「嵐に襲われ、日常奪われた」SNS上の暴露めぐり芥川賞作家が提訴

黒田早織 二階堂友紀
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 トランスジェンダーだとSNS上でアウティング(暴露)されたとして、台湾出身の芥川賞作家・李琴峰(りことみ)さん(36)が5日、投稿者の甲府市議に550万円の賠償と投稿の削除を求める訴訟を東京地裁に起こした。

 李さんは同日の会見で「この世界には特定の人にしか襲ってこない嵐がある。私は嵐に襲われ、平穏な日常を奪われた。私に起きた被害は氷山の一角に過ぎない」と訴えた。

 李さんは2013年に来日。来日前に女性へ性別変更手続きをし、性別移行の経験を明かさず暮らしてきた。だが、21年に芥川賞を受賞後、李さんがトランスジェンダーだと暴露する投稿が複数のSNSで広まった。

 李さん側によると、甲府市議の村松裕美氏は24年5月、フェイスブックで李さんについて「身体が男性で手術もしていません」などと投稿。李さんの未成年時の写真や過去の氏名なども投稿したという。

 李さんは村松氏と面識はなく、「機微な個人情報を突然さらされ攻撃された」と主張。一部の投稿は今も削除されておらず、人格権やプライバシー権を侵害されたなどと訴えている。

 アウティングで追い詰められた李さんは同年11月、カミングアウトして被害を訴えることを余儀なくされた。適応障害と診断され、心身の不調が続いているという。

 李さんはカミングアウトした当時、「私は女性であり、レズビアン。本当は公表などしたくなかった」と語っていた。

 村松氏は「最初の投稿はすでに削除しており、その後の投稿も適切に対応した。名誉毀損(きそん)に当たるのかを弁護士と相談したい」とコメントした。

トランスジェンダーにとってのアウティングとは

 「アウティングは、李さんの女性としての平穏な生活を奪い去ってしまいました。李さんが苦労して築き上げてきた人生と生活を破壊したのです」。李さんと会見した高井ゆと里・群馬大准教授(トランスジェンダー研究)は、アウティングが李さんに与えた影響をそう表現した。

 アウティングは性的指向や性…

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この記事を書いた人
黒田早織
東京社会部|裁判担当
専門・関心分野
司法、在日外国人、ジェンダー、精神医療・ケア
二階堂友紀
東京社会部
専門・関心分野
人権 性や家族のあり方の多様性 政治と社会
  • commentatorHeader
    藤田直哉
    (批評家・日本映画大学准教授)
    2025年6月6日8時52分 投稿
    【解説】

    この問題は、もう少し大きく、世界的なトランスジェンダーを巡る「文化戦争」の文脈において考えなければいけないと思います。戦略対話研究所・上席主任研究官のユリア・エブナーは『ゴーイング・メインストリーム』の中で、現在は、「トランスフォビア」が発

    …続きを読む

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