イスラエル「イラン核関連施設など攻撃」発表 非常事態宣言も

イスラエル軍は13日、戦闘機数十機が、イラン各地にある核関連施設など数十の軍事目標を攻撃したと発表し、ネタニヤフ首相は「イランの核濃縮プログラムの核心を攻撃した」としています。
イスラエル政府はイランからの攻撃が予想されるとして全土に非常事態を宣言しました。

イスラエル軍は13日、SNSのXに、「イスラエル軍がイランの核開発計画への先制攻撃を行った」としたうえで「イスラエル空軍の戦闘機数十機が、イラン各地にある核関連施設など数十の軍事目標への攻撃を含む第1段階の作戦を完了した」とする声明を発表しました。

イスラエルのネタニヤフ首相はビデオメッセージで、「イランの核濃縮プログラムの核心を攻撃した。イランの核兵器開発プログラムの核心を攻撃した。ナタンズにあるイランの主要なウラン濃縮施設を標的とした。主要な核科学者を標的とした。イランの弾道ミサイルプログラムの核心を攻撃した」と述べました。
また「去年、イランはイスラエルに300発の弾道ミサイルを発射した。これらのミサイルにはそれぞれ1トンの爆発物が搭載されていて、数百人の命を脅かしている。まもなくこれらのミサイルは核弾頭を搭載する可能性があり、数百人ではなく数百万人の命を脅かすことになる。イランは3年以内に数万発の弾道ミサイルを生産する準備を進めている。これは許容できない脅威だ。これも阻止しなければならない」と述べました。

イスラエルのカッツ国防相は声明で「イランに対する先制攻撃に伴って、イスラエルに対するミサイルや無人機の攻撃が予想される」として全土に非常事態を宣言しました。

イランの国営テレビは現地時間の13日午前3時半ごろ、日本時間の13日午前9時ごろ、首都テヘランで複数の爆発音が聞こえ、防空システムが作動したと伝えました。

一方、イラン政府からの公式な発表はこれまでのところ確認されていません。

アメリカ政府当局者は、日本時間の13日午前9時半ごろ、NHKの取材に対して「攻撃に関する報道は把握している。アメリカは、攻撃に関与していないし、支援もしていない」とコメントしました。

イラン情勢をめぐっては、今月15日にアメリカとイランとの間で核開発をめぐる協議が行われる予定となっていましたが、協議の難航とともにイスラエルがイランの核施設への攻撃準備を進めているとも伝えられていました。

アメリカのトランプ大統領は12日、記者団に対して「攻撃は十分起こりえる。大規模な衝突になる可能性がある」と指摘していました。

米 ルビオ国務長官「イスラエルは単独で行動」

アメリカのルビオ国務長官は12日、声明を発表しました。このなかでルビオ長官は「今夜、イスラエルはイランに対して単独で行動を起こした。われわれはイランに対する攻撃に関与しておらず、われわれが最優先にしているのはこの地域のアメリカ軍の保護だ」とコメントしました。

また、「イスラエルは、今回の行動は自国の防衛のために必要だと考えているとわれわれに伝えてきた」と明らかにしました。その上で「トランプ大統領と政権は、アメリカ軍の保護のため、必要なあらゆる措置を講じ、この地域のパートナー国と緊密に連絡を取り続けている。はっきりさせておくが、イランはアメリカの国益に関わるものやアメリカの要員を標的にすべきではない」と強調しました。

イランの国営通信 “女性や子どもなど死傷”

中東の衛星テレビ局アルジャジーラは、イランの首都テヘランの北東部で現地時間の午前3時半すぎ、日本時間の午前9時すぎに撮影されたとする映像を放送しました。
この映像では、煙が複数の地点から上がっている様子が見られます。

イランの国営通信は、イスラエルの攻撃を受けた首都テヘランの住宅地で女性や子どもを含む複数の住民が死傷したと伝えました。

またイランの国営テレビは、イスラエルの攻撃によって、軍事精鋭部隊、革命防衛隊のトップ、サラミ総司令官などが殺害されたと伝えました。

解説 “なぜ攻撃“

林官房長官「在留邦人の保護に万全を期す」

林官房長官は閣議のあとの記者会見で「イスラエルによる発表や関連の報道は承知している。現在、さらなる事実関係を確認中だが、政府として在留邦人の保護に万全を期すとともに、事態のさらなる悪化を防ぐべく、引き続き必要なあらゆる外交努力を行っていく」と述べました。

石破総理大臣は13日午前、総理大臣官邸で外務省の安藤・中東アフリカ局長らと面会し、最新の中東情勢について報告を受けました。

中谷防衛大臣は「現在、情報を収集している。中東地域では、情勢が大きく変動し、流動的かつ緊迫した状態が継続していて、情勢を懸念をもって注視している。
在外邦人の保護に万全を期すとともに、防衛省・自衛隊としても、外務省をはじめとする関係省庁と緊密に連携しつつ、情勢の推移に応じて適切に対応している」と述べました。

武藤経済産業大臣は「中東地域は世界のエネルギー供給を支える重要な地域の1つだ。この地域における緊張緩和と情勢の安定化は、わが国の国益にとって極めて重要だ」と述べました。
その上で、「現時点で日本のエネルギーの安定供給に影響は生じていないと認識しているが、高い緊張感を持って状況を注視していきたい」と述べました。

ニューヨーク原油市場 一時大きく上昇

イスラエルがイランに攻撃を行ったと報じられたことを受けて、ニューヨーク原油市場では、国際的な取り引きの指標となるWTIの先物価格が一時、1バレル=72ドル台まで上昇しました。

報道の前は1バレル=68ドル台で取り引きされていて、大きく上昇した形です。

イランは原油の海上輸送の要衝であるホルムズ海峡に面していて、中東情勢が一段と緊迫化し、原油の供給に悪影響が及ぶことへの懸念が高まったことが要因です。

イランとイスラエルの対立は

イランとイスラエルは、かつて友好的な関係にありましたが、1979年にイランで起きた革命でイスラム教の指導者が統治する現在の体制が確立されたあとは激しく対立しています。

イランは、イスラエルをイスラム教の聖地でもあるエルサレムを奪った敵とみなし、国家として認めていません。

これに対し、イスラエルも、イランがパレスチナのイスラム組織ハマスやレバノンのシーア派組織ヒズボラを支援し、イスラエルの安全を脅かしているとして敵視してきました。

2000年代にイランが核兵器を開発している疑惑が持ち上がると、イスラエルは、イランの核開発を阻止する動きを強め、対立はいっそう先鋭化しました。

近年は双方によるとみられる攻撃が相次ぎ、「シャドー・ウォー=影の戦争」とも呼ばれる状態が続いてきました。

イランでは2020年、核開発を指揮してきた研究者が何者かに殺害された上、核関連施設での火災などがたびたび起き、イラン側はいずれもイスラエルの犯行だと主張しました。

一方、近海のオマーン湾ではイスラエルの企業や経営者が関わる船舶が相次いで攻撃され、イランによる報復と見られています。

おととし10月、パレスチナのガザ地区でイスラエルとハマスの戦闘が始まると、対立はさらに深まり、イスラエルは隣国シリアにあるイランの軍事精鋭部隊・革命防衛隊の拠点などへの攻撃を強めました。

去年4月には、イスラエルによるとみられる攻撃で、シリアにあるイラン大使館が破壊され、革命防衛隊の司令官らが殺害されました。

これに対しイランはおよそ2週間後に報復としてミサイルや無人機を使い、初めてイスラエルへの直接攻撃に踏み切りました。

その6日後にはイラン中部の空軍基地の付近で爆発があり、イスラエルによる対抗措置とみられています。

ただ、双方の被害は限定的だったとされ、それ以上の攻撃の応酬には至らず、互いに大規模な紛争に発展するのは避けたい思惑があるとみられていました。

しかし、去年7月にハマスのハニーヤ最高幹部が訪問先のイランの首都テヘランで殺害され、イランは、イスラエルへの攻撃だとして報復を宣言します。

さらに9月27日にイスラエル軍によるレバノンの首都ベイルート近郊への空爆でヒズボラの最高指導者ナスララ師が殺害されます。

そして10月1日、イランはイスラエルに対し180発を超える弾道ミサイルによる大規模な攻撃を行い、ハニーヤ最高幹部やナスララ師の殺害などへの報復措置だとしています。

これに対し、イスラエルも10月26日、対抗措置としてイラン国内の複数の地域に空爆を行い、ミサイル製造施設や防空システムなどを攻撃したと発表しました。

このあと、イランは再び報復する考えを示しましたが、ガザ地区やレバノンの情勢をめぐるイスラエル側の対応を見極めて判断する姿勢に転じ、これまでのところ報復に踏み切っていません。

一方、イスラエルは、イエメンの反政府勢力フーシ派がハマスへの連帯を示してイスラエルへのミサイル攻撃などを続けていることをめぐり、イランがフーシ派を支援していると非難し、イランへの攻撃も辞さない姿勢を強調していました。

さらに、アメリカの有力紙「ニューヨーク・タイムズ」は今月11日、欧米の当局者の話として、イスラエルが近くイランを攻撃するための準備をしている模様だと伝えていました。

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