♪ヤン
「「「1歳の誕生日、おめでと―――――――――――っっっ!!!」」」
というわけで、1歳になった。
お誕生日席に座らされた俺を囲んで、両親や使用人たち総出でてんやわんやの大騒ぎ。もはや俺関係ねえだろってレベルだ。
「あっという間の1年だったが、いやはや、子供が成長するのは早いな」
「そうですね、あなた。掴まり立ちもできるようになりましたし、それに……」
「ああ、精霊術だ! 我が息子ながら末恐ろしいよ。単なる積み木遊びだけで、もう並の大人と同程度まで術を使いこなしている! 俺たちの息子は、やはり天才だ!」
などと父さんたちは言っているが、まあ正直、親の贔屓目がかなり入ってると思う。
この冗談みたいに豪華な誕生日会といい、ちょっと親バカすぎない? この美人夫婦。
俺は目の前のウインナーにちっちゃなフォークをぶすっと突き刺し、口に運んでもっきゅもっきゅと咀嚼する。
最近、ようやく離乳食から解放され始めたのだ。
ものを噛んで食べられる幸せよ……。
「ジャック様、お口に汚れが」
世話役のツインテメイドが、ぐしぐしと俺の口元を拭った。
赤ん坊生活にすっかり慣れた俺は、もうされるがままだ。
普段、彼女にはおしめを変えられたりしているのだから、この程度恥ずかしがるものでもない。
「アネリ。君も1年間、よくジャックを世話してくれたな」
父さんがそう言うと、アネリと呼ばれたメイドは恐縮するように手を振った。
「そんなそんな! わたしは大したことは……」
「いいえ。あなたのおかげで、私も夫もずいぶんと楽ができました。いい機会ですから、あなたには有給休暇を与えるつもりです」
「えっ……? い、いいんですか……?」
「ああ。たまにはご家族にも顔を見せてあげるといい」
「ありがとうございます! ……でも……」
アネリは俺を見ると、柔らかに微笑んだ。
「……本当に、大変だったなんて思ってないんです。ジャック様は……なんというか……わたしにとっても、大事な方ですので」
頬にそっと触れられる。
なんだかくすぐったくて、俺は自然と笑っていた。
父さんが「はっはっは!」と笑う。
「我が息子も隅には置けないな。その歳にして早くも女性の口説き方を心得ているらしい」
「くすくす。将来、女の子を泣かせるような男にならなければいいのだけど」
「大丈夫です! わたしがちゃんと見ておきますから!」
アネリが胸を張ってそう言うと、もう一度笑い声が弾けた。
俺も、今だけは何もかも忘れて、身体を包む笑い声に身を委ねた……。
◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆
「さあ、ジャック様。お散歩の時間ですよ」
誕生会の翌日、昼頃になって、俺はアネリにベッドから抱き上げられた。
彼女に抱かれて屋敷の周囲を散歩するのが日課なのだ。
アネリは俺の頬をぷにぷにとつつくと、ふふっと笑う。
お気に召して頂けたのは大変結構なんですが、少々恥ずかしいですアネリさん。
アネリは屋敷を出ると、歩いて門を出ていく。
アネリが門兵に「お疲れ様です」と言うと、門兵も挨拶を返してきた。
リーバー家の屋敷は、森の近くに建っている。
アネリは道沿いに歩いて、その森のほうへと向かっていった。
「ジャック様。わたし、明日からお休みなんです」
歩きながら、アネリはふと、独り言のようにそう言った。
「家族水入らずで過ごすつもりなんです。もうずっと……ずいぶん長い間……会えてなかったんですよ」
そう言うアネリの顔は、少しだけ寂しそうに見えた。
だから俺は、喋れないながらも、精一杯、手を伸ばして彼女の顔をぺたぺたと触る。
「ふふっ……慰めてくれるんですか? 本当に女性の扱い方がお上手ですね、ジャック様は」
アネリは微笑んで、
「でも、もう大丈夫なんですよ。確かに今までは、少しだけ寂しかったですけど……これからは、ずっと一緒なんですから」
父さんは、彼女が家族に会いたがっていることを見抜いていたんだろうか?
さすがは伯爵というか、領地を一つ任せられるほどの人間っていうのは、そのくらいできないとダメなんだろうな。
その息子である俺も、そのうちできるようにならなくちゃいけないんだろうけど。
アーケードのようになった梢の下を、俺を抱いたアネリが歩いていく。
風が吹き、葉擦れの音がざあっと広がった。
「風が気持ちいいですね」
疎らに射し込む木漏れ日が、時折り当たって暖かい。
今は、たぶん、春くらいだ。
この1年の経験からすると、この地方にははっきりとした四季がある。
少し前まで寒かったので、今は春。
俺の誕生日は、冬と春の境くらいということになる。
……やばい。うとうとしてきた。
赤ん坊ってやつはすぐ眠くなる。これがなかなか厄介だ。
何か考えたいことがあっても、すぐ思考がまとまらなくなる……。
…………ああダメだ、眠い…………。
「――――♪」
鼻歌が聞こえる。
休暇前だからか、アネリは機嫌がいいらしい。
でも、このメロディ……なんか、聞いたことあるような……。
……前にも、アネリが歌っていたんだっけ……?
ぼやけた意識で、彼女の鼻歌を聞く……。
「――――♪」