神は言われた
トラックに轢かれた。
痛いと思った瞬間には、意識が途切れていて。
そして今、目の前に神様っぽい女の子がいる。
「こ、こんにちは……」
神(?)はどもった。
見た目12歳くらい。
頭に輪っか、背中に翼、白いローブに大きな木の杖――
あからさまなまでにゴッド・スタイルの少女だ。
しかし、心なしかおどおどしているようにも見える。
さらには、ぎこちなく笑ったまま黙り込んでしまった。
……人見知り?
「あの……神様ですか?」
「あ、は、はい。そうですすみません! 私が『光あれ』って言いました!」
神はカミングアウトした。
とりあえず、地上に生きる生命の一つとして、天地創造を悪いことのように言わないでほしい。
……いや。
もう『生命』じゃないのか?
周囲の様子を窺い知ることはできない。
真っ白な光の中に、俺と神様少女だけが浮かんでいる。
夢、と一言で解釈することもできるが、俺ははっきりと覚えているのだ。
視界を埋め尽くしたトラックの巨体と、バンパーが激突した瞬間の痛みを……。
「……そっか……。死んだか、俺……」
ワンチャンあるかもと、あの瞬間は、思ったんだけどな……。
でも、やっぱり、清々した。
あんな悪夢みたいな人生を、長々と続けたくはなかったから……。
「あのー……状況は呑み込めていただけたでしょうか……?」
おどおどと話しかけてくる神様に、俺は頷いた。
「死んだんですよね? トラックに轢かれて。ってことは、これから天国か地獄に振り分けられるんですか?」
「いえ、あの、それがですねー……」
ごにょごにょと口ごもる少女。
どうも煮え切らないな。神様の癖に。
少女姿の神様は、やがて観念したように口にした。
「実は、その、手違いがありまして……」
「手違い?」
「予定にはなかった的な……」
「的な……?」
要領を得ない神様の言葉を斟酌し、俺は答えを出す。
「幽遊白書的な感じ?」
「そ、そうです! そんな感じです!」
つまり死ぬ予定じゃなかったのにうっかり死なせちゃったてへぺろってことだ。
「え、じゃあ、これから俺、生き返っちゃう感じですか?」
「い、いえ、そんな感じではないんですけどー……っていうかできないんですけど……その代わりと言ってはなんですが、他の世界に記憶ごと転生してもらおうかなーと……」
「他の世界? って、そこもあなたが創ったんですか?」
「す、すみません! 『光あれ』って割と方々で言っててすみません!」
割と方々で言ってるんだ……。
ぺこぺこ頭を下げていた神様は、上目遣いで俺の顔色を窺って、
「ど、どうでしょうか……? 転生先は裕福なお家の子供にしますし、才能とかもサービスでお付けしますけど……」
そんなサイドメニューみたいな……。
気安すぎてなんとなく悪いような気がしてしまう。
でも、好意を無碍にはできない。
何せ神様の好意だ。バチが当たる。
だが……一つだけ、確認しておきたいことがあった。
「あの……俺が死ぬのは予定になかったって言いましたよね?」
「は、はい」
「じゃあ――一緒に轢かれた妹は?」
俺がトラックに轢かれたとき、その場には三つ年下の妹がいた。
あいつも俺と同じように轢かれたはずだ。
俺の記憶が正しければ。
「あいつも死んだんですか? あいつもどこかに転生を……?」
「あ……そ、それなんですが」
どもりながらも、神様はにっこりと笑った。
「妹さんとは先ほどお会いしまして……お兄さんと同じ世界に転生できると言ったら、喜んで承諾してくださいましたよ!」
それを聞いて――
俺は。
俺は。
俺は――
「―――なんてことをしてくれたんだッッッ!!!!」
敬語をかなぐり捨て、神様の胸倉を掴み上げた。
「あんた知らないのか!! 全知全能なんだろ!!! だったら知ってるはずじゃないか!! あの妹がどんな奴か!!!!」
「ひッ、ひえっ……」
ようやく。
ようやく、ようやく、ようやく、ようやく!!
あの悪魔みたいな妹から、解放されたと思ったのに……!!!
「だったら嫌だ! 転生なんて!! 天国でも地獄でも、このまま送ってくれッ!!」
「ごッ、ごめんなさいっ……! ダメなんです、無理なんです……!! あなたをちゃんと転生させないと、私のほうが――」
は?
私のほうが?
「えいっ!」
神様の言葉に気を取られた瞬間、視界が霞み始めた。
全身を暖かな感覚と浮遊感が覆っていく。
視覚が真っ白に埋められていき――
どくん、どくん。
――耳の奥で響く、どこか安心するような音。
これは――まさか。
母親の心臓の音?
俺の意識が、胎児に宿りつつある?
「――どうか、逃げ延びてください!」
神様の声が、遥か彼方から聞こえた。
「隠れて、やり過ごして、決して見つからないように! 私はあなたの味方ですから!!」
……そんなことが、俺に、できるのか?
俺はあの妹に、5年間も監禁されていたって言うのに――
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