アヤワスカの神様から「愛はこめかみから湧き出す」と学んだ私の全意識はこめかみに集中され、寝る場所がないけどどうにかならないかなと思っていたら「狭いし壁も薄いし隣人のいびきも聞こえるし私がオタクだってことがばれるけど、それでも良ければ我が家においで」と、女性Ｎ様からお声がけをいただいた。愉快なＮ様は「みんなから驚かれるんだけど、私は七時五十分に毎朝起きて八時に家を出る」と言った。肩こりが酷いから枕にはこだわっている。どれもこれも有能な枕だから、あなたの好きな枕を選べと言われたので、肩こりと無縁の私は「なんでもいい」と答えた。

ことの発端は、私が「誰か泊めてくれないかな」と吉祥寺で途方に暮れていたことにある。無様な私を見つけたＮ様から「ちょうど吉祥寺で一人酒を飲んでいたから、一緒に飲みませんか？」とご連絡をいただいた。この時点では、まだ、Ｎ様は健気だった。敬語も使うし、丁寧だし、いつも文章から力をもらっている坂爪さんに直接御礼を言えて嬉しいなどと、嬉しいことを言ってくれた。だが、酒が進むにつれて「敬語やめてもいい？圭吾に敬語も変だしね。あはははは！」的な展開になり、金を気にして酒が飲めるかと豪放磊落になり、店を変え品を変え、ひたすら飲みまくった。

Ｎ様から「もっと怖い人かと思っていたけれど、坂爪さん聞き上手だからずっと話しちゃう」と評価を得た私は「しめしめ。私のテクニックに騙されおったな」と性格の悪いことを思い、しかし、他者からそれ相応の評価を得ることは気分の悪いことではないので、聞き上手を続けた。長髪の私に、挑発は義務だ。話を聞くのは「聞いて聞いて聞きまくり、よし、ここがこの人の弱点だなと思ったポイントを思い切り挑発する」ことに楽しさを見出すからだ。ヘタな刀で斬られると痛いが、見事な太刀捌きで斬られると、気持ちよくなる。言いたいことを言い、それで相手を不快にさせるのではなく、図星過ぎて気持ちいい、悩みも何もかもどうでもよくなったという着地点を目指す。

Ｎ様は「男を連れ込むのは久しぶりだからどきどきしちゃう」と言った。家にあるものは厳選しているつもりだけど、それでもものが増えてしまうと言うので「厳選とは、好きなものを捨てることだ。大好きを残すために、好きを捨てる厳しさを選ぶことを厳選と言うのだ」と言ったら、ただでさえ今おしっこを我慢しているのに尿漏れをしちゃいます、酔っている時にそんな真実を言わないでくださいと怒られた。Ｎ様の家で風呂を借り、ドライヤーで髪を乾かしていたら「トリートメントを使え。化粧水を使え。栄養剤を使え。唇美容液を使え」と、あれこれ差し出された。私が言いなりになっていたら「楽しい」とＮ様は笑った。

警戒心が解けた時の女性の笑顔は、本当に可愛いなと思う。無邪気に遊びながら「楽しい」と言っている時の女性は、花であり、蝶であり、童女である。これが同一人物なのかと驚くほど、顔が変わる。これを見るのが楽しい。女性の顔つきを変えて「俺もまだまだ戦える」と、自分の腕前を確認する。寝る場所がない時に「どうにかなる」とは思うが「どうにかする」とは思わない。どうにかするは自力。どうにかなるは他力。アヤワスカの神様から「常に笑顔。ひまわりスマイルは勝利の秘訣」と学んだ私は、自力で生きることを放棄した。みぞおちに意識を集中させながら、口角をあげる。嘘でもいいからひまわりスマイル。さすれば、奇跡の方から舞い込んでくる。ナンパはしない。自分の波動をあげるだけ。さすれば、女性の方から舞い込んでくる。男一匹、今日も行く。