼすことになり、対策が必要だ。
中傷に対しては、プラットフォーム事業者の責任ある対応が求められる。AI(人工知能)を活用した不適切な投稿の抑制などは有効な対策となる。表現の自由とのバランスを取りつつ、より健全な情報空間を構築していく必要がある。
情報を受け取る側にも課題はある。私の研究では、誤った情報に接した際、それが誤りだと適切に判断できる人は14・5%しかいなかった。リテラシーを高める教育・啓発が重要になり、誤りや扇動的な情報に惑わされないようにしなければならない。【聞き手・矢追健介】