第6回「男女関係が乱れる」 性教育反対運動担った女性、元都議の考えとは

杉原里美

性教育を問う(6)

 性教育への萎縮を招いたとされる2000年代初めの反対運動の中心的な人物として知られ、教員の立場から運動を支えていたのが、神奈川県の元中学校教諭野牧雅子氏(67)だ。野牧氏に話を聞いた。

 Q 性教育を批判する、インターネット上の掲示板を運営し、東京都議らが都立七生養護学校(現・七生特別支援学校)の保健室を視察して教員らが処分された事件では都議に情報を提供していた。性教育への抗議活動を始めたきっかけは。

 A もともと性教育には関心がなかった。在日教育批判や北朝鮮の拉致問題で活動していた。当時の小泉純一郎首相の訪朝(02年9月)前後だったと思うが、北朝鮮の拉致に抗議する運動で一緒に活動していた土屋敬之都議(当時)と、「過激な性教育」の実施に反対してきた教育学者から、「性教育の現場の実態をつかんでほしい」と電話がかかってきた。

 Q それがきっかけで、性教育をしている学校や教育委員会に対し、性教育の授業を見せるように求めたり、指導案をもらったりしていた?

 A そうだ。指導案や年間の指導計画というものがあることを、議員の先生方は知らない。私は教員だったので、教育委員会や学校にどんな資料を出してもらえばいいかを提案しやすかった。

 Q 東京都港区の中学校には02年11月、授業を見せるように求めるファクスが数十通届き、学校を爆破するという脅迫のファクスも送られていた。

 A 私が授業を見せるように求めたのは事実だが、脅迫するようなファクスは依頼していない。当時、メールで情報交換する人たちが100人ぐらいいた。授業を見せてもらえるように「ファクスしてください」とメールで呼びかけたと記憶しているが、自主的にやっている人もいた。(脅迫ファクスは)一部に、人権感覚のない人もいたのだろう。ダメと言っても、やる人はいる。

宗教関係者も協力

 Q メールでつながっていた人たちは、どんな人たちだったのか。

 A 宗教関係者や保守系の団体の人もいた。その中で一番頑張ってくれたのは、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)のお母さんたちだったと認識している。私にも誰が信者か分からないことがあったし、一般的には分かりづらいだろう。

 Q 03年12月に3都議でつくる「日本の家庭を守る地方議員の会」が都議会議事堂の会議室で開いた性教育の集会で、保護者として反対する発言をしていたのは、旧統一教会の女性たちなのか。

 A はっきり分からない。集会には、旧統一教会の人もいたし、日本会議の人もいた。私は旧統一教会の信者ではないが、家庭を守るという方向は同じだった。頼んで来てもらったこともあるし、頼まなくても来てくれたこともある。犠牲的に協力してくれた。

 Q 03年10月、都内であった「女性を不幸にする男女共同参画条例」と題したシンポジウムには、山谷えり子氏(現自民党参院議員)と登壇している。

 A 広島であった集会でも一緒に登壇したことがある。性教育に関する資料を提供したこともある。(朝日新聞は、山谷議員に質問状を提出し、野牧氏と情報交換していたか尋ねたが、回答期限の10月27日までに回答はなかった)

性教育は「家庭崩壊につながる」

 Q 性教育の何が問題なのか。

 A 私は小さい頃から、母に「女性は下半身の話をしてはいけない」と言われてきた。柔軟性は必要だと思うが、男としての使命、女としての使命はあり、(性別)役割分担は必要だ。性教育をすると、性に興味がわく。子どもの年齢にもよるが、性からは遠ざけなければならないと思う。

 Q 学校で教えなければ、誤った情報を信じてしまったり、妊娠してしまったりする実態があるのでは。

 A 性教育では、性の自己決定権が強調されるが、誰とでも性交をするようになると、性被害が起きると私は考えている。結婚していない男女関係の乱れを認めることになり、家庭崩壊にもつながる。性教育を推進する人は、色々な家族があっていいというが、家族は弱いもの。だからこそ、法律で「主流の家庭」(法律婚をしている男女の家庭)を支えないといけない。

 Q 03年7月2日の都議会で、当時の石原慎太郎都知事が七生養護学校の性教育について、「あきれ果てるような事態」と答弁し、04年1月の記者会見で「果たして小学校の段階から、ああいうレベル、ああいう内容のものを教える必要があるのか」と発言している。

 A 石原都知事が「七生養護学校は、良くない教育をしている」とはっきり言ってくれたのは大きかった。追い風になったと思う。

旧統一教会、性教育への考え方は

 旧統一教会の性教育への考え方は、どのようなものだったのか。

 旧統一教会系の日刊紙「世界日報」は02年、山谷議員が国会で問題視した性教育の教材が回収・絶版となったのを機に、特別取材チームを組み、04年には長期連載を掲載した。取材班の関係者の1人は取材に対し、当時、「過激な性教育」批判に力を入れていたことを認めた。

 教団の関連団体「国際勝共連合」のウェブサイトに掲載されている年表には、1993年に「過激な性教育への批判キャンペーンを展開」、2003年に「『過激なジェンダーフリー』反対キャンペーンを展開」とある。

 朝日新聞は、世界平和統一家庭連合と国際勝共連合に、性教育への考え方や反対運動について質問状を送ったが、10月下旬の回答期限までに回答はなかった。

元都議「性交は成長すれば自然にわかること」

 野牧氏に情報提供を依頼し、七生養護学校を視察した当時の都議3人のうちの1人、土屋敬之氏(71)にも、性教育を批判した理由や現在の考え方を尋ねた。

 土屋氏は「あえて性器の名前を子どもたちに言わせるような『過激な性教育』は、一部の組合系教員が教育現場に混乱と対立を持ち込むのが狙いだった」と持論を語った。性交については「成長すれば自然にわかること」として、「学問で性交を教えることはありえない。教えるとしたら、どこまで教えるのかが問題になってしまう」と話した。

 性教育に対する現在の考え方については、「当時は避妊を教えることにも反対していたが、今は現実を踏まえて、一律の授業ではなく、必要な生徒に避妊の仕方を教えるのは必要だと思うようになった」とも話した。

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この記事を書いた人
杉原里美
さいたま総局|県政・教育担当
専門・関心分野
家族政策、司法のジェンダー、少子社会、教育

連載性教育を問う(全10回)

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