年金制度改革の関連法では、働き方の多様化を踏まえ、パートなどで働く人が厚生年金に加入しやすくなるよう「年収106万円の壁」と呼ばれる賃金要件を法律の公布から3年以内に撤廃するとしています。
そして、現在従業員51人以上としている企業規模の要件も、2027年10月から段階的に緩和し、10年後になくすことなどが明記されています。
年金制度改革の関連法 参院本会議で可決・成立 変わる点は
パートなどで働く人の厚生年金の適用拡大や基礎年金の底上げ措置を盛り込んだ、年金制度改革の関連法が、13日の参議院本会議で、自民・公明両党と立憲民主党などの賛成多数で可決・成立しました。
また、法律は、自民・公明両党と立憲民主党の3党の合意に基づき、基礎年金の底上げ措置を付則に盛り込む修正が行われています。
具体的には、4年後の公的年金の財政検証で、将来的に基礎年金の給付水準の低下が見込まれる場合などに、厚生年金の積立金を活用して底上げ措置を講じ、その際、厚生年金の給付水準が一時的に下がることへの影響を緩和する対応もとるとしています。
そして、13日の参議院本会議で採決が行われた結果、自民・公明両党と立憲民主党などの賛成多数で可決・成立しました。
日本維新の会、国民民主党、共産党、れいわ新選組などは反対しました。
政府は、関連法の施行に向けて周知・広報を徹底し、年金制度への理解を求めていきたいとしています。
基礎年金 底上げ措置の仕組み
年金制度改革関連法の付則に盛り込まれた、基礎年金の底上げ措置の仕組みです。
日本の公的年金制度は2階建てになっていて、基礎年金とは1階部分にあたる、すべての国民に共通する年金のことです。会社員や公務員などが対象の厚生年金は2階部分にあたります。
このうち、基礎年金の財政状況は、デフレ経済が続いたことから悪化しています。
去年行われた年金の財政検証では、過去30年間と同じ程度の経済状況が続いた場合、基礎年金の給付水準が2057年度にいまより3割ほど低下すると指摘されました。
一方、厚生年金の財政は、働く女性や高齢者が増えたことで比較的安定しています。
そこで、厚生年金の積立金を活用し、基礎年金の給付水準を引き上げようというのが、今回の措置です。
ただ、この措置を講じると、厚生年金の給付水準が一時的に下がることから、影響を緩和する対応もとるとしています。
厚生労働省は「1階部分の基礎年金が底上げされることによって、最終的には、ほぼすべての厚生年金の受給者の給付水準も上がることになる」と説明しています。
厚生労働省の試算では
厚生労働省が機械的に行った試算によりますと、この措置を直ちに実施し、平均寿命まで生きた場合、平均的な賃金で働く男性の年金受給額は、現在62歳以下の人は増加し、38歳以下の人は248万円増えるということです。
女性では、66歳以下で増え、38歳以下は298万円増加するとしています。
一方、男性は63歳以上、女性は67歳以上から減額となります。
60代後半から70代にかけて減額幅が大きくなり、男性では69歳と70歳で、女性では73歳と74歳で、それぞれ最大23万円減るということです。
年金制度 ほかの主な変更点
関連法によって、年金制度はどう変わるのか。このほかの主な変更点です。
<個人事業所の厚生年金の適用拡大>
厚生年金の適用拡大に関しては、5人以上の従業員がいる個人事業所のうち、2029年10月から開設される新規の事業所はすべての業種で加入対象となる一方、既存の事業所は当面、任意加入となります。
<適用拡大に伴う保険料負担の軽減策>
パートなどで働く人の厚生年金の適用拡大にあたっては、保険料負担が生じることによる働き控えを防ぐため、労使折半となっている保険料を、企業や事業主側が3年の間はより多く負担できる仕組みが、来年10月以降設けられます。企業や事業主側が多く負担した分については全額支援するとしています。
<収入の多い人の保険料上限額引き上げ>
将来の年金財源を確保する観点から、収入の多い厚生年金の加入者により多くの保険料を負担してもらおうと、保険料の算定の基となる月の給与水準の上限が、2027年9月以降、現在の65万円から段階的に75万円に引き上げられます。給与水準が最も高い場合、ひと月あたりの負担はおよそ9000円増えるということです。
<在職老齢年金の減額基準引き上げ>
65歳以上の人が一定の収入を得ると厚生年金が減らされる「在職老齢年金」制度も見直され、高齢者の働く意欲をそがないよう、減額される基準が来年度からいまより10万円余り引き上げられ62万円になります。
<遺族厚生年金の受給要件見直し>
共働き世帯が増えていることなどを踏まえ、会社員などが亡くなった際に配偶者らに支給される「遺族厚生年金」について、現役世代で子どもがいない人が受け取る際の要件の男女差を解消する措置もとられます。
現在、女性は夫が亡くなった時点で30歳未満の人は5年間、30歳以上の人は生涯受け取れる一方、男性は妻が亡くなった時点で55歳未満の人は受け取れません。
これを、すでに受給している人に不利益が出ないよう、2028年4月から20年かけて移行を進め、最終的に受給期間を男女とも原則5年間にしたうえで、収入が少ないなど配慮が必要な場合は最長で65歳まで受け取れる仕組みに改めます。
<子育て中の加算など見直し>
年金を受給し始めたあとも主に18歳以下の子どもを育てている人を対象に加算する措置も、見直されます。
今は、子ども1人当たり、第2子までは年額23万4800円、第3子以降はこれに7万8300円を加算していますが、2028年4月から一律で28万1700円に引き上げられます。
一方、扶養している65歳未満の配偶者がいる場合の支給加算については、2028年4月以降に年金を受給し始める人は、現在の年額40万8100円から36万7200円に引き下げるとしています。
<iDeCoの加入年齢の引き上げ>
公的年金に上乗せする個人型の確定拠出年金=「iDeCo」の見直しも盛り込まれていて、法律の公布から3年以内に、加入年齢の上限を、いまの65歳未満から70歳未満に引き上げるなどとしています。
残された課題
年金制度は、改革が進む一方、課題も残りました。
<基礎年金の底上げ財源>
まず、基礎年金の底上げ措置に伴う財源をどう確保するかです。
基礎年金の財源の半分は国庫負担となっています。このため、底上げ措置が講じられれば、国庫負担も増えることになります。厚生労働省の試算では、国庫負担の増加により、将来的に年間1兆円から2兆円程度の追加財源が必要になると見込まれています。
これをどう確保するかは、4年後の財政検証の結果、実際に底上げ措置を講じることになった段階であわせて検討することになり、結論は先送りとなった形です。
<第3号被保険者制度>
「第3号被保険者制度」も課題として残りました。これは、会社員の夫に扶養されている妻などが、年収130万円以上となるまではみずから保険料を支払わなくても基礎年金を受け取れるというもので、現在もおよそ690万人が対象となっています。保険料を払っている人からすると不公平感があり、女性の就労やキャリア形成を妨げる要因にもなっているとの指摘がある一方、育児や介護などで働けない人にも配慮すべきだという意見もあります。
このため関連法では、実情に関する調査研究を行い、今後のあり方を検討するとされました。
<議論の進め方>
一方、今回の制度改革では、自民党内に夏の参議院選挙への影響を懸念する声があったことも背景に、政府・与党の調整が難航し、国会への法案提出が大幅に遅れました。
野党側は、今後も残った課題などの議論を深める必要があるとして、党派を超えた協議体の設置を求めています。
石破総理大臣は「与野党において広範な合意を形成すべく真摯(しんし)に協議を行うことは重要だ」と述べていて、持続可能な年金制度構築に向けた議論の進め方も今後の焦点となりそうです。
SNS “厚生年金の流用” “遺族年金制度の改悪” 批判の投稿急増
SNSでは年金制度改革の関連法について「厚生年金の流用だ」とか「遺族年金制度の改悪だ」などと批判する投稿が5月から急増し、NHKが分析したところ、Xの投稿は6月12日まででリポストを含めておよそ50万件ありました。
このうち、厚生年金の積立金を活用して基礎年金を底上げする措置について、「流用だ」と指摘する投稿の中には100万回以上閲覧されているものが複数ありました。
SNSでは「流用して高齢者に配る」とか「国民年金だけが得をする」などといった投稿も見られましたが、厚生労働省は「基礎年金が底上げされることによって、最終的にはほぼすべての厚生年金の受給者の給付水準も上がることになる」と説明しています。
また、遺族厚生年金の受給要件の見直しについて、「改悪」だとする投稿で2000万回以上閲覧されているものもありました。
関連法では、収入が少ないなど配慮が必要な場合は最長で65歳まで受け取れるしくみに改めるとしているにもかかわらず、すべての人が5年間しか受け取れなくなるとする投稿も広がっています。
厚生労働省 “厚生年金積立金の流用にはあたらない”
基礎年金を底上げする措置をめぐっては、「厚生年金の積立金の『流用』ではないか」という指摘が相次いでいます。
これに対し、厚生労働省は、会社員などが納付している厚生年金の保険料にはもともと基礎年金分も含まれていて、現在も厚生年金の積立金を基礎年金の財源に拠出しており、その割合を増やす措置だとしています。
さらに、基礎年金の底上げによって厚生年金の受給者も恩恵を受けるとして「流用にはあたらない」と説明しています。
福岡厚生労働大臣は閣議のあと記者団に対し「多岐にわたる改正事項を盛り込んでおり、見直しの内容や目的について、ホームページやショート動画、 SNSなどのさまざまな媒体を効果的に組み合わせながら、わかりやすく丁寧な広報に努めていきたい」と述べました。
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