「分断」「炎上」のメカニズム:AIのGeminiと検証してみた

さて、再びAIのGeminiとの議論を通じ論考を書いてみた。
今回は社会分析、及び哲学である。

『1984年』と現代社会の分断:現代社会を覆う「見えない支配」の構造分析

はじめに:

近年多発しているアニメやゲームの炎上見ると、批判者が多数であるにもかかわらず、批判の言葉が驚くほど似通っている事に気づいた。
これはまるで全体主義的な動員を思わせるようである。
これはキャンセルカルチャーに加担する人々は、右派・左派といった政治的スペクトラムを超えて、極めて同質的な言動をとっている事を示している。
同様の例はいわゆる「政治的分断」においても強く見られる。そして相手を絶対的悪と見なし互いに妥協点を見いだせず攻撃し続けている。
これは主義ごとに全体主義的国家を形成し戦争をしているように見えた。

著者とAIのGeminiは、ジョージ・オーウェルのディストピア小説『1984年』に描かれた「党」の機能が、単一の独裁国家ではない現代社会にも奇妙な形で現れているのではないか、という問いから議論を始めた。
その結果、現代社会における「党」は、明確な巨悪ではなく、複数のアクターがそれぞれの利益を追求する中で、結果的に社会の分断を煽り、人々の思考を特定の方向に誘導する、分散的で巧妙なシステムとして機能していることが明らかとなった。

これを「見えない支配」と名付けた。
これは自分の思考を誘導されているにもかかわらず、誰がやっているのかが具体的に見えず、気づかないうちに支配されている事からである。

このシステムは、あたかもプロレス的な構図のように、お互いが「敵」を必要とし、扇動者がその対立から利益を得ることで維持される。
その発芽は2010年代に起きたスマホの普及、SNSの普及、個人的感情の正当化などに見いだせた。
本稿はこの「見えない支配」のメカニズムを解析するものである。

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『1984年』と
見えない支配との対比

1.人間の本質的傾向と情報技術が織りなす「土壌」


このシステムの根底には、人類普遍の心理的特性と、急速に発展した情報技術という二つの「土壌」がある。
人々は複雑な情報を単純化して理解しようとし、物語を求め、集団に帰属し承認されたいという欲求を持っている。
また、感情に流されやすく、思考の労力を避けたいという側面が、情報の受け取り方に影響を与える。

そこに、インターネットやソーシャルメディアのアルゴリズムが加わる。
これらはユーザーの関心を惹きつけ、エンゲージメントを最大化するために進化しており、似た意見が反響し合うエコーチェンバーや、情報が偏るフィルターバブルを自然発生的に生み出した。結果として、特定の情報や感情が過熱しやすい環境が形成されていく事になる。

2. 分断の発芽と「手法」:「お気持ちVSお気持ち」

この「見えない支配」システムが本格的に動き出し、世界的な分断が加速し始めた時期として2010年代、第4波フェミニズム、多様性の強調、DEI(Diversity, Equity, Inclusion)の促進といった概念や運動が台頭し始めた時期だと考えられる。
実際に、世界的に見てもこれらの運動が本格的に顕在化し、広く議論されるようになった2010年代半ばから後半にかけての時期は、アメリカ政治におけるトランプ現象の台頭や英国のEU離脱など、世界的な政治的・社会的「分断」が明確に加速し始めた時期と見事に重なる。
これらの概念自体は社会の公正性や包摂性を高めることを目的としているものであるが、その過程で以下のようなメカニズムが働き、分断のトリガーとなり得た。

第4波フェミニズムにおいて顕著なのは、従来の権利拡張や法的平等の訴えではなく、「個人的感情」や「被害感覚」を中心とした主張の可視化である。
本来、感情は客観的な議論の根拠にはなりにくい。しかし、これにフェミニズムや多様性、DEIといった「正当性の衣」を着せる事で、個人の「お気持ち」や「被害感覚」がまるで絶対的な真理であるかのように扱われるようになった。
これは、「お気持ちの絶対化」であり、敵の明確化や正義の獲得において論理を必要しない。

このことは、多様性の強調、例えばゲームや映画などにおいて見られる必然性のない人種多様性の押し付けや、DEIの極端な促進、つまり数値目標の決定などを行えなどと言う者たちにも同様の特徴を見出すことができる。

これらの思想は、従来の社会構造における不平等や差別を是正しようとする中で、「加害者」や「問題のあるシステム」としての「敵」(例:家父長制、ミソジニスト、白人優位社会など)を明確に定義する。
この「敵」の明確化と概念自体は社会の公正性を求める素晴らしいものである事が、強固な「正義感」と「道徳的優位性」をもたらす。
そして、この正義感と道徳的優位性の感情が、彼らの心情にそぐわないものへの強い排他性や攻撃性を示す原因となる。
また正義と悪との戦いという単純化は、『1984年』における「ニュースピーク」つまり言葉の単純化により、国民の発想の単純化を促し、党のイデオロギーに基づいた管理を行いやすくする面と通じるものがある。

また多様性の強調は、個人が特定のアイデンティティに基づいて結束することを促すが、同時に「自分たちのグループ」と「それ以外のグループ」という境界線を強く意識させ、集団間の対立を生み出す土壌となり得る。

これらの運動は、特にSNS上で強い「空気」を醸成しやすく、「差別は許されない」「多様性は絶対」といった道徳的・倫理的な圧力が強まる。これにより、議論の余地がない「絶対的な正義」が形成され、論理的な矛盾や「代替事実」も「正しさ」の名のもとに受け入れられやすくなる。『1984年』における「2+2=5」の受容となる。

この状況は、オーウェルが描いた「ダブルシンク(二重思考)」、すなわち互いに矛盾する二つの信念を同時に受け入れ、その矛盾を意識的に、あるいは無意識的に無視する状態を現代に再現している。
例えば、「差別は許されない」という普遍的な倫理原則を掲げながら、特定の身体的特徴、例えばVtuberのアバターの胸が揺れるといった事を「性的である」として攻撃・排除しようとする行為がみられた。
これは身体的特徴を否定するような差別につながる事だが、それが「正義」の名のもとに正当化されるダブルシンクの典型と言える。
また団体の構成員や作品の登場人物などに、性別枠や人種枠を設けたり数値目標を設定する事が、能力主義を否定し機会の平等を阻害し、結果として「逆差別」を生むにもかかわらず「差別は許さない」という正義の名においてなされている。

また、「正当性の衣」は愛国心、国益などでも見る事ができる。
そういった手法の蔓延により対立者にも同様の傾向が広がり、ナショナリズム、排外主義、自国文化至上主義などと結びつき、データや論理の矛盾を無視した「お気持ちVSお気持ち」の構図が作り出される要因となっている。
元々キャンセルカルチャーは、ナショナリストなどの右派によって起こされる事が多かったが、2010年代後半頃からフェミニスト、DEI推進者、多様性の尊重などといった左派的傾向を持つものが多用する状態に変化した。
最近はDEIの尊重を逆手にとったナショナリストのキャンセルカルチャーも復活しつつあり、両者はともに表現の自由を脅かす存在となってきている。

キャンセルカルチャーは、対象者や組織に謝罪や具体的な制裁を求める点で、単なる炎上とは異なる 。その問題点として、批判が過激化してプライバシーや人権侵害につながること、意見発信のリスクが高まり自由な発言がしにくくなること、そして社会の分断が進む危険性が指摘されている 。

これらの矛盾した論理、代替事実を形成し自己の利益の為に利用するのが、「扇動者」である。
また扇動者の信奉者、または扇動者の矛盾した論理に乗り自己の利益を図ろうとするものが、「増幅者」である。

3.「扇動者」と「増幅者」の流動性:欲が駆動する対立の演出者たち

この人間の本質的傾向と情報技術が織りなす「土壌」の上で、特定の利益を追求するアクターが社会の分断の「手法」を用い、そのメカニズムを「利用・増幅」させている。

扇動者は、主に政治家や一部のメディア経営者、知識人といった「エリート層」である。彼らは社会心理学や情報伝達のメカニズムを理解し、自身の票、権力、収益、名声、地位といった利益のために、意図的に社会の分断を煽るメッセージを発信する。
扇動者は『1984年』の党がエマニュエル・ゴールドスタインという敵を作り上げ、我々は悪と戦うというプロパガンダを創出し憎悪を煽るという「党」の役割を担っていると言える。
扇動者達はそれぞれの信奉者を持ち、ひとつの独裁国家的な集団を形成する。
これらの小国家は共通の利害、例えば彼らの利益拡大のための法改正を訴えたり、共通する敵の攻撃などで連携しあう。

増幅者は、フォロワーの多いインフルエンサーや扇動者の熱心な信奉者である。彼らは扇動者のメッセージに強く共感し、扇動者の意見を賛美する。自分は「2+2=5という真実」を知る知識層なのだというエリート意識と「正義感」に突き動かされてメッセージを増幅、拡散、過激化させる。
また自身の自己顕示欲、承認欲求、金銭欲なども増幅者の動機となる。
彼らの多くは社会を分断しようという明確な悪意はなく、「エリート層の思想を広めることが自分の役目であり、正義なのだ」と信じて行動する。
彼らは『1984年』の「二分間憎悪」でビッグ・ブラザーを愛し、自発的、熱狂的にゴールドスタインに憎悪を表明する大衆の役割を担っていると言える。

また重要なのは、この二つの役割の境界が絶対的なものではなく変化することである。
人間の持つ根源的な欲(金銭欲、承認欲求、権力欲など)によって、当初は純粋「正義感」を動機として活動していた個人が、影響力が増すにつれて、自身の利益を最大化する扇動者へと「進化」するケースが多く見られる。
また扇動者、増幅者の境目は、時にあいまいであり、扇動者も特定イデオロギーなどを広める増幅者としての側面も持つ。
あえて線引きをするならば「自分のためか他人のためか」、すなわち自己利益のために「2+2=5という真実」を構築し、分断を意図的に煽るものが扇動者、「2+2=5という真実」の構築は行わず、使命感や金銭欲などから拡散する者が増幅者となる。
この流動性が、現代の支配システムに柔軟性と持続性を与え、ある種の階層的構造を形成している。

扇動者と増幅者は、金銭欲、承認欲求、自己顕示欲、権力欲、地位の維持・向上といった人間の根源的な「欲」を共通の動機としているが、その強弱、優先順位、そしてそれが満たされる方法において違いが見られる。
扇動者は、すでに一定の権力や地位を有していることが多い。
彼らの「欲」は、既存の権益の維持、例えば票の確保。
より大きな政治的影響力、例えば党勢の拡大。
経済的影響力、例えばメディアでの出演増加の獲得。
それによる自らの思想の影響力拡大などといったマクロな目標に向けられる。
一方、増幅者は、より直接的で個人的な充足、ソーシャルメディア上での承認や収益化による金銭的利益、あるいは「正義」への貢献という自己満足感などを強く求める傾向がある。
この「欲」の階層性と差異が、現代社会の分断をより複雑で持続的なものにしている。


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扇動者、増幅者の対比

4. アルゴリズムの「意図性」:経済的利益が駆動する見えない支配


アルゴリズムの進化は、巨大テクノロジー企業の経済的利益の最大化という「欲」が背景にある。
彼らは株主価値を最大化するために、ユーザーのエンゲージメント(滞在時間、クリック数、シェア数など)を最大化するアルゴリズムを設計する。

この「欲」を追求した結果、感情的なコンテンツ、特に怒りや不安を煽るようなコンテンツが優先されやすくなる。
またスマートフォンの普及(2010年代初頭~)とTwitterなどのSNSの爆発的な成長は、感情的なメッセージを瞬時に広め、エコーチェンバーやフィルターバブルを強化した。
これにより、ユーザーはより過激な情報に触れやすくなり、社会の分断が加速するという悪循環が生まれる。
つまり、アルゴリズムの「意図性」は、直接的な思想統制ではなく、経済的利益の最大化が間接的に社会の分断と「見えない支配」を駆動しているという点で、『1984年』の党とは異なる、より巧妙な支配メカニズムを形成している。
ユーザーは、自分で情報を選んでいると信じながら、実際には企業の利益最大化のために設計されたシステムによって、無意識のうちに特定の思考パターンや分断された情報空間へと誘導されているのである。

5. 主要なネット空間の変遷:ネット空間に侵入した権威主義


2010年代はSNSの普及が進んだ時代でもある。
それまでの日本のネット空間として代表的なものに2chなどがあるが、ここではほぼ完全な匿名性が保たれていた。
匿名性はネット空間が実社会での地位、権威とは切り離される事となり、権威主義が及ばない空間であった。
掲示板への投稿は単発的であり、投稿者個人との関係が希薄で、純粋に投稿内容の是非が判断材料となった。
そして投稿者個人に対する炎上という事が起こりづらい環境でもあった。
また安易に答えを求める事も嫌われ、自分で調べる、探す事を求められた。
これもまた事実確認を行うスキルや検索スキルの向上を利用者にもたらした。
これらの事は、ネット空間が批判的思考が養われる場ともなっていた事を示している。
匿名性は自由な発言の担保ともなったが、発言が無責任、攻撃的表現が多いという負の側面も見られた。

これがSNS時代になると投稿者と投稿が結びつき、投稿の連続性が生み出されることになった。
個人の主義主張が可視化され、個人攻撃、人格攻撃が行われやすくなり、炎上という現象が多発する事となった。
また、実名アカウントが多く見られるようになり、「何を言ったか」よりも「誰が言ったか」という権威主義がネット空間にも持ち込まれる事となった。
これは権威ある者の言葉に盲目的に従う事に繋がり、これもユーザーの批判的思考を奪う事につながったのである。
またユーザー名は固定された事により、ユーザー同士の横のつながりが生まれ、グループ化や深い人間関係の形成に寄与しコミュニティの発展をもたらした。
しかしネット空間特有だったものが希薄化し実社会に近い形となった事により、実社会の構造対立もネットにそのまま持ち込まれることとなった。
敵味方の概念は意見を変える事を裏切りと見なしたり、それによる粛清をおそれる、といった事につながったのである。
一方匿名性は保たれている事が、2ch時代由来の無責任さや攻撃性をSNSに持ち越される事につながり、エコーチェンバーにより強化される結果となった。
SNSは2chと実社会の中間と位置付ける事ができるが、両者の負の側面が融合されたものが多く見受けられる。

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2chとSNSとの対比

6.「空気」による「見えない支配」:変容する集団的圧力と「2+2=5」の受容


扇動者、増幅者、アルゴリズムの相互作用の結果、社会には特定の「空気」が醸成される。
これは、かつて日本特有と見なされがちだった同調圧力や集団的監視・検閲が、デジタル時代に普遍化したものである。

また、「空気」によって形成されたコミュニティ内では、客観的な事実や論理よりも、集団の信念や感情が優先される。
これにより、明らかな論理矛盾や「代替事実」ですら、「真実」として受け入れられてしまう状況が生まれる。
「2+2=5」という集団の信念を受容しない、つまり「2+2=4」という正論や個人は、集団で行うキャンセルカルチャーや炎上といった形で激しい批判にさらされる。
つまり「思想警察」による「再教育」である。
またSNSは情報発信元と誰でもその投稿が見合える双方向性があるという点で、『1984年』における「テレスクリーン」機能も持つ。
プロパガンダの情報発信を行う点、そして双方向性はテレスクリーンの監視機能を持つ。
狂信的増幅者は、思想警察の役を担いSNSを監視、集団の信念にそぐわない言動、表現を発見するとグループ内で共有し炎上という再教育、粛清を行う。
これはフーコーが「権力の自動化」と呼んだ、パノプティコンの原理のデジタル版ともいえるものである。
常に監視されているという永続的な自覚が、自分の行動を律し、規範に沿って行動するようになることを促す。
これは「2+2=5」に内心では反対していても、炎上を恐れ意見の積極的発信をためらう萎縮効果も生み出す。
この事は隠れトランプ派などの現象して現れる。
また政治的な事に関わると厄介事に巻き込まれるという政治に対する無関心を醸成していく。

企業や行政も、経済的損失やブランドイメージの毀損を恐れて、この「空気」に屈するように見える対応を取ることがある。
これは、『1984年』の「党」による検閲が、国家だけでなく集団によっても行われる、「新たな形の抑圧」である。
この背景には、従来の「暗黙の排除」の精神が、デジタル空間の匿名性と集団性によって「言語化」され「可視化された」より攻撃的かつ明確な「集団的圧力」へと変容したという側面がある。これは、SNSにおける他者への攻撃性の高さの一因とも考えられる。

宗教の影響力は世界的に低下しているが、その隙間に「特定の価値観」が「新たな宗教」として入り込んだ。
正義と言う名の同調圧力に支配された空間は、扇動者がまるで教祖のような存在となり、信者の増幅者が布教、異教徒たる他コミュニティへの攻撃、さらに再教育という名の異端審問や、排除という「破門」を行う。
キリスト教が異端や異教徒を「悪魔」と見なして排除したように、自らの「価値観」に反する相手を「悪魔化」する。
悪魔は、人を堕落させる存在であり、その言葉に耳を貸してはならないとして対話を拒否し、「悪魔」を打倒するための戦いは「聖戦」と化し妥協を許さなくなるのである。
既存の宗教から離れたように思えても、価値観と言う新宗教に負の側面はそのまま引き継がれてしまっているのである。

6.「プロレス的構図」:扇動者が分断を望むシステム


現代社会の分断は、「お互いが敵を必要とする」プロレス的な構図として機能している。例えば、「親トランプの過激化 → 反トランプの危機感増大 → 反トランプの過激化 → 親トランプの被害者意識増大」といった螺旋は、その典型である。
反トランプ側、特に自らを「知識層」と自認する人々でさえ、穏健的手段である啓蒙ではなく、トランプの言動による「危機感」を原動力として過激な批判や排除の言動に走っている。
これは、彼らもまた、承認欲求や影響力、経済的利益といった「欲」によって駆動され、扇動者、増幅者として動き利益を得ようとしている事をしめす。

このシステムにおいて、分断は扇動者にとっての「燃料」である。
分断が深まれば深まるほど、彼らは自身の役割を正当化し、より大きな利益を得られるようになる。
扇動者が行う社会的な「制度の不備」や「差別」を告発し、その是正を求める運動は、扇動者にとって自身の存在意義や影響力を高める絶好の機会を提供する。
DEIコンサルタントや特定のイデオロギーを背景とするメディア関係者など、これらの運動を通じて経済的利益を得るアクターも存在し、彼らは分断の持続を望む動機を持つこととなる。
そのため、扇動者は分断が解消されることを望まず、むしろ巧妙な手口で対立を維持・激化させようとする。
これは、プロレスの興行主が試合の盛り上がりを演出し、ファンを熱狂させ続けることに最大の関心があるのと同様の構造である。
政治や思想のエンタメ化である。
これにより、その政策や思想が自分や社会にどういった影響をもたらすかと考える事は二の次となり、自分の所属するチーム、つまり応援する政党や扇動者の人物の勝ち負けにしか興味を示さなくなる。
このエンタメ化は思考が最も単純化されたものである。

彼らの告発が自分や社会にどういったメリット、デメリットをもたらすのか、また「チーム」という枠を外して考える事が重要である。

7.現代における「増幅者」の特異性とその危険性


古くはマスコミが増幅者としての役割を担い、与党批判の論調を増幅、拡散させ、選挙に持ち込み多額のCM料収入を得ると言った事が行われたが、これがSNS、Youtubeなどの収益化により個人にも広まったものである。
この一般人の増幅者のネットでの活動が、過去に見られた扇動からの全体主義へいたる道には無かった存在となる。
この現代の増幅者の特異性と危険性は特に注目すべきことである。

まず最も顕著な特異性は、増幅者となりうる人々の数が爆発的に増加した点にある。かつては情報発信のゲートキーパーであったマスメディアとは異なり、ソーシャルメディアは誰もが情報発信者となることを可能にした。これにより、特定の扇動者が発するメッセージは、瞬時に無数の個人アカウントを通じて広範囲に拡散される。これは、単一のスピーカーが大音量で叫ぶのではなく、無数の人々が各々の声で同時に叫び、互いに共鳴し合うような状態であり、特定の「空気」を圧倒的な量で醸成する。この「無限増殖性」は、論理的な検証を麻痺させ、異論をかき消す力を有する。

そして現代の増幅者の危険性は、その多くは、著名なジャーナリストや知識人ではなく、「普通の人々」としての顔を持つ。彼らの発信は、個人的な経験や感情に根差していることが多く、受け手にとって強い親近感や共感を呼び起こしやすい。多くの人は、「自分と同じような人が言っているのだから、きっと正しいだろう」という心理が働きやすい。この「親近感」は、情報に対する警戒心を低下させ、扇動者のメッセージを無防備に受け入れさせる罠となる。彼らの情報には「プロ」としての距離感がなく、疑いの目を向けにくいという特性がある。
かつての主たる増幅者はマスコミだけであり、その発信を懐疑的、批判的に見る事で事足りたわけだが、SNS社会は全てのものが増幅者となる。その危険性はマスコミと「普通の人々」で何ら変わるものではない。
「普通の人々」の発信も懐疑的、批判的に見る事が必要となる。

多くの増幅者は、社会をより良くしたい、不正を正したいという純粋な「善意」や「正義感」によって行動している。
これは積極的にメッセージの拡散や異論への攻撃に加担する強烈な動機となり、他者に対する苛烈な攻撃を肯定する免罪符となる。
そして扇動者によって創作された「敵」や「特定の層が優遇されている」という事に対する偽りの恨み、妬みなども動機となる。

ソーシャルメディアは、発信者の自己顕示欲や承認欲求を刺激するメカニズムを備えている。
「いいね」や「リツイート」、フォロワー数の増加は、発信者にとって直接的な報酬となる。
この報酬を求める心理が、より過激で感情的なメッセージの発信を促し、さらなるエンゲージメントを獲得しようとする。
アルゴリズムが感情的なコンテンツを優先する設計と相まって、増幅者は無意識のうちに社会の分断を煽るコンテンツを生産し続ける「情報消費の無限ループ」に巻き込まれていく。
このループは、分断を永続化させる強力な駆動力となる。

そして、この現代の増幅者の特異性を最も危険なものにしているのが、彼らの多くが、扇動者の掲げる「正義」や「思想」が、最終的に自分や社会に真の利益をもたらさない、それどころか被害をもたらす事に気づいていない点だ。
累進課税への反対論が良い例であるように、実際に高額な税金を納める層ではないにもかかわらず、自身の未来の利益が損なわれるかのような幻想や、金持ちがいないと困るという根拠のない恐怖心に動かされ、扇動者の都合の良い駒として機能してしまう。
扇動者が対立から自身の権力や経済的利益を増す一方で、増幅者は「思想戦争」に参加すること自体の精神的な充足や所属感を得るだけで、実質的な利益は得られない、あるいはむしろ損なうことすらある。
また扇動者は拡大した影響力を背景に、「有識者」などとして国家の政策決定などに直接的に関わる事もあり、これは政商的な側面も持つものである。
「有識者」は必ずしも専門的知識を持った人物ではなく、有名人が選ばれる事もある。
彼らの訴える規制緩和、規制強化、どちらも注意深く見なくてはならない。

これらの特異性は、現代社会の「見えない支配」が、かつての全体主義国家のような明確な暴力や検閲に頼るだけでなく、人々の内面的な欲求や「善意」を巧みに利用し、自発的に社会を分断させるという、より巧妙で抵抗しにくい形に変容していることを示している。扇動者は、こうした増幅者たちの存在によって、自身の意図を社会の隅々まで行き渡らせ、強固な「空気」を醸成することに成功しているのである。

補足:思考の深度と「見えない支配」


本稿で分析してきた「見えない支配」は、私たちの思考プロセスそのものを巧妙に操作することで機能する。
このメカニズムを理解するため、ブルームの学習分類法という、認知的な学習目標を段階的に分類したフレームワークが有用である。この分類法は、情報処理の深度を示す診断ツールとしても機能する。

ブルームの学習分類法は、思考を以下の6つのレベルに分けます。

1.覚える (Remembering): 事実や情報をそのまま記憶し、思い出す段階です。
2.理解する (Understanding): 情報の意味を説明できますが、解釈は表面的です。
3.応用する (Applying): 知識や理解を新しい状況に適用する段階です。
4.分析する (Analyzing): 情報を分解し、その構成要素や関係性を深く理解する段階です。
5.評価する (Evaluating): 特定の基準に基づき、情報や主張の真実性、信頼性、妥当性を批判的に判断する段階です。
6.創造する (Creating): 異なる要素を組み合わせて、新しいアイデアや解決策を生み出す最も高次の段階です。

「見えない支配」の巧妙さは、人々が覚える、理解するといった低次の思考レベルに留まり、応用、分析、評価といった高次の思考ステップを意図的に省略させる点にある。
扇動者は、感情を煽り、単純化された「代替事実」を提供することで、人々が論理的な検証を行う間を与えず、直接「評価」や「行動」へと誘導する。

例えば、扇動者が特定のゲーム動画の一部を切り取り、「これは侮辱だ」と強い感情を書き込む。
強い感情はここから本来経過すべき段階をショートカットさせる。

1.覚える :扇動者のメッセージを「見た」
2.理解する:扇動者の用意した侮辱だという「代替事実」や「お気持ち」をそのまま受け止める。
3.応用や4.分析といった中間段階を完全に飛ばし、極めて短絡的な思考パターンを誘発し、扇動者の思うがまま即座に
5.評価する「侮辱である」
6.創造する「許せない、と投稿する」

という結果を生む。
これは、強い感情が自らの思考の「現在地」を認識しないまま、誰かの意図する方向へと誘導されていることを示唆する。

本来であれば、批判的思考や情報源の確認を行い、段階的に

3. 応用する :「もし、自分が同じゲームをやったらどう行動した?」
4. 分析する :「この動画はどのシーンを切り抜いた?」「発信者の意図は何だ?」
5. 評価する :「元動画の意図が捻じ曲げられている」
6. 創造する :「これはおかしい。都合のいい切り取りだ、と投稿する」

これは、感情に流される事なく自分の思考を段階的に進める事の有効性を示している。

結論:『1984年』を超える現代の恐怖と抵抗の可能性


最終的に、この複雑なメカニズムは、民衆が「都合のいい道具」として使われているという厳しい現実を示す。
彼らは自らの選択して「正義のために戦っている」と信じながら、特定の利益を持つアクターが仕掛けたゲームの中で、無自覚な駒として社会の分断を深めている。

『1984年』のディストピアでは、党という明確な巨悪が存在し、主人公ウィンストンのようにそれに気づく人間もいた。
しかし、現代社会の「党」は、一元的な支配者を持たず、人間の本質的な傾向と技術の発展を巧みに利用し、人々が「自発的に」分断に加担するという、より巧妙で、より見破られにくい形をしている。
この「見えない支配」は、人々が自身が操られていることに気づきにくいため、『1984年』よりもよほど恐ろしい状況と言える。
何年も続く世界的な分断の現状は、まさにこの複雑なメカニズムが真であることを強く示唆している。

具体的に現代の見えない支配がいつからかと示す事は困難であると思われる。
決定的な事件はなく、2010年代に起きたネット環境の変化、スマホなどのハードウエアの普及と思想が緩やかに融合し合い徐々に現出したものだと考える。

歴史的に見て、見えない支配は魔女狩りやナチスの台頭などと類似性を見出せる。
これは扇動者、増幅者による「見えない支配」はいつでも存在してきた事を示している。
SNSによって爆発的に増加した「普通の人々の増幅者」の存在が現代の特異性である。

しかし「普通の人々」たる我々は発信を止めてはならない。むしろ積極的に自らの批判的、論理的思考によって導き出された「2+2=4」を発信し続ける事こそが、見えない支配に対する最も有効な抵抗である。
これまでの独裁に対抗してきたような良識的知識人の努力だけに期待するのではなく、彼らと連携し、共通のプラットフォームやネットワークを築き、多様な人々が「見えない支配」のメカニズムに気づくための「気づきの場」を創出することが不可欠である。
これは、単なる情報提供に留まらず、批判的思考の促進、多様な考えを認め合う真の多様性、そして人々が分断ではなく連帯へと向かうための「新たな空気」を醸成することを目指すものであるといえる。

現代のSNSを利用した見えない支配システム自体は、技術の発展により自然発生した装置でそれ自体には問題はない。
問題となるのは扇動者の分断を煽り利益を得ようとする動機にある。
批判的、論理的思考によって導き出された「2+2=4」をSNSによって広める事もまた可能である。
そしてSNSは古いタイプの見えない支配、すなわちマスコミという増幅者に対抗するための強力な武器である。
マスコミの扇動者、増幅者としての立ち位置は多くの人が目の当たりにし、警戒感、不快感を示しているが、その影響力はいまだ強大である。


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見えない支配のメカニズム。
全て人の欲によって駆動する

結び:


本稿で示したシステムはSNSでの炎上から、世界各国で起きている「分断」までを包括的に説明できるが、具体例の提示は最小限にとどめている。

本稿は、都合のいい道具、支配者の駒からの脱却をするための批判的思考の助けとするためのものである。
それぞれの個別事象で「扇動者」「増幅者」「動機となる欲」などが、なににあたるかは読者の判断にゆだねる。
しかし、扇動者、増幅者が誰だと指摘し公表する事を望まない。
そういった事をするのは、他陣営を攻撃する意図を持つ、扇動者、増幅者だからである。
『1984年』もしばしば他陣営を全体主義的だと揶揄する攻撃として用いられることがある。
しかし攻撃者自身もまた「見えない支配」、「党」の支配下に置かれているのである。
本稿の理論は現代社会に起きている分断を分析するフレームワークであり、ツールである。
「戦争」の道具に使われる事は拒否する。

解決手段として制度面の見直しも提案しない。
そもそもこの見えない支配は、システム的には実質止めようがない。システムを悪とするのは簡単だが、悪用するのは人の欲であり、どんな制度も運用者の意図で分断を再現する。
見えない支配はそのすべてが民主主義、合法的手段によって行われている。
扇動者や増幅者の活動は全て言論の自由の中で行われている。
止めようとすれば言論の自由の規制、企業の行動の抑制など様々な自由を規制し、逆に『1984年』化する。
もちろん脅迫や誹謗中傷などといった表現の自由から逸脱した違法行為は許されざるものとして、毅然とした対応が必要な事は法治国家として言うまでもない。

SNS規制もまた「マスコミによる見えない支配」を取り戻させるだけである。
しかしマスコミもまた必要不可欠な存在である。
企業としての取材能力は個人をはるかに凌駕しており、その情報収集能力は優秀である。
マスコミの仕掛ける強力な偏向を考慮し批判的に記事を見る事で拾得できる情報は大きなものがある。

オーウェルはこう書いている。
「いわゆる自由とは、2+2=4と言う自由である。これを認めると、他の自由もまた、認めることになる。」
著者は本稿で述べてきた企業の利益を最大化するアルゴリズムも否定しないし、扇動者、増幅者の欲も否定するものではない。
人の本能であり否定の仕様がないからだ。
ただし自分の自由を他人の欲によって押さえつけられる事には徹底的に抵抗するという事だ。
個々人が論理的、批判的思考を持ち、「2+2=4」と言える自由を「新たな形の抑圧」から守り続けるしかないのだ。

近年は企業や行政もキャンセルカルチャーに安易に屈しない姿勢が見られるようになった。
「新たな形の抑圧」に対して「2+2=4」を堅持する行動を評価し、分断の手法を陳腐化させていく事が他の「見えない支配」をも打ち破る突破口となるかもしれない。

そして分断を煽るメッセージに過度に反論したり構ったりしない事もまた重要な点である。
「荒らしを構う奴もまた荒らし」である。
荒らしは構われる事で自分は見られていると感じるとさらに過激化する。
感情的で非論理的な相手は対話したところで得るものは何もなく、強固に見えない支配にとらわれている者のダブルシンクは強固であり、論理を受け付けない。
「話せばわかる」は相手による。
「話せばわかるというわからず屋」もいるのである。
相手にするとむしろ扇動者の「2+2=5」を広める結果になってしまう
感情的な「2+2=5」に構わず、冷静で論理的な「2+2=4」の発信を続けることが重要である。
ブロック機能なども適切に利用していくと良いだろう。
ブロックは「テレスクリーン」の監視や「思想警察」から身を守る手段ともなる。

また本稿はAI、Geminiをメインの議論相手とし、AIのもたらす主流な視点であったり、新たな視点であったりを反論、同意、進化などの経緯を経て構築されている。
AIは人間のように好き嫌いの感情や、人間関係などの余計なバイアスを持たない。この中立的視点は有用である。
またGrok、ChatGPTといった他のAIにも草稿を見せ、それぞれのAIの視点をフィードバックして論考を深めた。
それぞれのAIモデルは、それぞれに多角的な視点を提供する。この事はAIによるエコーチェンバーを避けるうえでも重要である。
しかし、AIの視点もまた、主流な視点という「見えない支配」の影響を多分に受けている。
AIは中立・公平と見なされることが多いが、学習データに含まれる「空気」や主流なイデオロギーの影響を完全に排除することはできず、回答がその影響を受ける可能性が非常に高いのである。この事は、AIも増幅者の役割となる危険性を示している。
このため、ユーザーの批判的思考(「2+2=4」の自由)が、AIとの対話でも不可欠となるのである。


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Twichでゲーム配信、主にVRゲームのBeatSaberをやってます。 思った事なんかを書きたい時に書いてこうかなと思ってます。
「分断」「炎上」のメカニズム:AIのGeminiと検証してみた|かつや
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