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「ケース面接対策」という病

この記事は、コンサルティング業界への就職を希望する大学生の方を対象にした記事です。

1.「ケース面接」とは

「ケース面接」とは、主にコンサルティング会社の採用試験で行われる面接の手法です。ケース面接では、例えば「街のクリーニング屋の売上を1.5倍にするには?」というようなビジネス・ケースを題材に、候補者と面接官がディスカッションを行い、コンサルタントしての適性が評価されます。

ケース面接のポイントは、「答え」ではなく、「どのように考えるか」という思考のプロセス自体が評価の対象になることにあります。というのも、クリーニング屋の例でいえば、前提知識がなく、時間も限られる中で、売上が1.5倍になる方法など、編み出せるわけがないからです。
もし仮にそんな素晴らしい方法があるなら、既に日本中のクリーニング屋で採用されているはずです。だからこそ、ケース面接では、「答え」そのものより、「答えを出すのが難しいテーマを、どのようなアプローチで考えるか」という「思考力」そのものが問われることになります。

しかし、ケース面接の対策として世に広まっているのは、評価の対象であるはずの思考そのものを型化し、使いこなせるようにすることです。例えば、「まずはそのビジネスを利用する顧客を年齢・性別のセグメントにわけて、各セグメントで充足されていないニーズがないかを分析する。次に、そのニーズにあったサービスを検討することで、売上を増やす」といった思考のプロセスがこれにあたります。過去問を解く中で、汎用性の高いプロセスをいくつか覚えておいて、その型に従ってケース問題を解けばよい、というのが一般的なケース面接の対策です。

ここで起きているのは、まぎれもない「倒錯」です。本来、「思考のプロセス」が評価の対象になるはずのケース面接において、型として暗記された「思考のプロセス」が披露されることになるからです。

ここで見て取れるのは、コンサル就活の「お受験化」とでもいうべき現象です。

2. コンサル就活の「お受験化」

コンサル就活の「お受験化」とは何でしょうか。それは、「① 動機のお受験化」と「② 対策のお受験化」の2つに分けられます。順番に見ていきましょう。

「① 動機のお受験化」については、多くの人が直感的に理解しているのではないでしょうか。具体的には、「そもそもコンサルティング業界を志望する動機自体が、大学受験で難関大学を志望する動機と大して変わらなくなってきている」ということです。

例えば、東大を志望している学生が、「xxをやりたい」という明確な動機をもっていることは稀です。多くの場合は、「難易度が高い」、「社会的なステータスが高い」、「なにか将来やりたいことができたときに、役立つ可能性がある」、「周り同級生も目指しているから」といった動機で受験をしてるのが現状だと思います。

そしてこれは、コンサルティング業界を目指す動機とほとんど変わらないと思います。コンサルタントの業務内容は、(顧客との守秘義務がある関係で、)学生の時点では具体的に知りえないことが多いです。それでもコンサルティング業界が人気を集めるのは、「難易度が高い」、「社会的なステータスが高い」、「なにかやりたいことができたときに、役立つ可能性がある(=今はまだなにをしたいのか決めなくてもよい)」、「周り同級生も目指している」からです。

実際、コンサルティング会社ほど、「Tier1、Tier2」、あるいは「戦略、総合」といった形で、会社間の序列が議論される業界もないでしょう。これは、偏差値などにより大学の序列が広く議論されているのと同じ構図と思われます。

お受験的な「偏差値が高い大学ほど優れている」という価値観の延長線上で、コンサルティング業界を志望する学生が集まること。これが「① 動機のお受験化」です。

次に、「② 対策のお受験化」についてです。
受験においては、文科省が定める学習指導要領の範囲から、客観的な答えが存在する問題が出題されます(そうでないと、出題ミスとされます)。受験生の回答は、客観的に正誤が判定され、得点が高い順に合格が与えられることになります(そうでないと、文科省から指導が入ります)。合格に到達する手法も、例えば数学なら「青チャートの問題を一通り解けるようになったら、「大学の数学シリーズ」に進む」といった形で、どの参考書をどのような順番に解いていくかが標準化されています。また、「鉄緑会」のように、選抜された生徒にしかノウハウが共有されない受験塾が存在します。

ここでは詳細は割愛しますが、ケース面接の対策として世の中で広く行われているのも、上記をまったく同じものです。対策をするために、「xx」の次は「xx」という参考書を読む。その次のステップとして、ネットで共有されている過去問を解く。正しい解き方は、選抜コミュニティや就活塾で教えてもらう、といった形になっているのです。

しかし、こうした「お受験化」した手法は、コンサルティング会社の面接では、通用しないことが多いのです(少なくとも、少数精鋭を謳う会社では)。なぜなら、お受験では明確な「答え」が存在しているのに対して、ケース面接には必ずしも「答え」が存在せず、問われているのはあくまで「思考力そのもの」だからです。言い換えるなら、「お受験」的な方法で身につけたフレームワークを披露することは、考えることの放棄に他ならないからです。

3. 「考える」とはどういうことか

これは、具体的なケース面接の問いに即して考えてみるとわかりやすいと思います。例として、「街のクリーニング屋の売上を1.5倍にするには?」というケースを取り上げてみましょう。

「お受験化」されたプロセスでは、下記の流れで考えることが多いです。

① まずは売上を「単価×客数」に分解する。場合によっては、客数をさらに「人数×利用頻度」に分ける
② 次に、顧客を、年齢×性別のセグメントで分ける
③ 年齢×性別で分けた顧客セグメントについて、現状満たされていないニーズを抱えている顧客セグメントを探す
④ その顧客セグメントのニーズを満たすサービスを考えることで、「単価」か「客数」を伸ばす。すると、売上が上がる。

いかがでしょうか?
この①~④の思考のプロセスは、恐ろしく汎用的です。テーマになっているビジネスが「クリーニング屋」でなくても、BtoCのビジネスであれば基本的にあらゆるビジネスに適用することができるでしょう。しかし、あらゆるテーマに適用できる汎用的なフレームワークを使うというのは、「なにも考えていない」ということに他ならないのではないでしょうか。

そして、顧客のセグメンテーションを行う前に本当に考えなければならないのは、「クリーニング屋というビジネスがどのような成り立ちをしてるのか」ということだと思います。

例えば、①の段階でクリーニング屋の売上を「客数×売上」に分解したときに、「客数」が伸びうるビジネスなのかをまずは考えるべきです。すると、基本的には「客数」を伸ばすのは難しいことがわかるはずです。利用者の目線に立って考えてみると、クリーニング屋を選択する基準は、自宅からの距離です。その意味で、クリーニング屋とは商圏ビジネスであり、客数は立地でほぼ決まってしまうからです。立地で客数が決まる以上、移転や新規出店をしない限り、客数を増やすのは難しいでしょう。

もちろん、「立地で客数が決まるなら、その構造自体を変える」というのも一つの手です。具体的には、利用者の自宅まで訪問して衣服を回収し、クリーニングした後に自宅まで届ける形にすれば、立地という制約を離れて客数を伸ばせるのではないか」と考えることができます。そして、ケース面接で求められているのは、ビジネスの構造の理解に基づいた、このような思考なのです。

これはあくまで一つの例です。では、「客数」ではなく「単価」の部分について考えると、どうなるでしょうか。クリーニング屋の場合、どこも提供しているサービス自体に大差はないため、クリーニングというサービス自体での差別化は難しいと思われます。そうなると、クリーニングのサービス自体の単価向上は難しく、クリーニング以外のサービスで単価を上げる必要がでてきます。
クリーニング屋のオペレーションを考えてみると、店頭で行われるのは、あくまで衣服の受け渡しです。店頭で受け取った衣服を工場に送り、そこでクリーニングを行います。クリーニングが終わった衣服は店頭で保管され、顧客が訪れたタイミングで返却されます。
このように考えていくと、クリーニング屋における店舗とは、一段抽象化するなら、「モノの受け渡しを行う物流拠点」と考えることができます。そうすると、新たなサービスとして、「xx」というものが考えられます。これをクリーニングとセットで提供することで、顧客単価を上げることができるのではないか・・・・・・

少し長くなってしまったが、「考える」とは、上記のように、お題になっているビジネスの成り立ちを考えるところから始まります(上記で示しているのは、このケースの「答え」ではなく「考えること」の一例です)。しかし、汎用的なフレームワークを使った瞬間に、そのビジネスの成り立ちを考えるというステップが抜け落ちてしまうのです。

ここで見られるのは、「お受験化された対策にのめり込むことで、本来考えるべきことが考えられなくなる」という病です。それは、「答えがない問題」に対して、「答えがある問題」を解くための手法を持ち込むという錯誤から生まれます。こうした事態を、「ケーズ面接対策病」と名付けたいと思います。

4. なぜ病が広まったのか

では、なぜ「ケース面接対策病」は広まったのでしょうか?

一つ目は、「就活の早期化」であると思われます。
コンサルティング業界を志望するような上位大学の学生は、大学受験に対して成功体験を持っている場合が多いと思います。しかし、大学に入学すると、サークルでも研究でもインターンでも、直面するのは「答えのない問題」です。本来は、こうした「答えのない問題」に真剣に取り組む中で、お受験的な「答えのある問題」に対する成功体験が、相対化されていくはずです。
しかし、昨今では大学2年生の冬の時点で選考会を行うコンサル会社が出てくるなど就活の早期化が進行し、「大学2年生の時点でコンサル就活の準備を行う」という形になると、上記のようなお受験の成功体験が相対化されないまま、無批判に「答えのある問題」の手法に飛びついてしまうのではないでしょうか。

二つ目は、「コンサルティング業界の拡大」です。
コンサルティング業界は、規模が拡大する中で、リソースを大量に確保する必要に迫られています。結果、「考えることができる」希少な学生だけではなく、「フレームワークを一応つかうことができる」学生も、採用の対象になってきているのではないでしょうか。特に、いわゆる少数精鋭の戦略コンサルティング会社ではなく、大量の学生を採用する総合コンサルティング会社において、このような現象が起きていると思われます。

あるいは、「考えることができる」コンサルタントというのは、既に希少な存在なのかもしれません。「申し訳ない。御社をつぶしたのは私です」という、米国のコンサルタントが書いたコンサル業界批判本では、考えることを放棄し、ひたすらフレームワークの適用のみを推奨するコンサルティング会社での出来事を、下記のように紹介しています。

そのころジェミニは提供するサービス内容と方法論の標準化を始めていた。新しいチームは他のプロジェクトで使っていたツールやシステムを持ち込み、問題を徹底的に洗い出し、改善を図ろうとしていた。
新しいマネージャーが私に最初に見せてほしいといったのは、「As Is(現状)」を書いた生産計画業務プロセスの資料だった。
私は現状を説明し、今回の場合、現行の生産計画業務プロセスに関する資料を作成してもあまり意味がないはずだと述べた。すると、彼は私が「As Is」の資料を作っておらず、標準化プロセスに従わなかったことに激怒した。そんなことだからうまくいかなかったのだ、と。
そして、いまやっていることはただちにやめ、業務プロセスフローチャートを作成するように、と言い渡した。
だが、困ったことに、そういうツールや情報システムは、数種類の製品しか扱っていない単純な生産工程の工場にしか有効ではない。
このマネージャーはまだ現場の視察すらしておらず、作業員の話も聞いていない。なのに、ほかの工場でうまくいったから、今回も同じ方法で成功すると決めてかかっている。
私も負けじと食い下がり、「こんなツールが役立つわけはありません」と言い張ったところ、とうとう私はそのプロジェクトから外されてしまった。

こうした事態は、コンサルタントが参画する様々なプロジェクトの現場で起きていると思われます。病は、単にコンサルティング業界を志望する学生だけではなく、コンサルティング業界そのものにも広まっているのかもしれません。

5. 処方箋

繰り返しにはなりますが、「答えがない問題」に、「答えのある問題」の解き方を適用しようとすること、それがこの病の本質です。それゆえ、「こうすればいい」という処方箋(=答え)があるわけではありません。むしろ、わかりやすい答えを提示してくる人がいれば、それは罠だと思った方がいいでしょう。

ただ一ついえるのは、「考えるという営みにおいて、傑出した存在であるにはどうしたらよいのか」という問い、それは、コンサルタントとして働き続けるためには、避けられない問いであるということです(当然、その答えが、「周りがやっていることをやる」であるはずがありません)。

この問いに正面から向きあうことができるなら、「ケース面接対策病」は自然と治癒すると思われます。なぜなら、コンサルティング会社の選考プロセスは、そうした人々に門戸を開くために設計されているのですから。

(追記:「考える力を身に着けたい」という方は、インターンシップに参加してみるのも一つの手です。私の会社でもインターンを常時募集していますので、興味のある方は、Googleフォームよりご連絡いただければ思います)


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