「実績ある人は狙わない」日大重量挙部元監督を逮捕“学費詐欺”か なぜ20年発覚せず
[2025/06/11 02:24]
日本大学重量挙部の元監督・難波謙二容疑者(63)が、特待生の保護者から、本来、免除されるはずの授業料などをだまし取った疑いで、逮捕されました。
インカレで22回もの優勝を重ねた屈指の名門・日本大学重量挙部。卒業生には、モントリオールオリンピックの銅メダリストも。ここ3大会も、日本代表選手を輩出し続けています。
懲戒解雇されるまで、24年にわたり監督を務めてきた難波容疑者も重量挙部のOBでした。
難波容疑者は、2023年度に入部予定だった特待生の保護者ら4人から、現金205万円をだまし取った疑いが持たれています。
重量挙部では、特待生に送る入学のための書類を、コーチが大学側から受け取っていました。そこに含まれていた授業料などの振込用紙を悪用したようです。
難波容疑者の指示のもと、金額を水増しした嘘の書類を独自に作成して、保護者らに請求。重量挙部の口座に振り込ませていたとみられます。嘘の書類には『特待生として申請しています。“2年次以降”は徴収されません』とあります。これはつまり、本来、初年度から減免されるはずの授業料などを要求するものでした。
特待生として入部した重量挙部のOBの両親は、息子のためにと、やむなく200万円ほど工面したそうです。
「入学するタイミングで、一括でお金を払わないといけない話があった。当時、母は、定期預金とかを解約して入れたと聞いている。苦労して稼いだお金だと思うので、むかつきますよね。ありえない、教育者として」
被害は、これで収まりそうにありません。
実は、不正があったことは、去年、夏の段階で日本大学が公表していました。
事態が明るみになってから逮捕まで11カ月ほどかかったことになります。大学が調査を進めたところ、難波容疑者は、2005年度以降、58人の保護者らから不正に金を受け取っていたことが判明。被害総額は、5300万円を超えていたそうです。
日大側は、去年のうちに被害者全員に返金を完了するとしていました。
「返金が来たので、何かしら徴収されていたのだと思う。(Q.返金はいつのタイミング)去年の8月。封書で何度か謝罪があった。(Q.当時は本当に気づかなかった)全く気づきませんでした」
難波容疑者は、日大で生物資源科学部の教授も務めていました。だまし取ったとされる金は、自身の研究室にあったキャビネットに保管。その多くは、自分のために使っていたとみられています。車の点検費用やコーティング代のほか、スーツやバッグ、香水などの購入にあてていたようです。
ただ、難波容疑者は、容疑を否認しているそうです。
「寄付金として、保護者の了解を取り付けて、もらったお金という認識でした。私的に使用した寄付金は一切ありません」
学生時代、ウェイトリフティングに打ち込んできた卒業生は、こう話します。
「全然、練習は見に来ない。王様みたいな感じで、どのコーチ陣も、いち早く、監督の機嫌を取らないといけないみたいな感じ」
「難波監督は、本当に一番上の会長みたいな立場。誰かしらコーチに指示をして(虚偽の書類を)作らせていたんじゃないか」
日大には、特待生の種類が4つあります。入学金から授業料などまで免除されるものから、一部しか免除されないもの。ただ、新入生には、自分がどの特待生として合格したのか、通知もなかったそうです。
捜査関係者も、この仕組みが、不正な請求をばれにくくした原因の1つになったとみています。
「インターハイ優勝クラスの人とかは、被害に遭ってなくて。ベスト4からベスト8ぐらいの人が被害に遭っている印象。中堅ぐらいの実力の人たちが、被害に遭っている。本当に強い人は、明らかに奨学金もらえるのに、『何で払うんだ』という違和感を持たれると思ったのか。そういったところも何かこざかしい」
「不正行為により、本学の社会的信頼を失墜させたことは、痛恨の極みであり、本学として社会に対し、深くおわびを申し上げるとともに、同人に対し、引き続き、厳正に責任追及を行います」
ただ、日大は、ほかのスポーツ部でも、本来、特待生が払う必要のない費用を振り込ませていたとしていて、合わせて54人の保護者らに6800万円あまりを返金したということです。
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■20年にわたる“不正”の実態◆社会部・警視庁担当の加藤聖也記者に聞きます。
20年にわたる不法行為。発覚した手口です。
“代理受領”という、保護者の代わりに部が大学に学費を納める仕組みを利用していました。
まず、重量挙げ部のコーチが、大学から保護者に向けた“正規の書類”を受け取ります。コーチは、これを保護者に渡さず、学費などが水増しされた“偽の書類”を渡します。保護者は、その書類に基づき学費などを支払いますが、入金先は大学ではなく、部の口座で、大学への入金は、コーチが代理で納付していました。そして、水増し分が難波容疑者に渡っていました。
(Q.20年も不正行為が発覚しなかった背景に何があるのでしょうか)
「警視庁は、20年も発覚しなかったのは、大学側から学生に対し、“特待生認定”の通知がされていなかったことを大きなポイントととして挙げています。警視庁によりますと、日本大学では、特待生に4種別あります。例えば、『授業料のみの免除』『授業料と設備資金の免除』というのがあります。捜査関係者によりますと『特待生であっても、中身は知らされず、免除額が記載された通知も来ないため、自分が“どの特待生なのか”がわからないことが利用された』といいます。日大関係者からは『インターハイ優勝など、実績のある人は狙わず、ベスト4やベスト8など、基準があいまいなところを狙っていた』という話も出ています。つまり、ピラミッドの上の人たちは狙わず、下の人たちを狙って、発覚を免れようとしたのではないかという話も出ています」
(Q.重量挙げ部の中で、何が起きていたのでしょうか)
「捜査関係者によりますと、過去にも複数人のコーチが関わっていたとみています。ただ、これまで明るみになっていなかった。学生と非常に距離が近く、慕われていたコーチもいましたが、重量挙部の絶対的存在だった難波容疑者に逆らえず、幹部らが入学生やその保護者を食い物にする構図が続いてきたとみています」
日本大学の調査では、陸上競技部とスケート部でも発覚しました。
陸上競技部では、4000万円以上。スケート部では、約2400万にも及ぶ被害が発覚しました。ただし、日本大学は「特待生ではない部員の授業料などにあてられ、幹部の私的流用は認められていない」と説明しています。
◆日大は、ガバナンス改革の途上にありますが、なぜ、複数の運動部に及んでいるのでしょうか。大学ジャーナリストの石渡嶺司さんに聞きました。
石渡さんは「日本大学は、複数のキャンパスに学部が点在していて、本部のガバナンスが効きづらい状態になっていた可能性がある。金銭のやり取りなどは、各運動部の“指導者任せ”なのが実態ではないか」といいます。その指導者に関しても「運動部ごとの独立性が極めて高く、在任期間が長い指導者に権力が集まりやすくなっている」と指摘します。