「フォーク界のプリンス」が残した名演
ではここからは、中野サンプラザにおける名演・名盤を振り返っていく。
まずは吉田拓郎(名義は「よしだたくろう」)の『LIVE '73』だ。「'73」=1973年。要するに、中野サンプラザ開館の年の11月26・27日の2日間にわたって行われたコンサートを収録したもの。出来立てピッカピカの中野サンプラザのコンサート、吉田拓郎もバックバンドも観客も、さぞかしテンションが上がったに違いない。
『LIVE '73』で驚くべきは、その音の良さである。高中正義、松任谷正隆らを擁するバックバンドの演奏も素晴らしいが、録音もまた素晴らしい。1970年代前半に、これだけ生々しい音でミキシングされたライブ盤が生み出されていたのかと、今さらながらに驚く。
「吉田拓郎=フォークギター1本でがなっている」という表層的なイメージを持ってしまいがちな(「拓郎リアルタイマー」より)若い世代は、この圧倒的な演奏を聴いたら驚くことだろう。当時「フォーク界のプリンス」として人気絶頂な27歳の「俺を『フォーク』という狭い枠に押し込めるなよ!」という心の叫びが聴こえてくるような1枚だ。
次に松任谷由実。私のような、80年代後半からの「バブル・ユーミン」時代のイメージが強い年代には「中野サンプラザなんてユーミンには手狭だろう」と思ってしまうのだが、実はユーミンも、このホールと縁が深い音楽家なのだ。