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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける
903/903

879 クマさん、城に行く

「ああ、そうです」


 部屋を出ようとしたサクラが、なにかを思い出したように振り返る。


「シノブが着ていた服は血抜きをして洗濯中です。それと斬られて着ることはできません」


 確かに、かなりの怪我をしていた服が血で染まっていてもおかくしない。

 刀で切られていたら、着ることもできない。


「他の服でよろしければ用意しますが」

「問題ないっす。何日も帰らないこともあるっすから、替えの服はあるっす」


 シノブは布団の上にあるカゴに目を向ける。

 カゴの中には短刀などシノブの私物と思われるものが入っている。

 シノブはそのカゴの中からアイテム袋を手にすると忍者っぽい服を取り出す。


「残念です。服がなければ、わたしたちの服を貸してあげましたのに」


 サクラは残念そうに部屋から出ていく。

 シノブの巫女服。

 見てみたかったかも。


「ユナ、その目はなんっすか?」

「サクラの好意に甘えて、サクラたちが着ている服を着るのもいいんじゃないかなと思って」

「嫌っすよ。これからお城に国王様に会いに行くっすよ。なにを言われるか分からないっす」


 そう言って、シノブは忍者っぽい服を着る。


「そういえば鎖帷子は着ていなかったの?」


 着ていれば、大怪我をすることはなかったかもしれない。


「普通の時は重いっすから着ないっすよ。身軽に動けないっすからね。でも、今回はそれが仇になったすが」


 シノブは服を着ると軽く、トントンとジャンプする。


「少し痛いっすが、問題ないっすね。本当にユナの魔法は凄いっす」

「だからと言って無茶はしないでよ」

「無茶をするときはユナに任せるっす」


 シノブはニコッと微笑む。

 この笑顔を見ると手伝うことにしたのは失敗だったかもと思ってしまう。

 シノブと他愛もない話をしているとサクラが戻ってきて、馬車の用意ができたと伝えにきた。

 わたしはくまゆるとくまきゅうを送還し、シノブと馬車に向かう。


「お二人とも気をつけてくださいね。わたしにできることがありましたら、言ってください」


 サクラに見送られて、馬車は動き出す。


「今さらなんだけど、わたしも行く意味ってある?」


 シノブから国王に伝えてくれれば済むだけの話だ。


「わたしから伝えてもいいっすが、ユナは国王様のお気に入りっす。だから、ユナがいれば怒り半減するかもっす。わたし一人じゃ、間違いなく怒られるっす」

「怒られる?」

「妖刀を発見したのに、報告せずに独断で戦闘、さらには負けて、取り逃したっすからね」


 確かに、怪我をして忘れていたけど。任務に失敗したってことだ。


「気が重いっす。せめて、師匠がいないことを祈るっす。2人から責められたら辛いっす。そのときは助けてくださいっす」


 シノブが潤んだ目でわたしを見る。


「いや、無理だから」

「酷いっす。薄情っす。冷淡っす。クマっす」

「最後のは悪口だよね」

「いや、普通は前の言葉が悪口っすけど」


 確かに、クマは悪口ではない。

 悪口じゃないよね?

 まあ、シノブを庇うかどうかは、話し次第だ。


「まあ、それが理由の半分で」


 半分なんだ。


「顔合わせをしておかないと、後で問題になるっすから」


 確かに、知らない人が関わればトラブルになるかもしれない。

 馬車は門をくぐり、城の入り口の前に止まる。

 馬車を降り、城の中に入る。

 すれ違う人たちが驚いた表情でわたしのことを見るけど、気にしないで歩く。

 そして、シノブはドアの前で止まる。


「シノブっす」

「入れ」


 部屋の中から返答があると、シノブは扉を開けて部屋の中に入る。

 国王の執務室なのか、机の前にスオウ王がいる。

 部屋の中にはスオウ王と見知らぬ男性がいた。


「ユナ?」


 シノブと一緒に部屋に入ってきたわたしに驚く。


「久しぶり?」

「どうして、ユナがいる」

「ちょっと、わたしがミスって、サクラ様がユナを呼んだっす。それで、今回のことを話したら快く手伝ってくれることになったっす」


 なんだろう。

 正しいんだけど。

 快くってところが違うような。

 でも、自分から申し出たことは本当だし。


「陛下、この者は、まさか」


 30半ばぐらいの体格のいい男性がわたしを見る。


「ああ、お前が思っている人物だ」

「もしかして、わたしのことを知っているの?」

「話は聞いている。サクラ様の夢に出てきたクマ」

「前に話しただろう。ユナの実力を疑う者たちがいると、この男はその1人だ」


 ああ、思い出した。

 シノブとジュウベイさんが演技をして、わたしを騙し、ジュウベイさんと戦うことになったことを。


「この娘が、ジュウベイに」

「勝った。お前も当時の戦いの話は聞いているだろう」

「信じられませんが、分かりました」


 スオウ王はため息を吐き、シノブに話しかける。


「それで、妖刀の行方は見つかったのか?」

「やっぱり、報告は来てないみたいっすね」

「報告ってなんだ?」


 シノブは上着を捲り、お腹部分を見せる。


「怪我をしたのか」

「昨日の深夜、妖刀の持ち主と遭遇したっす。でも、ミスって怪我を負ったっす。どうにか逃げてサクラ様の家まで辿り着いたっす」

「それで、サクラがユナに連絡をしたわけか」

「一応、わたしのことは師匠に連絡を頼んだみたいっすけど」

「ジュウベイから連絡はない。そもそも、しばらく連絡が来ていない」

「そうっすか」


 ジュウベイさんも妖刀を探し回っているみたいだ。


「それで、どこで妖刀に出会した?」

「城下街っす」


 城下街。

 つまり、人が多くいる。


「なんの妖刀か分かったか?」

「暗くて分からなかったっす。そもそも、妖刀の判別ができないっす」

「それで国王。妖刀の盗まれた数は判明したのですか?」


 男が尋ねる。


「かなり、部屋が荒らされていてな。片付けているが、危険な物も多い。片付けが思うように進んでいないから、把握はできていない。ただ、3本は判明している。『妖刀赤桜』『妖刀風切』『妖刀馬鉄』の3本だ」

「その3本っすか」

「知っているの?」

「妖刀赤桜。血塗られ、血を好み、無差別に斬りかかる刀っす。持ち主は血を見たくなると言われているっす」


 シノブが説明し、


「妖刀風切。羽のように軽い刀で、多くの人を切り裂いたと言われている」


 国王が説明し、


「妖刀馬鉄。最強の刀を追い求めた鍛治職人の刀。妖刀の中では切れ味最強で、自分の力を発揮してくれる剣士を探し求めていると言われている」


 謎の男が説明する。


「この中で、わたしが出会ったのは風切かもっす。速かったっすから」

「どっちにしても、3本の行方と、他にも盗まれた妖刀の確認を急がないといけないな」

「そのことなんだけど。わたしも手伝うことになったけど大丈夫? 被害が出たら大変だと思って、少しでも、力になればと思っているけど」

「感謝する。ユナが手伝ってくれるなら、被害も押さえることができるだろう」


 国王の許可はすんなり貰えたけど、反論する者がいる。


「スオウ王! また、この者の手を借りるというのですか?」

「ジュウベイとの試合で、この者の実力は証明されている」

「しかし、国の問題を」

「大蛇の件も国の問題だった」

「今回は街中で戦うこともあるでしょう。そのときに、魔法で街を破壊されては困ります。今回の戦いは魔法ではなく、武器で戦わないといけません」

「と、言っているが、ユナどうする?」


 国王がわたしに放り投げる。


「別に、戦い方は、その時と場合によって戦えばいいだけでしょう。魔法が使えないなら使わないし、大きな魔法が使えないなら小さい魔法を使いながら戦う方法だってあるよ」


 街中だって、小さい魔法なら使える。


「ジュウベイに勝った実力を俺に見せてくれ」


 男が申し出る。


「面倒だから嫌なんだけど」

「それでも武人か」

「違うけど」


 どこを見たら、わたしが武人に見えるわけ?

 クマだよ。


「それに、今回は妖刀、言い伝えが正しければ、実力を示さないといけません」

「言い伝え?」

「妖刀はぞれぞれ言い伝えがあるが、赤桜は、心優しき、自分より強気者に平伏すると言われているから強くなければいけない」


 心優しいって、どう判断するんだろうか。

 それと強気者って、勝てばいいのだろうか。

 もしかして、魔法なしとか?


「妖刀を平伏さえなければ、近くにいる者が憑かれる。だから、ジュウベイに勝ったという実力を、この俺に見せろ」

「断るよ。わたしにメリットがないでしょう。勝ったら、あなたに認められるだけじゃ、割に合わないよ」


 手伝うのに、どうして、認めさせないといけないの?

 そもそも、国王の許可はもらっている。


「それじゃ、こんなのどうっすか。ユナが勝ったら、サタケさんはユナの言うことを聞くって言うのは。ただし、この条件はこの妖刀の解決が終わるまでっす」

「つまり、なんでも命令ができるってこと?」

「そうっす。サタケさんのところには情報が集まって来るっすから、役に立つっす」

「でも、この人がちゃんと話すとは限らないでしょう。そもそも誰なの?」

「俺は5番隊の隊長のサタケだ」

「今回の妖刀回収は、このサタケの部隊とジュウベイの部隊に任せてある」


 とスオウ王が説明してくれる。


「いいだろう。嬢ちゃんが勝てば嬢ちゃんに従おう。だが、俺が勝ったら、俺の指示に従ってもらう」

「決まったな。それじゃ、訓練場に行くか」


 なにも決まっていないんだけど。

 勝手に決めないでほしいんだけど。

 でも、3人は歩き出し、部屋から出ていく。

 わたし、まだ、なにも言っていないんだけど。

 わたしはため息を吐くと、3人の後をついていく。



新しい男の登場です。


※6月6日にコミカライズ13巻、文庫版12巻の発売しました。

本屋さんでお見かけしましたら、よろしくお願いします。


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ユナ、フィナ、くまゆる、くまきゅうのイラストです。

可愛いので見ていただければと思います。

リンク先は活動報告やX(旧Twitterで確認していただければと思います。)


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くまクマ熊ベアー発売元であるPASH!ブックスが10周年を迎え、いろいろなキャンペーンが行われています。

詳しいことは「PASH!ブックス&文庫 編集部」の(旧Twitter)でお願いします。


※投稿日は4日ごとにさせていただきます。(できなかったらすみません)

※休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合はX(旧Twitter)で連絡させていただきます。(できなかったらすみません)

※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」コミカライズ公開中(ニコニコ漫画、ピッコマでも掲載中)

※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」外伝公開中(ニコニコ漫画、ピッコマでも掲載中)

お時間がありましたら、コミカライズもよろしくお願いします。


【くまクマ熊ベアー発売予定】

書籍21巻 2025年2月7日発売しました。(次巻、22巻、作業中)

コミカライズ13巻 2025年6月6日に発売しました。(次巻14巻、発売日未定)

コミカライズ外伝 3巻 2024年12月20日発売しました。(次巻4巻、2024年8月1日発売予定)

文庫版12巻 2025年6月6日発売しました。(次巻13巻、発売日未定)


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
ノアが妖刀熊狂を持っている可能性。
妖刀が人に取り憑いているのなら、刀だけを潰さないとね。 土魔法の【陥没ピット】、【掘削】とか、風魔法の【竜巻トルネード】、【旋風】、水魔法の【噴射】【間欠泉】。植物魔法の【スネア】、【バインド】、雷魔…
風切以外の二本はユナに従いそうなんだが大丈夫だろうか?
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