4話
時は流れ、私とコミット様は10歳になりました。
今日はコミット様の誕生パーティ。私達の家族も王家から直接お呼ばれしました。
「コミット様、ご機嫌いかがですか?」
私はいつものようにスカートの裾をつまみ、お辞儀をする。
「いや、そのお辞儀いつみてもどうやってるのか分からんのだが……」
「あら、もう出会って2年ですのに、心外です」
「それよりカニカマボコ。婚約破棄の件だが」
「あら。もしかして正式に婚約破棄が決まりまして?」
「いや、残念ながらまだだ。だが『お前に本当に結婚したい相手が出来たら、考えてやってもいい』と父上から言われた」
「そうなんですの」
「でな、今回のパーティはお前との婚約を破棄できるチャンスなんだよ」
「チャンス? どういうことですの?」
「今回のパーティは父上にお願いして同い年の若い貴族たちを集めた。だから今日、新たな結婚相手を探そうと思うんだ」
「まぁそうなんですの! 良かったですわね!」
「まぁな」
すると、セバスチャンさんが私たちの元へと近づいてきました。
「王子。ご指示の通り若いご令嬢様方を1か所のテーブルに集めましたぞ」
「そうか。ご苦労だった」
「ですが……カニカマボコ様も王子もよろしいのですか? 王子の新しい婚約相手を探すなんて、申し訳ない気持ちにならないのですか?」
「なるか。カニカマボコごときに申し訳ないと思うはずがない」
「私は王子の幸せが何よりですから。王子の決断は優先しますわ」
「まったく、王子はカニカマボコ様を見習ってください。このお方ほどの令嬢なんてそうそういませんぞ?」
「何とでも言え。とにかく、その令嬢達はどこにいるんだ」
「あのテーブルの周りですぞ」
セバスチャンさんの指さす先には、ケーキやお菓子などが並べられたテーブルがありました。人間などいない。
「? 誰もいないじゃないか」
「何を言ってますか。ちゃんといるではないですか」
「いないではないか! 集められなかったのならそう正直に言え!」
「いると言っているでしょうに。お疑いなら机にお近づきください、令嬢方が声をかけてくれると思いますぞ」
「……テーブルの下にでも隠れているのか?」
コミット様は、ケーキやお菓子が沢山並んでいるテーブルの近くへと足を運びました。
すると。
「まぁ、王子様! ご機嫌麗しゅう……」
「コミット殿下! 本日はお招きいただきありがとうございます!」
「え」
机の上に並んできたケーキやお菓子達が、王子の周りを取り囲みました。
「あ、ご挨拶がまだですね。私、ショートケーキと申します。ケーキ家の令嬢です」
「私はミルフィーユと言います。よろしくお願いいたします」
「私はカスタードプリンですわ」
「私はストロベリームースです」
「私はエッグマ○クマフィン……」
「おいセバスチャン! お前何を集めた!?」
王子が大声でセバスチャンさんを呼ぶ。
「何って。ですからここに来た若いご令嬢様方ですぞ」
「どこが令嬢なんだ!? どっからどう見ても3時のおやつじゃねーか!」
「王子、今は2時ですぞ」
「そんな事知っとるわ!! なんで令嬢集めろって言ってこんな化け物デザートどもが集まるんだ! あとエッグ○ックマフィン、お前はお菓子じゃねーだろ!?」
「ですが本当に彼女たちは貴族のご令嬢方ですぞ。親御様もパーティに来てますぞ?」
「いや、親達人間なのに何でこの世代だけピンポイントでお菓子なの!? この世代だけ魔女の呪いでもかけられたか!?」
「落ち着いてください。ほら、ケーキでも食べて怒りを鎮めましょう」
「どれが本当のケーキでどれが喋る貴族ケーキなのか区別つかねーよ、馬鹿!」
「ねぇ王子様。そんなお爺さんなんてほっておいて、私と踊りましょう?」
ショートケーキが王子に声をかけます。
「ずるーい! 私も王子様と踊りたーい!」
「私もー」
「いいなー」
すると立て続けにお菓子達が踊りを希望しだしました。
「じゃあこうしましょう。皆で順番に王子様と踊るの。それなら文句ないでしょ?」
それを見たショートケーキは、お菓子達に一つの提案をします。
「いいですねー! そうしましょう!」
「さ、王子様。まずは私と踊りましょう?」
「え、いや。どうやって踊るの!? 身体のサイズとか違うし、手足無いでしょあんたら!」
「問答無用ですわ。さ、踊りましょう」
「ちょ、手を引くな!というかどうやって手を引いてるの……え! 意外とダンス上手い!? なんで!?」
「ふふ。楽しそうですわね」
私はそんなやりとりをしているコミット様を遠くから見ていた。
「よろしいのですか? カニカマボコ様も踊りに行かなくて」
セバスチャンさんが私に話しかけてくる。
「いいですわ。王子の楽しい時間を邪魔しちゃ悪いですし」
「邪魔なんかじゃないと思いますよ。きっと王子もカニカマボコ様と踊ることが楽しみなはずです」
「……そうね。それじゃあ一通りご令嬢の踊りが終わったら、私も行きますわ」
「それがよろしいですよ」
そう会話した後、私とセバスチャンさんはコミット様を微笑ましく見続けました。
「……もうやだ。人間と踊りたい」
王子が何か言った気がしますが、気のせいでしょう。