まさか日本が鍵なんて…中国「レアアース禁輸」で窮地のアメリカが欲しがる「技術」とは?
● 中国が初めてレアアースを 戦略的に使った国は日本 「レアアース」という言葉が、再び注目を集めるようになった。ここでは、レアアースによって現在アメリカが対中交渉で追いつめられていること、そして、今後のアメリカ側の対応において日本が鍵になることについて考える。 中国がレアアースを戦略的に使った最初の相手は日本だった。 2010年9月、民主党政権下で発生した「尖閣諸島漁船衝突事件」をきっかけに、中国はレアアースの対日輸出を停止した。 このときは、ネオジム、ジスプロシウム、サマリウムなど主要なレアアースだけでなく、中間財を含むレアアース全体の輸出が実質的に止まり、自動車産業を中心とする日本経済は混乱を極めた。 当初、日本側の障害となったのは、中国が正式に対日レアアース禁輸を発表していなかったことだった。いつの間にか「事実上の禁輸」が実行され、日本側は交渉相手が不明確なまま対応を迫られた。 この輸出停止は、日本の基幹産業を担うトヨタ、日立、三菱などが使用していた「レアアース磁石」の入手困難という形で深刻な影響をもたらし、ネオジムの価格は数倍にまで高騰した。 日本政府は、ベトナム、インド、オーストラリア、アメリカなど、中国以外の代替供給国を探した。特にオーストラリアのライナス社と提携したことが、安定供給につながった。 国内では既存製品からレアアースを取り出すリサイクル技術や、フェライト磁石などの代替素材の研究開発を強化して対応し、なんとか乗り切っていった。特にネオジム磁石の回収と再利用がうまくいったことで、日本はいわゆる「都市鉱山」の活用にさらに力を入れることとなった。
また、トヨタがジスプロシウムフリー磁石の開発に成功し、中国依存度を低下させるなど、日本企業が持ち前の技術開発力でレアアース使用量の削減を急ピッチで進めたことは、世界的にも注目を集めた。 これを受けて日本政府はレアアースの国家備蓄制度を創設し、官民で戦略的備蓄を行い、今後のレアアース制裁のリスクに対応することとなった。また、戦略物資を中国に依存することがいかに危険であるかという認識が高まったことは、有意義だったと言っていいだろう。 日本、アメリカ、EUは共同で2014年、中国のレアアース輸出規制をWTO(世界貿易機関)に提訴し、中国の輸出制限が不当だったとの判断を勝ち取った。これにより、中国は輸出枠制度と輸出関税を撤廃せざるを得なくなった。 中国は「レアアース外交」の失敗を受け入れざるを得なかった。このときの日本側の一連の対応は見事なものだったと言っていいだろう。その背景には、日本がまだレアアースの精製技術を保持していたことも大きかった。 ● 「レアアース」と 「レアアース磁石」の違い 上記で「レアアース磁石」という言葉を使っているが、ここでいちど基本に立ち返り、レアアースとレアアース磁石との区別を明らかにしておきたい。 レアアースとは、ネオジムやサマリウムなどの希少金属元素のことで、中国が特に戦略的に管理しているとされるのは、次の7つである。 ネオジム(Nd):高性能磁石の素材 プラセオジム(Pr):磁石や航空合金に使用され、Ndと共に用いられる ジスプロシウム(Dy):磁石の耐熱性を高める テルビウム(Tb):磁石の補強や蛍光体、ディスプレイに使用 サマリウム(Sm):高温耐性を持つサマリウムコバルト磁石に使用 イットリウム(Y):レーザー、超伝導、蛍光体の材料 ガドリニウム(Gd):医療用造影剤や磁性冷却材などに使用 このうち、ネオジム、プラセオジム、ジスプロシウム、テルビウム、サマリウムの5元素は、高性能な永久磁石の原料として特に重要である。 つまり、「レアアース磁石」とは、これら5つの元素を用いて作られた永久磁石、あるいはそれらの元素自体を指す場合もある。