外務省は中国の「隠蔽」に加担した

大手町の片隅から 乾正人

日本人男性2人が殺害された現場付近の公安関連施設=3日、中国遼寧省大連市(共同)
日本人男性2人が殺害された現場付近の公安関連施設=3日、中国遼寧省大連市(共同)

有名人が亡くなると、メディアの要望に応じて故人とゆかりのある人々が、コメントを発表するなり、テレビカメラの前で弔意を示すなりするのが常だ。

野球の星に帰りました…

「突然のことで吃驚(びっくり)しています」だの、「故人には大変お世話になりました」といった通り一遍なのが普通なのだが、長嶋茂雄は違った。それぞれのコメントが重いのである。通りすがりの何の関係もないとおぼしきオジサンまでもが、「私の人生そのものでした」と涙するのには、アンチ・ジャイアンツ歴60年の小生までグッとくるものがあった。

息子のように手塩にかけて育てた松井秀喜は、ニューヨークから弔問に駆け付け、「長嶋さんと生前に約束したこともあります。ここでは今はお話しできませんが、その約束を果たしたい」と語った。「その約束」とは何か、記者たちが色めき立ったのは言うまでもない。

実の息子の一茂は、「長嶋茂雄は野球の星に帰りました…」と万感をこめた。「巨人の星」ではなく、「野球の星」なのがミソだ。巨人の親会社である読売新聞は、4日付朝刊で、1面に喪主である次女、社会面で一茂のコメントを掲載した。英雄の家族もなかなかつらい。

そんな「長嶋フィーバー」の陰に隠れてしまった見逃せない「事件」がある。

中国・大連で起きた日本人2人が殺された事件だ。

事件は5月23日に発生し、「事業上のトラブル」で中国人が、日本人男性2人を殺害した。中国側が、在瀋陽日本総領事館に事件の概要を通告したのは、同月25日。問題はここからである。

大連の殺人事件を公表せず

犯行理由がどうあれ、中国を仕事で訪れた日本人が殺害されたのは「大事件」だ。在北京大使館は、中国側からの通報が発生から2日後という遅さを抗議するとともに、報道各社にただちに広報し、約3千人を数える大連の在留邦人に注意喚起せねばならなかった。

しかし、外務省は沈黙を守った。

事件が明るみに出たのは、6月3日早朝、テレビ朝日が報道してからだ。その後、報道各社が中国当局や大使館などに取材し、ようやく大連の公安当局が発表した。

事件が日本側に通報されてから9日後である。しかも殺された日本人の氏名を中国側のみならず、大使館も「プライバシー保護」を理由に公表を拒んでいる。

独裁国家である中国が、自国に都合の悪い事件を公表しないのは、日常茶飯事だが、外務省も隠蔽(いんぺい)に加担したのである。これでは、過去にも中国と〝共謀〟して隠蔽した事件が数多くあったのではないか、と勘繰りたくもなる。

というのも外務省では、日本よりも中国の国益を重視しているかのような「チャイナスクール」と呼ばれる外交官たちが、いまだに跋扈(ばっこ)しているからだ。5年前に退官した元駐中国大使は、退官後すぐ中国の法律事務所の特別顧問になっている。

外務省はどこを向いて仕事をしているのか。まぁ、大臣の岩屋毅からして中国に毅然(きぜん)とした態度をとれないのだから推して知るべしだが。=敬称略(コラムニスト)

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