銃を抜いたが、俺が向かわずとも大丈夫そうだけどな。三浦はんマジに強え。単身でキョウジ押さえ込んで器ちゃんの援護も何もさせないでいる。
「で、三浦はん? どんな状況?」
「遊ばれているか、何らか策があるか、不穏なところだゾ。……にしても、流石だな本庄。兄貴を正気に戻すとは。あいつでも出来なかったのにな」
「……白餃子とお知り合いで?」
「そうなる前は良い奴だったゾ。……あいつも、トールマンさんもな」
下らなそうに呟き、三浦が異能をその腕に振るう。しかしキョウジはその身を焼かれながらも直ちに腕を生やして足を生やす。こいつプラナリアか何か? 完全に左右真っ二つにしたらどっちが本体になるんだろうな?(哲学)
「にしてもさっきから無様だな。不死身のキョウジだっけ? ご大層な二つ名が泣くぜおい。お前だけは塵も残さず消してやるよ」
「言うねえキチガイ本庄君。悪口みたいな二つ名がぴったりだ」
「死ね! 一度死んで蘇ってまた死ね!(全ギレ)」
三浦はんが撒く炎の内を、踊るように避けるキョウジに連続して弾丸を放つ。……が、不意に奴は姿を消した。
「なっ……どこに行きやがった!?」
「えっ!? どこなのこ……んげえっ!?」
「えぇ……(困惑)」
見れば、器ちゃんが片手でキョウジの頭を持ちながら、ライドウの剣戟への盾として使っていた。あっ、一瞬でズタボロになって捨てられた。かわうそ……。
「……生首が身体を持つのはルールで禁止ですよね。無駄に重いです」
「きょ、強制召喚って……どんどん人間離れしていくね君……」
打ち捨てたキョウジを一顧だにせず、器ちゃんは向かい来る剣を前に溜息を吐く。苛立ちを露わにし、髪を掻き乱してから叫ぶ。
「しゃあっ! "
「<回避>に<ガード>に<回し蹴り>。そして……そこの、ワグナス? という人」
「ああ! <メシアライザー>! ……これだけの数で千日手というのは、ちょっと凄まじすぎるぞ。本当に私と同じ立場なのか?」
なにあれ? ハルマゲドンか何か? ライドウとワグナス、そして坂上さんが辛うじて対抗できているくらいで、ニンスレは焦燥しているし、ゲイリンとイーノックとドン・キホーテはボロ雑巾だぞ。
「おいニンスレ! お前ヒーロー相手にゃ滅法強くなかったのかよ!」
「ヌウ……あれは最早カオスヒーローですらない。別の何かになりかけている。そうなったのはオヌシのせいだろうが!」
「んにゃぴ……(め そ ら し)」
「んにゃぴ警察ですっ!」
「グワーッ!?」
あっニンスレが器ちゃんにぶっ飛ばされた!? とりあえず、ボロボロのイーノックとニンスレをCOMPに戻し、急いで再び広がりつつある混沌の中心へと向かう。
器ちゃんは俺達の姿を目にし、眉間に皺を寄せて「はあ……」と溜息を吐いた。がりがりと強く髪を掻き乱す。苛立ちを募らせたように目を細める。
「弱い者虐めじゃないですかこれ。本庄様はさっきから別のお方に熱心ですし。私いじけちゃいますよ」
「強い者討伐の間違いでしょ。マンモス器ちゃん(隠喩)」
「はい、無駄です。アルカナ・シフトでしたっけ? もう十四回殺しましたが、それ以上はあるんですか?」
「……おーい? 器ちゃん?」
「はあ、"死"ですか。無駄ですよ。私にはもう生も死もありませんし、何より貴方は影に過ぎません。全部無駄です。無駄ですから……黙っていて下さいよ! 何が忌憚のない意見ですか! 汝は汝! 我は我! 貴方なんて消えてしまえ!」
「あっ……(察し)、ふーん……(戦慄)」
そんなのダメクマー! と何故か叫びたくなってくる光景だが、それ以上に器ちゃんの身体が何かおかしい。何もせずともボボパンと風圧に気が溢れかえって周囲を千々切れにする。
恐らくは内心のシャドウが暴れ回ってるんだろうけど、現実に物理的影響を及ぼすシャドウってどういうことなの……。普通、精神反転とか、乗っ取ってから影響を及ぼすんじゃなかったっけ……。
「いやあ。魔人のシャドウもまた魔人って、理屈としちゃ分かるんだけど、現実に存在するってなると頭おかしくなるね」
ボロ雑巾だったキョウジが、いつの間にか復活して器ちゃんの近くに佇んでいた。彼女は舌打ちをして、更には目線一つで奴の息の根を止めたが、「流石は混沌の器だぁ」と妙に奴は上機嫌である。キモッ(直球)
だが、奴はへらへらと笑った。笑って器ちゃんの前に立ち、踏み込み、眼光鋭く言い放った。
「だから、幸鉤を奪う必要があったんだね。……なんて、彼の真似だよ」
「なっ……!?」
ひゅう、と風切りの音。血飛沫の音。肉が抉れる音。人の指が、肉から何かを抜いた水音。
キョウジが器ちゃんから針を引き抜き、それを粉々に砕いた。
「……葛葉キョウジ、なんのつもりですか」
「僕はガイアだ」
ライドウの言葉に、倒れ伏した器ちゃんを見つめながら、キョウジが言う。
「だから、こんなロウに進む未来なんて、認めるわけがないだろう? 気付けよ。馬鹿だなあ。これだからヤタガラスには任せておけないんだ。こんなふざけた異変がなくても、メシア教が支配する未来があったってのに」
「ま、それに関しては杞憂に終わりそうだけどね」と、キョウジはにやにやと笑ってこっちに向かってきて……って血塗れの手で肩組んでくるんじゃねえよボケ! 死ね! 顔近いんだよ!
「やろうよ、神殺し。サタンも四文字も殺そうよ。その後なら封印だって構わない。何せ、三代目が見つかったからね」
「お前ホモかよぉ!?」
「違うけど? 僕は純粋に世を憂う国士として、ヤタガラスを滅ぼし、純然たる苛烈たる退魔政権を樹立し……っ!?」
キョウジが言葉を中途で切り、倒れ伏した器ちゃんに目を向けた。……ああ、うん。そうだよな。見るからにヤベえわ。
「ふっ、く、は……!」心臓近く、溢れかえる血潮を気にも掛けず、器ちゃんは笑う。「そうですね。そうですよ。それしかありません」
既にペルソナの姿はない。悍ましい気配は消え失せている。だというのに何だ、この渦巻く溢れんばかりのMAGは。
「……まあ、可能性としてはあったんだけどさ。サタンのゴミが、隙を突いてこの娘の再支配に取り掛かるかもって」
「えぇ……まだやるのぉ……? 器ちゃんはそっとしといてやれよ……後で枕に顔突っ伏して悶える黒歴史確定なんだからさあ……」
「だとしても、この娘は死にかけだよ。あんまり役に立たないよ。……でも、これは、さあ」
キョウジがじり、と一歩引く。当然の反応だ。剣も魔法も通用する気配がねえ。傍に居るだけで全て呑み込まれて吸収される。その後に誕生するものは何か、考えたくもない。
その時、不意に「ペルソナ」と声が聞こえ、万能魔法が降ってきた。
「坂上、ワグナス」「酷使が酷いっす」「呼び捨て……まあいいが……」と、それはまあいつも通りに(感覚麻痺)無効化したが、濛々と煙る中、進み出てくる影が二つ。
「き、貴様っ……何を……! 私の、乗る船……! 私の、力……!」
「ペル……ロキ……ロ、キ……」
「って死にかけてるー!?」
あの、神楽の間の奥の方からクソゴミハゲ獅童とクソ明智君が揃って出てきたかと思ったらいきなり満身創痍なんですがそれは……。こんな出オチも早々ねえだろ……。
しかし、「うわあ」とキョウジが納得したように、或いはドン引きして呟いた。
「やっぱりだ。この娘、サタンの操作を逆手にとって、全部取り込むつもりだ。見てよ、この二人のペルソナ。ロキにサマエル、トリックスターの化身の一つだけどさ、消えかけてるじゃん」
「なんで!?」
「いや、言ったよね? まあ僕も何でって感じではあるけどさ。……地母神を宿して更に深まったか。混沌の器。カオスの権化。初めて君と僕が会ったときと同じく、全て呑み込んで、自分で決着を付けるつもりだよ。健気だねぇ」
「そーなの!?」
「さっきから何なんだよそのテンション……。いやでも、これ本当に、どこまで……!」
とか言っている間にも、ハゲとイケメンが倒れ伏す。そして、あの、ヤタガラスの異界が捲り上がって全部器ちゃんの中に取り込まれていくんですがそれは。もう混沌とか地母神とかそういうレベルじゃないんですがそれは(戦慄)
「これ本気で不味い奴じゃねえかなあ……器ちゃんどうなっちゃうの」
「良くて暴走。悪くて暴走。相打ちを期待するしかないね。逃げよう!」
「ゲイリン、出口はー?」
「……あるにはあるが、それを聞いてどうするつもりだ?」
「んあ?」
何言ってんのこのお爺ちゃん。ボロボロの格好でまだ使える管を選定して、もう殆ど通じないって分かってるだろうに、戦う気かよ。
と、思っていたら「っは、はは!」と笑われた。おう何だお前笑う場面かお前!
「いや、はは、すまないな。どうにも、お前はおかしい奴だ。ライドウでなくとも分かるぞ」
傷付いた膝に止血を施し、脂汗を流しながら、ゲイリンは俺を指差し、笑みを浮かべた。
「……その顔よ。逃げる気など、これっぽっちもない癖に、そんな事を聞くな」
背を預けるように、肩を並べるように、ゲイリンは嬉しそうにそう言った。
「……っけ。顔を見て人を判断するな、ボケジジイ」
「いやはや、儂の目も曇ったか? お主は確かに、国を世界を守ろうと戦う、ヤタガラスの一員に見えるのだがな」
「そんなんじゃねえよ」
そうとも。何時だって俺が戦うのは自分のためさ。
自分のために……誰かの期待を、誰かの思いを、裏切って苦しくならないように、戦うのさ。
「柄にもなく、格好付けたところでよ。……黒歴史がまた一ページ。後で悶絶する準備は良いか? 器ちゃん」
……混沌の内に立つ影が一つ。
「おかあ、さ、ま……おかあさま……私に全てを受け取らせ、手ひどく裏切ったお母様……」
感じている。如実に感じている。それは最早、神だの悪魔だの、そんな次元じゃない。もっと深い何か。より混沌とした、星その物とも呼べる何か。
キョウジが呟く「混沌の化身。カオスの権化」信じられないように目を見開き、ひりついた笑みを見せる。「そうは言ったけどね、ここまで至るかよ……!」
器ちゃんの姿が揺らぐ。COMPに表示される文字が揺れる。存在その物が根本的に変化していく。現世に化生し、降誕する。
「……故に全てを寄越しなさい! 私に全てを! 混沌を超え、古き地母神を超え、星の内界に佇むお母様! 私が産まれたのが貴方のせいだというのなら、貴方を取り込み、この身を投げ打って、神をも事象をも殺し尽くします!」
器ちゃんは、確かに"それ"と溶け合ったのだろう。COMPが異常音を響かせて、目の前の存在を定義した。
[魔人:母子合体魔人が 一体 出た!]
「ペルソナ────メ■ア■■!」
極光と共に顕現するは、古く巨大な大母の姿。神ですらなく悪魔ですらなく、巨大な意思とも呼べる何者か。
それと一体になり、それを振り回し、器ちゃんは虚ろに神楽の間に進む。対抗して尋常でないMAGが異界の奥底から溢れ出る。サタンの顕現と大母の衝突に、世界が悲鳴を上げる。
さあ、始まるぞ。怪獣大決戦だ。器ちゃんにただ乗りして、最後には元に戻してよ、サタンなんて思わせぶりなだけのクソザコラスボスでしたって笑ってやろうぜ。
「そうだね、お兄ちゃん!」
「おう! イクゾオ……いや何だお前!?」
思わず突っ走りかけた足を止めれば、何か傍に見たことのない少女が佇んでいた。ピンク髪の……いや黄色? いや青? 見ている間にも髪色が、ってか顔が変わる。何だこいつ!?
「えー酷ーい! 何時も言ってるでしょ? 夢見が夢見が~~って! じゃじゃじゃじゃーん! 可愛い可愛い従妹の夢見だよ!」
「えっ、誰……? 怖……」
「……怖い? 今、怖いって言った?」
「ヒエッ」
とか何とかわけわかんねーこと叫びながらコイツ目がイッちゃってる(戦慄)。いやマジで誰? 夢見なんてキャラ、りあむくらいしか知らねえんだけど。マジで心当たりが……ってああああ! この中に一つだけあったわ黄色い髪色の包丁持った女の姿!
「お、お兄ちゃんって……ヤンデレ妹……! って事はお前、ヤンデレCDか……? 何しに来やがった……!」
「あっ、分かった? でもね、違うよお兄ちゃん! 私の名前はね……あはっ、あははっ! あはあはははははははっ!」
「ねえなんで俺こんな場面でこいつの相手しなきゃならないの?」
あの、皆もう四方八方にぶちまけられる戦闘の余波に対抗し始めてるんだけど、俺だけ無視されてるんだけど。人生の悲哀を感じるな……。俺の人生、どこまで行ってもネットミーム尽くしか?
だが、不意に極光が墜落してくる。器ちゃんの魔法とも呼びがたい何かである。あっ、死ぬ(確信)
「あっはあははははっはは────お兄様を傷付けるなんて、本気で無様ですね、私」
ぴたりと、不意に笑い声を止め、キチガイヤンデレ女は鋏を振った。その切っ先に極光は切り裂かれる。えっ強……てか姿安定した……?
移り変わったその姿、黒髪を長く靡かせ、異様なまでに白い肌。唯一違うのは、血のように真っ赤な瞳か。
瞳の色以外は全く同じ……器ちゃんが、そこに居た。
「…………うん。全然分からん!」
思考を放棄しようとして、しかし不意に器ちゃんがぐるりと瞳をこちらに向けた。どす黒い瞳は全てを呑み込み混沌と化して星に穴を開け地の底の果て「はいそこまで。目障りなんですよ!」うわあ目の前で鋏を振うな怖っ! 何だこいつ!?(驚愕)
だが、こいつの登場で器ちゃんが大人しく……大人しくは……なってないな。うん。寧ろ信じられないような顔と共にあらん限りの憎しみを浮かべ、感情そのままの叫び声をぶつけてくる。
「お前、私のシャドウ! 私のシャドウが! 本庄様に! 影の分際で! その身体は!」
「悔しいですか? まあベルベットルームの助力がなければ出来ない、殆ど反則技みたいなものですからね。裏切られたのはショックでしょうけど、私もベルベットルームの主も、何時だって言っていたでしょう? ……貴方のための、忌憚のない意見だって」
ひひ、と狂ったような笑みを見せて、器ちゃん(2Pカラー)は器ちゃん(1Pカラー)と対峙する。えぇ……何この光景……。
「か、格ゲーか何か……? ジャンルがスマブラに変わっちゃった……?」
「違いますよお兄様。私はあれを本体とする第三の魔人。魔人:デストルドー。投げ出された影が情報を被り、食い破った自分殺しの魔人です。……分かったら返事くらいして下さいよ!」
「こっわ」
「はっあああああああ!? 殺したでしょうが何度も何度も! そんなものルールで禁止でしょうが! 分かったらさっさと荼毘に付しなさい!」
「こっわ(二度目)」
「あっはははあはははははははは! お前なんかにお兄様を渡してやるものですか! お兄様を守れるのは私だけ! お前の存在その物が万死に値する!」
「こっわ(三度目)」
きゃあ、自分ごろし(迫真)。止めろよ。自分同士の争いは醜いものだってドラえもんも言ってたゾ……。