2025年6月13日に公開される映画『リライト』は、同名小説を原作とするタイムリープ×青春ミステリー。09年と19年の2つの時代を舞台にし、300年後からタイムリープしてきた未来人と1冊の小説を巡る物語である。高校3年生の7月とその10年後を行き来しながら語られる物語の中で、鮮烈な印象を残すのが舞台となる広島県の尾道の風景だ。尾道でのオールロケでの撮影には、松居大悟監督とプロデューサーを務めたバンダイナムコフィルムワークスの岡田直樹氏の並々ならぬこだわりがあった。その狙いと今の時代のオールロケ映画の作り方を2人に聞いた。

映画『リライト』は、同名小説を原作とするタイムリープ×青春ミステリー。高校3年生の夏、主人公・美雪(池田エライザ)は、300年後からタイムリープしてきた未来人・保彦(阿達慶)と出会い、恋に落ちる。彼はある小説を読み、この時代に憧れてタイムリープしてきた。ある事件が起こった7月21日、10年後にタイムリープした美雪は、27歳の自分から一冊の本をみせられ、「あなたが書く小説」と告げられる。それは保彦がこの時代にくるきっかけとなった小説だった。10年後、作家になった美雪は小説を完成させたが、運命の日に高校生の美雪は現れなかった。いったい何が起きたのか? 1冊の小説を巡る、タイムリープ×青春ミステリーの幕が上がる (c)2025『リライト』製作委員会
映画『リライト』は、同名小説を原作とするタイムリープ×青春ミステリー。高校3年生の夏、主人公・美雪(池田エライザ)は、300年後からタイムリープしてきた未来人・保彦(阿達慶)と出会い、恋に落ちる。彼はある小説を読み、この時代に憧れてタイムリープしてきた。ある事件が起こった7月21日、10年後にタイムリープした美雪は、27歳の自分から一冊の本をみせられ、「あなたが書く小説」と告げられる。それは保彦がこの時代にくるきっかけとなった小説だった。10年後、作家になった美雪は小説を完成させたが、運命の日に高校生の美雪は現れなかった。いったい何が起きたのか? 1冊の小説を巡る、タイムリープ×青春ミステリーの幕が上がる (c)2025『リライト』製作委員会

 映画『リライト』の尾道ロケは、主要なスタッフと主演の池田エライザほか一部の役者陣が、2023年の8月上旬から9月上旬まで約1カ月間滞在して行われた。高校時代の学校のシーンは、尾道市の生口島にある瀬戸田高校で撮影。また高校時代の学校以外の場面に加え、10年後の大人になってからのシーンにも尾道の風景がふんだんに登場する。

 実は原作小説での舞台は、静岡県。尾道に舞台を移した理由としては、本作と同じくタイムリープをテーマとした名作で同地を舞台に撮影された『時をかける少女』にリスペクトを込めたとされているが、オール尾道ロケに決まるまでどのような経緯があったのか。松居大悟監督と岡田直樹プロデューサーに聞いた。

映画『リライト』を手掛けた、松居大悟監督(左)と岡田直樹プロデューサー
映画『リライト』を手掛けた、松居大悟監督(左)と岡田直樹プロデューサー

松居大悟監督 尾道ロケを言い出したのは、僕です。『リライト』という原作を映画化しようという話になったとき、(脚本を担当した)上田(誠)さんと僕と岡田さんの3人で集まって、「小説をどう映画にしていくか」という話をしている中で、自然と「尾道でやりたい」という方向になっていきました。タイムリープがテーマの一つということもあり、大林(宣彦)監督の『時をかける少女』をほうふつとさせる場所にしたいという思いもあって。映画好きな人にも、それをきっかけに見ていただけたらうれしいなと。

ただ、尾道でやるとなるとキャストもスタッフも全員連れていかなきゃいけないので、正直言うとめちゃくちゃ大変です。でも、岡田さんが「行きましょうよ」と言ってくれたので、「じゃあ尾道を舞台にシナリオを進めよう」と決まりました。

岡田直樹プロデューサー 正直、少しだけ後悔もしました(笑)。最初は北関東とか、予算的にも負担の少ない場所で進めるつもりだったんですよ。でも、話をするうちにやっぱり尾道で撮りたくて。原作の法条(遥)さんに確認したら「尾道で大丈夫ですよ」と快く承諾いただきました。

 松居監督と岡田プロデューサーは、同じ1985年生まれ。大林監督の『時をかける少女』が公開された1983年には、まだ生まれていなかったことになる。

松居 リアルタイムでは見ていないですが、大林監督の映画は、やっぱり(映画人としての)共通言語としてあります。『時をかける少女』ももちろん見ていましたし、尾道という街には昔から強く引き付けられていました。今回の企画は、東京から帰ってきた美雪の物語を通じて、尾道の街を切り取ることができるという点で魅力があったんですよね。

岡田 あと、尾道を舞台にした名作は多いけど、最近はあまりないなという思いがあって。そこで、松居さん、上田さん、ライン・プロデューサーの石井(智久)さんとやろうと決めたのが始まりです。

重要なモチーフとなる、「風鈴」もロケハンで発見

 尾道をロケ地と決め、2022年秋にまず2泊3日でシナリオハンティングに出かけた。そこで感触をつかんだあと、3回に分けて10日以上のロケハンを重ねて、本格的にロケ場所を決めていったという。

松居 最初のシナハンのときは福山から車で向かいました。近づいていくうちに穏やかな風が吹いてきて、そこから「風」をテーマにしようと考え始めました。降り立ってみると、左に海、右に山道が奥まで続いていて。タイムリープとは全くかけ離れたこの街だからこそ意味があると感じて、やっぱりこの街で画を作りたいという思いが、どんどん膨らんでいきましたね。

 最初に向かったのは生口島で、学校の下見が目的でした。事前にいくつかの学校に前向きな返答をいただいていたので、そこを巡っていく感じでした。小学校や中学校は統合されて廃校も多かったですが、“生きている学校”を撮影に使いたいということで、最終的に瀬戸田高校に決まりました。

松居監督と岡田プロデューサーは同じ1985年生まれ
松居監督と岡田プロデューサーは同じ1985年生まれ

岡田 その後は、どこがいいかねと話しながら、商店街や神社仏閣などをひたすら歩いて。

松居 その時点ではシナリオは準備稿のような段階で、「居酒屋」とか「路上」とかざっくりとした舞台設定しか決まっていない状態。ひたすらロケハンで場所を見て回って、後ほど僕がロケ地の場所をイメージしていくって感じでした。

岡田 クライマックス近くででてくる、同窓会の2次会の舞台となるカラオケスナックもそこで見つけましたね。

松居 原作では、2次会の場所はカラオケボックスなのですが、商店街にあるカラオケスナックの雰囲気が抜群に良かったので。「リンダリンダ」というお店で、ママも含めて本当に良くしてくれて、2次会のシーンはここで撮ろうと決めました。1次会は駅の反対側にして、歩道橋を渡って歩いていくという流れも、実際に歩きながら決まっていった感じですね。

 劇中で大きなポイントとなるお祭りのシーンは3つの寺社を組み合わせていて、艮神社、御袖天満宮、そして千光寺です。200人近いエキストラに来てもらって、艮神社で撮影したのですが、階段が1つしかなく、花火を見る位置をつくるのが難しくて。結果的に御袖天満宮まで移動して、そこから花火を見るという流れにしました。

 あと千光寺と言えば、作品の中で重要なモチーフとなる、「風鈴」の存在も。ちょうど千光寺で福鈴(ふうりん)まつりが開催されていて、「こんなイベントあるんだ」って。風鈴がすごくすてきで、「風」というテーマとも重なる。風鈴の音を聞いて涼しくなる感覚って、未来人にとってはきっと理解できない。そういう「日本的な感性」を映したくて場面を追加しました。実際に尾道に存在するものと、映画と偶然リンクしていった感じです。

岡田 また本作では、尾道での“日常”を撮りたいということを松居さんがおっしゃって。「尾道=観光」のイメージが強いですが、むしろ意図的に観光地らしさを抑えたんですよね。

松居 いわゆる“尾道紹介映画”ではなく、あくまで“尾道に暮らす高校生と10年後の彼ら”の物語を描きたかったんです。実際にそこに住んでいる人たちがどんな日常を送っているかをなるべく想像して、“デートするならこういう場所だよね”という感覚を持ってロケ地を選びました。

 石畳の坂道といった“ザ・観光地”みたいなところは、できるだけ避けました。もちろん、その場所もすてきなのですけど、それだけでは“尾道映画”にはならないと思っていて。むしろ、何気ない通り道や海沿いのちょっとした地蔵があるような所、そういう“日常の中の特別さ”を切り取るように意識しました。あと、坂道の路地でアングルを探すと、どうしても大林監督の作品に重なってしまうということもあります。(笑)

岡田 “オール尾道ロケ”とうたっていて、東京の出版社でのシーンも、尾道のビルの中にわざわざ編集部のセットを作ってそこで撮影しました。編集者役のチョコレートプラネットの長田(庄平)さんにも、忙しいスケジュールの合間を縫って、東京のシーンを撮影するために尾道まで弾丸で来ていただきました。

松居 東京らしさを出すより、この作品に流れる空気を一貫して表現するために、あえて尾道で撮りました。やっぱり、その場の空気感が俳優の表情にも出るし、それが作品に映ると思うんです。映画では、映らないものが一番大事だったりします。温度、匂い、雰囲気。それは街の人の空気やスタッフの熱量だったりもしますし、それが画に染み出るような気がします。

6月13日(金)全国公開。出演:池田エライザ、阿達慶、久保田紗友、倉悠貴、橋本愛ほか/監督:松居大悟/脚本:上田誠/原作:法条 遥『リライト』(ハヤカワ文庫)/製作・配給:バンダイナムコフィルムワークス
6月13日(金)全国公開。出演:池田エライザ、阿達慶、久保田紗友、倉悠貴、橋本愛ほか/監督:松居大悟/脚本:上田誠/原作:法条 遥『リライト』(ハヤカワ文庫)/製作・配給:バンダイナムコフィルムワークス

 尾道は、東京から直線距離で600km以上あり、交通の便も決して良いとは言えない。キャスティングやスケジュール調整での苦労は当然あったという。ただそれ以上に、1カ月間泊まり込みで映画を撮影できたことは、プラスの面も多かったようだ。

松居 やっぱり距離がある分、撮影隊を東京から尾道まで連れていくのは大変でしたし、俳優部の皆さんも、当然スケジュール調整が必要で。メインキャストの方々にはできる限り現場にいてもらいましたけど、特に大人のキャストは関東近郊在住の方も多かったので、尾道まで来てもらうのは簡単じゃなかったです。最低でも1泊2日、実質1.5日は必要になるので。それも含めて“この作品に懸けたい”と思ってくれるかどうかが、キャスティングに直結していました。

岡田 でも、結果的には良い役者さんが集まりましたよね。

松居 はい。本当に良い方々ばかりでした。主要キャストは、作品内容に沿うように、それぞれが“自分が主役”という意識で挑んでくれて。

岡田 スタッフも1カ月間、40~50人くらいがずっと現地に泊まり込みでしたよね。

松居 尾道での滞在期間中は、同じホテルにずっと泊まりました。朝出ていくのも一緒、帰ってくるのも一緒なので、ロビーで自然と、明日の段取りが共有される。これはやっぱり地方ロケならではの強みだなと感じました。

岡田 現地滞在だと、効率的に動けますよね。

松居 そうなんです。東京から関東近郊に移動するよりも、現地に泊まり込みで撮影できるほうが断然効率は良いです。朝も夜も同じ場所で準備や打ち合わせができるし、ロビーで自然と明日の話が始まる。集中して映画に取り組むには理想的な環境でした。

岡田 そういう共同生活って、効率的なだけではなく、映画作りにとってすごくプラスになりますよね。

松居 みんなで一緒に寝泊まりして、同じご飯を食べて、映画のことをずっと考えている状態。集中力も違いますし、アイデアもどんどん出てくるんです。もちろんケンカもあります。でも、止める人もちゃんといる。東京だとどうしても自宅に戻って日常に戻るじゃないですか。別の仕事のメールが来たり、家庭があったり。だけど地方ロケだと、それがない。“作品から離れないで済む”というのが一番のメリットかもしれません。

岡田 天候面でも、台風が来たり、雨が降ったり、いろんなアクシデントがありました。

松居 でも夏祭りのシーンでは、撮影直前まで雨が降っていたのに、夜には晴れて、路面がぬれて、明かりが反射してキラキラして見えたり。結果的には運が良かったというか、天が味方してくれた感じですね。

岡田 学校や地元の自治体の協力も大きかったですよね。

松居 めちゃくちゃ協力的でしたね。本当に「NO」と言われることがほとんどなかった。尾道市の観光課に制作部のスタッフが最初に行って関係性を築いてくれて、そこから“ここで撮りたい”“あそこも使いたい”と広げていけたらしくて、本当にありがたかったです。

岡田 学校関係でも生徒さんたちに出演してもらったり、校長先生が自ら現場に来てくださったりと、本当に心強かったです。

松居 観光課の方々をはじめ、地元の皆さんがとても協力的で、何をお願いしても快く応じてくださって。ロケの成功は、尾道の皆さんの力によるところが大きいです。

 “『時をかける少女』をリライトする”を合言葉に、若きクリエーターと地元とが一体となって完成させた「令和の尾道映画」。それは尾道が放つノスタルジーだけではなく、今の現地の魅力をも封じ込めた作品となっている。

松居 作品としては、細かいところに気づくと、どんどん物語がつながっていくつくりになっています。SFでもあり、青春でもあり、恋愛でもあり、いろんな要素が混ざったジャンル横断的な映画で。一つにくくるのが難しいからこそ、まっさらな気持ちで見てほしいです。

岡田 今まで見たことのない映画になっていて、見終わったあとに誰かと話したくなるような作品なのですが、多分フラットに見るのが一番楽しいと思います。公開されたら早めに足を運んでいただきたいですね。

松居大悟(まつい・だいご)
福岡県出身の映画監督・劇団ゴジゲン主宰
1985年11月2日生まれ。2012年、映画『アフロ田中』で映画監督デビュー。以降、『私たちのハァハァ』(15年)『ワンダフルワールドエンド』(15年)『くれなずめ』(21年)『ちょっと思い出しただけ』(22年)など、青春や日常をテーマにした作品を多数手掛けた。次回監督作『ミーツ・ザ・ワールド』は25年10月24日公開
岡田直樹(おかだ・なおき)
バンダイナムコフィルムワークスの映画製作課に所属するプロデューサー
1985年6月6日生まれ。商社勤務を経て映像製作会社へ入社。石川慶監督『愚行録』(17年)、北野武監督『アウトレイジ 最終章』(17年)の制作に関わる。その後、『蜜蜂と遠雷』(19年)、『Arc アーク』(21年)でアシスタントプロデューサーを務める

この記事は連載「エンタ!インタビュー」に収容されています。フォローすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。

この記事をいいね!する

エンタメのここだけの話をお届け!
日経エンタテインメント! メール

 テレビ、音楽、本、映画、アニメ、ゲームなどのエンタテインメント情報を幅広く配信するメールマガジンです。流行に敏感で知的好奇心が強く、トレンドをリードする人たちに役立つ情報を掲載しています。登録は無料!
 ぜひ、ご登録ください!

[画像のクリックで別ページへ]