【そもそも解説】性教育の現状とは 日本と世界を比較して分かること

島崎周 塩入彩

 子どもたちを性暴力の被害者にも加害者にもしないため、その必要性が指摘されている性教育。日本や世界では、そもそもどんな教育が行われているのでしょうか。解説します。

 ――日本の学校では、どんな内容を教えているのか。

 日本の小・中学校の授業では、思春期の心身の発達や生殖の仕組みは扱われるが、受精の前段階にある性交について教えられることは少ない。避妊方法、人工妊娠中絶などについても同様で、子どもが性暴力から身を守り、リスクある性行動を避けるための教育が不足している、と懸念する教育関係者は少なくない。

 ――教育が不足している原因には何があるのか。

 1998年度に学習指導要領に盛り込まれた「はどめ規定」の存在が、指摘されている。小5理科では「人の受精に至る過程は取り扱わない」、中1の保健体育では「妊娠の経過は取り扱わない」と書かれている。

 2000年代に各地の学校の取り組みが批判される「性教育バッシング」が起きた際は、はどめ規定を根拠として、学習指導要領の違反・逸脱などとする批判が相次いだ。

 こうした経緯もあり、教育現場では性教育が敬遠される面もある。文部科学省ははどめ規定について、「性交を教えてはいけないと禁止するものではない」とするが、事実上の障壁となっている。

 ――国はどんな教育をしようとしているのか。

 子どもへの性暴力が社会問題化したことを受け、文科省は23年度から「生命(いのち)の安全教育」を本格的に始めた。「子どもが性暴力の被害者、加害者、傍観者にならないための教育」としているが、義務教育段階では性交などに触れておらず、性教育としては不十分だという声もある。

 ――世界では、どんな性教育が行われているのか。

 人権尊重を基盤に、性交を含めて幅広く学ぶ「包括的性教育」が広がっている。

 ユネスコ(国連教育科学文化機関)などは18年、「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」の改訂版を作成。人権尊重、ジェンダー平等などの観点も含む包括的な性教育は、「安全で健康的で肯定的な関係性を構築するための態度とスキル」を身につけるために必要だとしている。

 ――世界は日本の性教育について、どのように評価しているのか。

 日本は23年1月、国連人権理事会加盟国による審査で、国際基準に沿った包括的性教育の実施を求める勧告を出された。しかし、政府は「既に学習指導要領に基づき、児童生徒の発達段階に応じた性の指導が実施されている。包括的性教育は、受け入れられない」などとして、応じていない。

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この記事を書いた人
島崎周
東京社会部|文部科学省担当
専門・関心分野
性暴力、性教育、被害と加害、宗教、学び、人権
塩入彩
首都圏ニュースセンター|教育、武蔵野地区担当
専門・関心分野
ジェンダー、教育、性暴力、性教育
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    濵田真里
    (Stand by Women代表)
    2025年6月11日12時0分 投稿
    【視点】

    保護者として、子どもたちが性暴力の被害者にも加害者にもならずに育つためには、家庭での対話ももちろん大切ですが、学校や園といった場で、子どもたちが「自分や他者の体を大切にすること」を学べる機会があることが重要だと思います。 以前、子どもたちが通う保育園の保護者会で「プライベートゾーンをどのように教えていますか?」という質問が出て、先生が日々の取り組みやおすすめの絵本を丁寧に説明してくださいました。紹介された絵本に保護者たちの関心も高く、こうした話題が保護者の間でも自然に共有されるようになってきていることに、小さな希望を感じました。園では絵本の貸し出しも行っているため、性教育に関する本も加えてもらえるようお願いし、置いてもらえるようになりました。 性教育の必要性を感じながらも、制度や社会の制約の中で取り組みにくさを抱えている先生方が多いことも理解しています。だからこそ、保護者の側から「こうした学びの機会をもっとつくってほしい」と声をあげていくことが、教育現場を支える力にもなるのではないかと思います。家庭と学校・園が対立するのではなく、ともに子どもの安全と未来を育んでいける関係でありたいです。

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