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渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

ケニー・ロバーツのブリッピング/1983年WGP R2 フランスGP ル・マン

2025年06月13日 | open

WGP 1983 R2 / FLANCE Le Mans


1983年世界グランプリ、第
2戦、フランスのル・マン。
キング・ケニーが6速全開
からコーナーに入る。

コーナーアプローチで2速
落とし、コーナー進入旋回
開始時にさらにブレーキン
グブリッピ
ングしながら2
速落として旋回している。
ブレーキング→ブリッピン
グしているのに、ケニーの
マシンは路面に吸い付いた
ようにまったく前後左右に
ぶれない。フロントサスも
沈んでよく仕事をしている。


ケニーもフレディも、コー
ナー進入でブリップ音が聴
こえない乗り方を多用した。
それは、何と驚く事に、
入旋回開始時にブレーキ

グしながらクラッチを切

て車を曲げ、旋回開始時

一気にシフトダウンして

っぺんにプァン!とブリ

プして繋ぐという操作を

ていた。

クラッチを切っている短い
間は、エンジン回転が落ち
ないようにスロットルを微
細に調節して回転を一定数
に保つ。時間にしては一瞬
だが。

この動画のコーナーでは、
その独特の「世界一のライ
ダー」独自のクラッチ切り
走行技法と通常の1速ずつの
ブリ
ッピングシフトダウン
を併
用させた走りを見せて
いる。


この走法をやっているのは
世界中でケニー・ロバーツ
とフレディ・スペンサーだ
けだった。
フレディが1983WGPで世界
チャ
ンピオンを決めた後に
日本
に来た時、日本人のト
ップ
ライダーたちは走りを
実見して驚愕した。

コーナーアプローチのブレ
ーキング開始時にブリッピ
ングの音がしないのだ。
「そんな事あるわけない」
と誰もが耳を疑い、走りを
凝視したが、音がしない。
コーナーによってはパンパン
とブリッピングの音がする
が、特に高速からの急減速
コーナーのアプローチでは
音がしない。
日本人には摩訶不思議な事
が目の前で起きていた。
それは世界の中で、ケニー
とフレディのたった二人の
みが実行していたテクニック
だったからだ。

物理的には旋回開始時にク
ラッチを切るとマシンは寝
る。これは構造上。
超低速でも超高速でも。
これを利用して、大型二輪
免許教習実技や卒検では、
このテクニックでクランク
進入やS字切り返しを円滑
に行う高等技術を駆使する
事ができる。教習所や卒検、
一発試験などのその場面で
は完全にクラッチを切るの
ではなく半クラぎみに。
だが、それは相当に乗れる
人でないと使いこなせない
高等テクニックであるが、
二輪の原理を逆に最大に利
用した技法でもある。

オートバイの旋回では、基
本的な大原則は、進入時も
旋回時も脱出時も、クラッ
チは完全につないで駆動を
すぐにかけられるようにし
ておくのが基本中の基本だ。
しかし、旋回中に試しにク
ラッチを全握りで完全に切
ってみれば判るように、そ
れをするとマシンの車体は
スッとインに倒れる。
これはいろいろな物理的な
要素が複合的に合わさって
発生する現象だが、その二
輪の原理ともいえる事を走
行旋回に利用する人は世界
の中であまりいない。
1983年時点で存在したのは
3年連続世界チャンピオン
を獲得した経験を持つキン
グことケニー・ロバーツと
若きアメリカの新星フレディ・
スペンサーの二人のみだっ
た。

さて、これは2ストローク車
も4ストローク車も同じだが、
減速制動の速度コントロール
は「前輪ブレーキ」というシ
ステムを稼働させる事で実行
する。後輪ブレーキは車体姿
勢制御の為の働きを担い、速
度を減速させる事にはほぼ実
際には機能しない。
なお、二輪では教習所で教え
るような「エンジン
ブレーキ」
なるものは高速度
二輪走行に
おいては一切使わ
ないのは常
識だ。それをやる
とエンジン
は即壊れる。

そして、リアに必要以上の逆
負荷がかかるので操縦安定
(操安性)の障害となるだけ
でなく、
エンジンのクランク
も強烈な逆負荷がかかり、壊
れる。

それを防止するためにあえて
クラッチを半クラに自動的に
して滑らせて、クランクとリ
ア駆動への衝撃を回避する
システムが1980年代中期から
市販公道用オートバイに搭載
されるようになった。主とし
て4ストロークオートバイに。
そのシステムが無い4ストバ

イクを高速度で走らせられる
二輪ライダーは、皆人為的に
ブリッピングという技法とは
別に半クラ操作をしてスロッ
トルオフ時のクランク逆負荷
を回避する操作をしていた。
「乗れる」人たちは。

「エンジンブレーキを使う」
とか「エンジンブレーキを
利かせて」とか「エンジン
ブレーキがぁ」等々、エン
レを肯定的良質要素であ
かのように述べる人間は、
モーターサイクルの走りに
ついては全くのド素人だと
いえる。
これは二輪の物理的挙動特
性からいって、残念ながら
絶対的確定事項だ。


 
 
 


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