創業90年の老舗米穀店がコメ不足のため一時閉店に追い込まれた。報道やSNSではコメ高騰の原因として矢面に立たされた。同業者や顧客から多くの励ましの声を受け、秋の営業再開を誓う。
松本 泰氏
当社は1935年、町の小さな精米店として私の祖父が京都府舞鶴市に開業しました。以来、地元の多くのお客さんに慣れ親しんでいただきました。
ただ昨年以降、長年取引を続けてきた集荷先からコメが集まりづらい状況が続きました。政府の備蓄米の放出によって少しは改善するのではと期待しましたが、多くの農家さんや業者からは「コメを回すのは難しい」と断られました。
十分なコメの量と品質を保つことが難しく、このままでは会社の存続自体も危うい。いたずらに店を開けるよりも一度閉めようと決断しました。今年は、ちょうど創業90年目に当たります。そんなタイミングで店を閉めなければならない。まさに無念の一言です。
ネット通販で販売伸ばす
私は2000年に家業に入り、時代に合わせた販売方法を模索してきました。特に注力したのはネット販売です。独学でウェブサイトのつくり方を学び、自社でネット通販を展開しました。
お祝い用の「ギフト米」を販売するなど独自商品にも力を入れました。名物は生まれた赤ちゃんの体重と同じグラム数のコメを、1g当たり1円で販売する「出生体重米」です。お客さんの支持を受け、多くの注文をいただきました。
コメ1gを1円で売るというのは異例です。「さすがに高すぎるのではないか」との声が業界からは聞こえました。ただ付加価値を乗せて売れば農家さんにも還元できます。ネット販売ならば、お客さんのレビューを集め、生産者に伝えられるメリットもあります。
多くの農家さんは、自分の作ったコメの感想を聞く機会がほとんどありません。「とてもおいしかった」というひと声をお伝えするだけでも喜んでもらえるのです。「来年もコメ作りを続けよう」と、少しでも意欲を持っていただければ、そんな思いで取り組んできました。
「もうこれ以上続けられない」
残念なことですが、コメは利益を生みづらい作物です。消費者は安い価格に慣れ切ってしまっており、インフレになっても値段を上げるのは困難でした。
新型コロナウイルス禍では消費が急激に落ち込み、コメ余りが進みました。当然、農家さんからの買い取り価格も下落します。これまでもギリギリの利益でコメ作りを続けてきた農家さんにとっては大打撃。「もうこれ以上は続けられない」と言ってやめていくのを見るのは非常につらかった。
それだけに、今回の価格高騰は複雑な心境です。消費者の怒りはよく理解できます。でも、これまで辛酸をなめてきた農家さんにとっては、ようやくやってきた値上げの局面なのです。
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