なぜ欧米の大学は「女子枠」を作らないのか?
本記事は、2025年6月15日まで全文を無料公開としています。
ゆっくりしていってね!
2022年に文部科学省が掲げた方針をうけて、日本の大学が続々と女子枠を新設・増設しているわね。どうやらアファーマティブ・アクションの一環のつもりらしいわ。
さて。横文字で「アファーマティブ・アクション!」というと、欧米追従の施策のように感じるかもしれないわ。実際、欧米を引き合いにしながら女子枠を正当化している人もよく見かけるし。
でも、女子枠に関して「欧米追従」は誤解よ。全く関係ないわ。
というのも、アメリカやヨーロッパ諸国では、性別に基づいて固定的かつ自動的な合格枠を用意する行為は、明白な差別と考えられているのよ。それは機会の平等を損ない、個人の能力評価を蔑ろにするものだと。よって、およそ違法とされているの。
まあ「およそ違法とされている」なんてちょっと歯切れが悪い表現だけどね。……でもコレ、仕方ないのよ。
欧米諸国は大学入試制度において、日本と同形式の「女子枠」は採用したことがなく、当然、いちいち裁判で是非を争ったこともないから。
裁判に至る前に止まってるっちゅうか、直近の2024年にもオランダのデルフト工科大学が女子枠を作ろうとはしたんだけど、教育検査局が計画段階で「あかん!」と制止しているわ。
デルフト工科大学が、航空宇宙工学の訓練コースの定員の30%を女性に割り当てることで、より包括的なコースにしようという試験的な計画は、教育検査局によって違法であるとして却下された。
検査官は、報道機関ANPに対し、平等の必要性は理解するが、現状の法律では性別による優遇は認められないと述べた。
「欧米諸国はアファーマティブ・アクション自体には取り組んでいるくせに、なぜ日本と同じ女子枠はやったこともないのか?」という点は逆に疑問よね? そこを説明していきましょう!
アメリカの場合
まず、アメリカの話からしましょう。女子大はちょっと特別だけど、それ以外の共学大学で「入学定員のうち〇人は女子」みたいなクオータ制が採用されたことはないわ。もちろん、単に「将来的にN%は女子となるように取り組みたい」という目標を設定をすることなら積極的に行われているけどね。
というのも、固定的な女子枠は、憲法修正第14条と1972年教育改正法第9編(Title IX)に違反すると考えられているからよ。
たとえば、性別ではなく人種クオータ制に関するものだけど、Bakke裁判(1978年)では「そこまで硬直的な人数割り当ては憲法違反である」と判断されたわ。
だから、人種でダメなら性別でもたぶん無理、あえて訴訟リスクを冒して「女子枠」を作る意味はない、というのがアメリカの基本的な考え方になっているのよ。
代わりにアメリカがアファーマティブ・アクションとして実行しているのは、女性向けのアウトリーチ活動(広告・宣伝)やメンターシップの強化、理系教育プログラムの提供、奨学金による支援などよ。
ただし、SFFA裁判(2023年)以降、アメリカでは「属性に基づく優遇措置」にはさらに厳しくなっているわ。(SFFA裁判では、クオータ制という硬直的な方法ではなくても、大学入試において人種を考慮すること自体が違憲であると判断された。)
実際、今まで許容されていたアファーマティブ・アクションである女性限定の教育プログラムや奨学金のいくつかが廃止されたのよ。
参照:
・Are Identity-Based Scholarships Illegal? (Law and Liberty)
・Complaints allege N.Y. college programs discriminate against men, white people (Times Union)
・日米の近況から再考する「女子枠」(ゆきと氏, note)
こうした状況から、アメリカで日本みたいな「女子枠」がOKになる可能性は、ほとんどないと考えていいでしょう。
ヨーロッパの場合
ヨーロッパに関しても基本的には同じよ。大学入試における厳格な性別クオータ制を採用したことはないわ。だからやっぱり、直接に裁判で争ったこともない。
ヨーロッパ全体としては、まず欧州連合基本権憲章第21条(無差別)および第23条(男女平等)があるわ。差別是正のための積極的な措置は採りうるともされてるんだけど、その許容範囲はけっこう厳しいわ。
この許容範囲についての最初の大きな判断は、欧州司法裁判所がKalanke裁判(1995年)で下したわ。本件は雇用における女性枠(同等の資格を持つ場合に自動的に女性を優先すること)について扱ったものだけど、これは明確に「許容されない」とされたのよ。
その後の判例で、個人の能力をしっかり評価するなどの要件を満たせば許される余地も示されたんだけど、一貫して『単純な人数割り当て』にはとても厳しい、というのがヨーロッパのスタンスよ。
さらにいくつかの国内法にも目を向けておきましょう。
ノルウェーの「ジェンダー・ポイント」制
大学入試において何らかの男女差をつけるという意味では、ノルウェーで実施されている「ジェンダー・ポイント」はそれに該当するでしょう。
これは学部の男女比が8:2以上に偏っていた場合、少ない方の性別に入試上のポイントが加算される制度よ。ただし、男性の方が少ない場合(獣医学部、生物工学部、臨床心理学部など)は男性が加算されるから、女性専用の施策ではないわ。
もっとも、施策全体としては男女平等に配慮されているものの、根本的には「性別を理由に、学力試験の点数が高い受験生が不合格となり、より点数が低い受験生が合格する」仕組みだから、問題がないとは言わないけども。
スウェーデンにおける「タイブレーク」方式の廃止
スウェーデンの大学入試では、2006年から性別や人種、民族を理由とした固定的クオータ制の使用が禁じられているわ。これは、スウェーデン最高裁がウプサラ大学法学部の固定的クオータ制を違法と判断した結果を受けた措置ね。(NJA 2006 s. 683)
ただし、総合的な評価が等しい場合に、少数派の性別を優先する「タイブレーク」方式に関しては、しばらく限定的に許容していたのよ。
でも、固定的クオータ制に比べれば「ゆるい」タイブレーク方式の優遇すら、2010年には廃止されたわ。調査の結果、この仕組みが男女の偏りをなくすのにほとんど効果がなかったことが分かり、EUの各種法令に違反するリスクも指摘されたのよ。また、かえって多数派を有利にするような結果を招くこともあったみたい。(詳細は、NEWSWATCH: Sweden Ends Affirmative Action vs. Womenを参照。)
注意事項として、スウェーデンはジェンダーに基づくあらゆるアファーマティブ・アクションを禁じた訳ではないけれど、施策を再評価し、取り下げた点で興味深い事例よ。
ヨーロッパのその他の国
私なりに調べたところ、現在、ノルウェーのジェンダー・ポイント制を除いては、ヨーロッパにおいて、性別に基づいて大学入試における評価を直接変えるような制度は見当たらなかったわ。(具体的には、固定的な性別クオータの使用、性別による評価の加算、男女の志願者の評価が同等であるときに片方の性別を優先して合格とすること。)
これは最初に述べた欧州連合基本権憲章等の法令が、加盟国において概ね遵守されている結果といっていいでしょう。
結論
さて、「女子枠」の扱いについて、アメリカとヨーロッパの状況を概観したわ。
こうして見ると、日本の大学で今まさに進んでいる「女子枠」の導入が、「欧米追従」という言葉では全く説明できないことが、分かって頂けるはずよ。逆に欧米の基準では、アファーマティブ・アクションとして許容される内容を超えていると言えるでしょう。
だって、ゴリゴリにずっと「そのやり方はよくない!」と拒否してきたことそのものだし。
大学入試の合否に直接介入するような、性別による「単純な人数割り当て」は、「性差別にあたる」というのが共通した見解よ。良かれと思ってやってみたスウェーデンでさえ、検証した結果、廃止しているわ。
日本の「女子枠」が本当にアファーマティブ・アクションの一環だというのなら、なぜ欧米では安易なクオータ制が採用されていないのかを考えたほうがいいでしょうね。
当然ながら、女性以外の権利を不当に侵害しない形で機会平等を目指すのは、別に悪い話じゃないわ。
今回は以上!
よろしければ、記事のスキ&シェアをお願いしたいのだわ!
また記事を気に入っていただけた場合は、ご支援してくださると大変励みになるのだわ!
※ご支援者様におかれましては、無料期間を過ぎても全文を閲覧可能です。(無料期間終了後の記事購入より安く済みます。)
ここから先は
¥ 300
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?



購入者のコメント