第50回「エレベーターはショーケース 〜ニコラス・G・ハイエック センター」
[ 2007.07.09 ]
銀座4丁目交差点を貫き新橋側に延びる中央通りともう1本東南側を走る通り、双方に面した細長いビルがニコラス・G・ハイエック センターだ。地下1階から地上7階までスウォッチ グループの7つのブティックとカスタマーサービスのコーナーが入り、8階から13階までが同社のオフィス、14階がイベントスペースになっている。
建物の特筆すべき点は、両側の道路に開かれた1階の吹き抜けアトリウムと、ここから来訪者を各ブティックへ導くエレベーターにある。
中央通り側の外観
1階アトリウム ※
※スウォッチ グループ ジャパン提供
営業時間になると1階のガラス壁面は上に引き開けられ、2つの道路間を通り抜けられるオープンな空間となる。アトリウムの天井面は段々に迫り上がり、最高部で4層分の高さがある。所々には樹木が植わり、壁面は緑化されている。街中に公共の広場が出現したかのようだ。
アトリウムの中を、7つのガラスの箱が上下に動いている。これらは各ブランド専用のエレベーターで、乗り込むと直接ブティックへ連れて行ってくれる。
エレベーターの箱の内部は様々な商品ディスプレイが施されている。「スウォッチ」のエレベーターは、腕時計がガラス壁面を隙間なく埋め尽くす。「グラスヒュッテ・オリジナル」では木の展示什器が据えられ、「ジャケ・ドロー」は黒い縦格子の壁と什器に商品が展示されている。
そう、エレベーター自体が各ブランドのショーケースになっているのだ。
エレベーターは柱状の支持台が箱を押し上げていく油圧式で、1階以外は昇降路の壁がない。吹き抜け空間は邪魔する物がなくすっきりと広がり、白い柱に押し上げられたエレベーターのガラス箱がするすると上っていく。あまり見たことのない光景だ。
建物の設計者は、コンペで選ばれた坂茂氏。紙管や竹などを用いた建築で話題をさらった建築家で、今回も斬新なアイデアを実現した。
スウォッチのエレベーター
グラスヒュッテ・オリジナルのエレベーター
ジャケ・ドローのエレベーター
アトリウムとエレベーター ※
※スウォッチ グループ ジャパン提供
各階のブティックの構成は次のようになっている。
地下1階は「スウォッチ」だ。黒い床、オレンジ色のカウンター、黄緑の壁面という鮮やかな配色が目を引く。他のブランドのエレベーターピットが店内に出てくるので、この回りに弧を描く棚板を並べてディスプレイスペースとして利用している。
2階は「オメガ」。一転して落ち着きあるインテリアを展開する。シャンパンゴールドの壁に同系色の床、柱状のショーケース。地球をテーマに、雨や大地、太陽などをモチーフとしたデザインをちりばめているという。
3階には、1775年にパリで創業した「ブレゲ」、ジュエリーデザイナーを起源とするブランド「レオン・アト」が並ぶ。円形をモチーフとし、ディスプレイ棚と照明が一体化した前者、黒を基調に直線的なデザインを施した後者という対比が面白い。
4階は3つのブランドが同居している。スイスの機械式時計の老舗「ブランパン」は、寄せ木フローリングの床、木製の壁面什器という伝統的な空間。同じく機械式時計の「グラスヒュッテ・オリジナル」は、明るいベージュの床と壁を配して木製の柱状什器を並べている。
もう一つの「ジャケ・ドロー」は唯一、坂氏がインテリアも担当したブティックだ。エレベーター内と同様に、黒檀の線材を縦に並べた壁面と什器で構成している。
内装は各ブランドが独自にデザインしており、ブティックごとに雰囲気は異なる。スウォッチ グループは客層の異なるブランドを傘下に収めてきた。多様なインテリア空間の集積という形態は、スウォッチ グループの有り様をそのまま表現したものでもある。
5階から7階までは、カスタマーサービスのスペースだ。3層分の吹き抜けに面したコーナーは、ブランドごとに階が分けられている。吹き抜け広場のある5階はオメガ専用のフロア。木工造形作家の望月勤氏が制作したキリンのオブジェが置かれ、カウンターで受付をした客が待ち時間を過ごすためのテーブルといすが並ぶ。高い天井を強調するキリンのオブジェは、6種類の木材を用いてつくられている。
6階はブレゲ、レオン・アト、ブランパン、グラスヒュッテ・オリジナル、ジャケ・ドローの5ブランド向け。7階は専用ブティックを設けていない「ロンジン」、「ckカルバン・クライン ウォッチ」などミドルレンジの5ブランドのためのフロアになっている。
スウォッチ
オメガ
ブレゲ
レオン・アト
ブランパン
グラスヒュッテ・オリジナル
ジャケ・ドロー
カスタマーサービスの吹き抜け
通常、道路に面した商業ビルを建てるときには設計上の定石がある。第一に道行く人への訴求力を高めるため、1階にできるだけ面積の広いショーケースを設けること。第二に、店内の縦動線をできるだけ集約し、店舗面積を削らないようにすること。
しかしニコラス・G・ハイエック センターでは、こうした常識を思い切り破っている。
1階部分にはエレベーター内のショーケースこそあるが、奥深いアトリウムに点在しているので道路側へのアピール力は低い。アトリウム空間に紛れて見え、知らない人は店舗であることにも気づかないかもしれない。
さらに個々の面積が64平方メートルから140平方メートル弱というブティック群に対し、7つものエレベーターを設けている。普通の商業者なら「無駄」の一言で片付けてしまいそうだ。
しかし、1階にすべてのショーケースを揃え、エレベーターに乗った人を直接ブティックへ導く方法は、階による有利・不利を生じさせないメリットがある。ブティック間の回遊性も確保しているが、他のブランドに興味のない客はあえて回遊させる必要もない。客層の異なるブティックを集めたビルだからこそ可能な設計手法といえる。
また通り抜けのアトリウムは商空間らしからぬだけに、むしろ、さまよい入ってくる人への吸引力が高いように見える。事実、取材した7月上旬の平日午前は、外国人観光客も含めて常に何十人かが出入りしていた。
続々と登場する銀座の有名ブランドビルのなかでも、際立った空間の一つであることは間違いない。
(守山久子)
■ニコラス・G・ハイエック センター:http://www.swatchgroup.jp/
東京都中央区銀座7-9-18
(TEL:03-6254-7200)
営業時間 月〜土:11:00〜20:00、日祝:11:00〜19:00
不定休
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- 執筆者:守山 久子
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フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。
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