ネットミーム・デビルサマナー   作:生しょうゆ

33 / 56
第三十二話 人間の屑

 

 

 

 眼前に立ち塞がるは二人。ワグナスと器ちゃん。或いはロウヒーローとカオスヒーロー。そう定められた影響かは知らんが、そのレベルは桁外れに上がっている。

 

 鋼鉄の翼は法を象徴し、濡れた黒髪は混沌を象徴する。互いに相反する属性の極致が、仲良く手を取り合いやがる。

 

NTR(ネトラレ)やんけ~~~~!!!」

「寝てから言って下さいよ。寝る度胸もないくせに」

「おー怖っ! 諏訪さんの頼みでよぉ、器ちゃんの中に居るサタンぶっ殺すことになってっからよぉ、大人しく差し出してくれよな! NEO器ちゃん!」

「出来るわけがないでしょうがよえーっ!」

 

「しゃあっ! ペル・ソナ!」と器ちゃんが腕を振り、ニャルラトホテプを顕現させる。相変わらずSAN値がゴリゴリ削れる悍ましい気配だが、それ以上に最悪なのはその耐性だ。

 

「物理以外全反射とかさぁ……サタンじゃなくてこっちがラスボスだろ……」

「ですが、本体の阿多はその限りではありません。精々が全属性耐性。切れば殺せます」

「お前話聞いてた? 殺すなって言われてんだよ諏訪さんの頼みなの!」

「生憎、諏訪の思いに応えるには厄介すぎるぞ、これは。殺すか殺されるか、そういう領域だ」

「その通りだサマナー。こいつらは二人とも殺す。それが私であるが故に! ドーモ、ニンジャスレイヤーです!」

 

「イヤーッ!」と駆け抜けるニンスレを横目に、チッ、と舌打ちをし、内心でゲイリンの言葉に頷く。何せ、器ちゃんは直ちにお決まりの一手を繰り出してきた。

 

「しゃあっ! <メギド・ラオン>! <メギド・ラオン>! <メギド・ラオン>! <メギド・ラオン>! <メギド・ラオン>!」

「そのクソチートやめろっつったよなぁ!? 敵も味方もドン引きしかしないからよぉ!」

「誰が私を嫌おうがどうでも良いんですよ! 本庄様を殺せるのなら! 好きで好きでどうしようもなくって! だからぶっ殺すんです!」

 

 飛来する五連続<メギドラオン>は、簡単に家屋を吹っ飛ばし、天井に空を晒す。だが、既にニンスレとライドウは飛び出していた。無数の拳撃と斬撃で万能魔法を防御……防御? して、その隙に坂上さんが駆け抜ける。

 

「<タルカオート><会心の覇気><貫く闘気><チャージ><チャージ><チャージ><チャージ><チャージ>────<空間殺法>」

「すまないが、<デカジャ>だ。そして──<シナイの神火>」

「チィッ! あン時殺しゃあ良かった!」

 

 坂上さんの必殺剣が、ワグナスの手により瞬く間に削ぎ落とされ、遂には万能魔法で撃ち落とされる。その間に割って入った剣はメシアン流のそれ。二撃三撃と剣を交わし、力ずくで跳ね飛ばしやがった!

 

 そのまま放たれるのは破魔の光。「<天罰>」と呟かれ落下する輝きは、しかしゲイリンに召喚された悪魔によって吸収される。

 

「召喚。[サンダルフォン]に[マハカーラ]。万能以外は気にするな。破魔に呪殺に火炎氷結疾風電撃。全て無効にしてくれる!」

「てぇ事は、物理か万能の撃ち合いになるって事っすね。ワグナスの方も全耐性に破魔呪殺無効っすから」

「こいつらクソチート……クソチートじゃない?」

 

 まあ、それならそれでやりようはある。特に、見知った相手ならな。

 

「おいイーノック! ワグナス相手なんだから前やったみてえに『大丈夫だ、問題ない』botやれ! お前だってメタトロンの何かなんだから話通じるだろ!」

「大丈夫じゃない。あれは最早、メタトロンの悪魔人間ではない。ロウヒーローという名の魔人だ」

「つっかえ!」

「だが……話は通じるはずだ。そちらのカオスヒーローはともかく、彼はな」

 

 そうイーノックが言うと、ワグナスは苦笑して剣を肩に当てた。

 

「流石はイーノック様だ。というより、先に話すつもりだったんだが、急に戦闘が開始されたからな。QSKだ。わっはっは」

「わっはっはじゃねえんだよボケ! 正気なら正気言えやキチガイ妹の兄ィ!」

「生憎、正気じゃない。抑えているだけだ。必死でな。それこそ、エリーの事も二の次なほどに」

 

 ワグナスは、不意に器ちゃんの方を向き剣を振る。しかしその腕は中途で止まる。中空に押さえ付けられたようにギリギリと止まる。

 

「運命とやらに、私達は導かれているらしい。私がここに導かれ、サタンと相対したのは、既に一通りの儀式が終わってからだった。あの阿多の器の操作により、奴は一つ宇宙卵としてこの先に胎動している」

「今北産業!」

「サタンはこの先。

 私達は敵。

 さっさと殺せ、ピピニーデン君」

「結論が早スギィ!?」

 

 あの、見知った顔を殺せ言われても困るって言うか……いや今なんて言った? ピピニーデン君? お、おい、それってYO……。

 

「ああ、いや、すまないな。悪魔合体の時を思い出し、何とか耐えているのだが、そろそろ限界が近い。まあこれもサタンとしては全くの不本意なのだろうが。……利用しようとして、利用させられてしまった感がある、らしいよ。ネットミーム、大衆の無意識に」

「正気を保てワグナス! お前が急に顔真っ赤になったら笑わずにいられる自信がねえぞ!」

「笑って殺してやってくれ。それと、エリーを頼む。……こうなって分かるのだよ。こうなる定めだった。私の人生は、全て悪魔に操られるための無様なものだったのさ。まったく、役立たずだな?」

 

 そう言ってワグナスが苦しく笑う。どいつもこいつも、操られてるのに謝ってくるんじゃねえよ。クソが。

 

「……なにを簡単に諦めてやがる。お前はメタトロン抜けただけで肉塊の中から意識持てるほど図抜けた精神力してるだろうが」

「確かにそれだけは想定外だったらしい。だが、もっと重大な想定外が多すぎたらしいよ。だから無意味なのさ」

「おうくっちゃべる時間あるなら気を保て!」

「……私の精神的強度など、君やそこの彼女と比べ、些事と見逃される程度には、何の役にも立ちやしない。行動と心を強制され、私の思いなど消え果てる。……ロウヒーローってのは、そういうものらしいよ」

 

 何を。ふざけたことを抜かす前に……と、口を開きかけて万能魔法が飛んできた。見れば、ワグナスの目はこちらを向いていない。既に正気を失っている。

 

「……ワグナス」

「いいや、私の名はロウヒーロー。……神のため。人のため。千年王国樹立のために、お前達を殺そう」

 

 そう呟き、唇を引き締めたと思うと、急にワグナスは叫び出した。

 

「たか子! まろ茶を出しなさい! パンタロン君を迎えるのにはまろ茶が欠かせないと言っただろう!!! 何、たろ茶は切らしている? ピーナッツバター君に懸想しているからといって嘘は止めなさい。お前がこの手に持ったナイフの行方を知ることに……そうそれで良いんだなるほど悪魔がスイと出た。分かるかねパンパース君にいただいた銃を使い頭を撃ち抜くのも一興だが使いにくいなこれは本当に使いにくいな嫌がらせかねパンタグラフ君!!! ともかく召喚の際に掛かるMAGは本来546890と膨大だが彼女の力によって魔界にスーッと効いて……これは……ありがたい」

「まじふざけんなよ……! もうそれ絶対笑わせようとしてんじゃん!」

 

 急にスク始めてんじゃねえよボケ! 驚愕と半笑いでちょっと表情筋が変になったわ!

 

 だが、ワグナスにけおられた器ちゃんは、「……マイ・ペンライ」と、つまらなそうな顔で虚空に腕を動かす。その指先の動きにMAGが渦巻く。陣も儀式も全くなしに、意思だけで悪魔が召喚される!

 

「さて皆様! 私は一人の男を味方とします。私の味方であるその男を見てやって下さい!」渦巻くMAGに、ワグナスが歌うように語りかける。「名前を、アロンソ・キハーナ。アロンソ・キハーナと言いましたが、私がロウヒーローであるように、彼もまた、ただの人間ではない!」

 

 現われたのは、貧相な姿の騎士。髯面で、死にかけの騎士。そいつは訳の分からぬ事を叫び、痩せ馬を嗾け向かってきやがった。

 

「朝から晩まで騎士道物語を読みふけり、干上がってしまったその頭。思い付いた実に奇妙な計画! 世界に名を知らしめた、哀れなる遍歴の騎士の物語! もはや、ただのアロンソ・キハーナではない! 人呼んで、ラ・マンチャの! ドン・キホーテ!」

 

[幻魔:ドン・キホーテが 一体 出た!]

 

「キチガイだ! キチガイだ! キチガイ沙汰だ!」

「さあ覚悟したまえよパルス逆流君!!! 聞こえているのかねパルムたべたべ君!!! 何を笑っているのかねぱしろへんだす君!!!!!」

「すまん。これがロウヒーローとか白餃子が可哀想すぎてだめだった」

「頭が痛くなってきたぞ儂は……。一応聞いておくが、悪魔言語ではないのか? あれは」

「なぁに、すぐHIRAKIにして飛ばしてやるっす」

「坂上も坂上で何を言っておるのか全く分からん……」

 

 だが、ワグナスが遂に本気を出しやがった。ドン・キホーテに前衛を任せ、本人は後方で<シナイの神火>を連続して撃ちだしてきやがる。お前らどっちも万能魔法連打してんじゃねえよ糞が!

 

「ニンスレ! ちょっとこっち来い! 数は有利なんだから器ちゃんライドウに任せてワグナス先に叩きのめすぞ!」

「じゃあ、そこで僕の登場って訳だ!」

「なんだお前!?(驚愕)」

 

 壁を吹き飛ばして入ってきたのはどっかで見たことあるグロ生首、ってかクソッタレのキョウジじゃねーかボケ!

 

「やあ、随分大変なことになってるね。まあ僕としては愉快痛快って所……」

「俺達のこの怒りはボールにぶつけよう!(全ギレ)」

「うわっはっは! 君は変わらないねこんな状況でも!」

 

 シュートした頭はぐるぐる飛んでいって、ゴールポストの代わりに抱きかかえられた。身体に。首無しの身体に。お前デュラハンか何か?

 

「貴様、二代目葛葉キョウジ! やはり裏切りおったな。儂が封じた肉体を持ってきおって!」

「一応、彼女の仲魔って形で契約されてるからさ。主の意向通りに……まあ、そんなのがなくても暴れるつもりだったけどさあ!」

「ゴミ野郎がぁ!」

 

 ぐりぐりと首をくっつけ、キョウジは笑いながら向かい来る。徒手空拳に風を貫く拳撃を、ゲイリンの仲魔が盾となって防ぐ。だが、元はレベル70台の化け物。物ともせずに悪魔ごと引き裂いて向かってきやがる!

 

「いやーそれにしても久々の身体、ありがたいねえ! 自由に身体が動かせる楽しさ! うん、自由! これこそガイア!」

「なにがガイアじゃ! お前らん所の頭は今、世界中に糞みてえなネットミーム放り出しとるわ!」

「いや、あれはロウでしょ。事象:トリックスターだっけ? 面白いこと考えるけどさあ、結局は人が望み待望する、人造メシアの発展型でしかないね」

「じゃあ今すぐあいつぶっ殺しにIKEA」

「やだよ。だって僕が一番恨んでいるのは君だからね!」

 

 バラバラになった悪魔の肉片を目くらましにし、必殺の勢いで駆け抜ける拳をすんでの所で避ける。いや風圧だけで肌が削れる! バケモンがよぉ!

 

「このままじゃ艦これの大破絵みたいになっちゃう! どうする? 実は俺のパンツが過激だったら」

「そんなギャップは誰も望んでいないっす」

「というかさあ、あっちの彼女を放っておいていいわけ? こんな状況でも構ってとか言い出せないの健気だねぇ。運命者として操作されながら、感情に関しては自我を保てるって本当に凄いよね。まあ、つまりはあれが本音って事でも……んげぇっ!?」

 

 急にキョウジが顔面から吹っ飛ばされた。その顔に張り付いてるのはキッショイ触手の化け物である。ああまたSAN値がゴリゴリ削れる!

 

「召喚。邪神:月に吠えるもの。……舐めてんじゃないですよ、こら! 邪神:チクタクマン! 邪神:膨れ女! 邪神:ナイ神父!」

「邪神ばっかじゃねえかお前ん家ィ!」

 

 糞が次々と数が増えやがる! ただでさえ強力な邪神共を矢継ぎ早に繰り出してきやがって。改めて器ちゃんの厄ネタっぷりを感じるわ!

 

 だが割かれる。触手も混沌も一刀と恩讐の炎の前に切り裂かれる。「数は問題になりません」ライドウが刀を構え、千々に邪神共をMAGへと返す。「故に絶ってみせましょう。私は葛葉ライドウなので」

 

 それを目前にし、器ちゃんは歯軋りをする。<メギドラオン>を放ち続け、片手間に召喚を続けるという異様な強さを見せ付けながら、尚もそれを乗り越えるライドウへ殺意の籠もった目をみせる。

 

「怪物を超えた怪物! 悪魔を超えた悪魔! 葛葉ライドウ! ずっと、ずっと! 私は貴方が嫌いだったんですよ!」

「知りませんでした。私、本庄以外の頭は覗いたことがないので」

「本庄様の話はしないで下さいよ! 私は今メチャクチャ機嫌が悪いですよ!」

「目の前に本人がいるんだけどぉ?」

 

 こっち気付けよ、と軽い気持ちでパァン! と銃弾を放つ。五十発ぐらい刺さったって死なないでしょ(確信)

 

 だが、急に器ちゃんはぐりんとこちらを向き、物凄い顔で俺を睨み付けた。こっわ(震え声)

 

「ゆ……許せませんよ……! 本庄様が私を撃つなんて……! 私を、私を! 本庄様がぁっ!」

「サマナー。こ奴は実際、狂気に飲まれている。最早アイサツさえも介さぬだろう」

「の割にワグナスよりはまともそう……まとも……まともかなこれ?」

 

 んなことを言っている間にも器ちゃんは<メギドラオン>を放ってくる。長い黒髪振り乱して半狂乱に魔法を繰り出してくるその姿は、ちょっとホラーが過ぎる(戦慄)

 

「まともなわけがないですよ人を愚弄しないで下さいよ! そうやって私を! 本庄様が私に!」

「イーノック! 無敵の『大丈夫だ、問題ない』でなんとかしてくださいよォ────ッ!」

「すまない、ちょっと大丈夫じゃない」

 

 そう言ってイーノックは忙しなく邪神共を片付けていく。坂上さんとゲイリンが、ワグナスとキョウジに対抗するための舞台作りに迫られている。確かに浄化に関しちゃ最適解か。

 

 つまり、ええと? 数的には邪神召喚しまくっている器ちゃんを先にぶっ殺すのが正解って事? えぇ……こんな見るからに頭おかしいのをどうやって正気に戻せってんだよ……。

 

 だが、不意に器ちゃんがぐらりと身体を揺らめかせた。痛みを堪えるように頭に手を当て、歯軋りをして叫んだ。

 

「っ……ふ、ぐ……黙れ! 黙りなさい私っ! 何が忌憚のない意見! そんな事は、とっくに分かっているんですよ!」

「何これ? エリーみてえな電波受信?」

「……仏道で言う所の魔境ですね。シャドウと己のバランスが決定的なまでに崩れています。……翻って、これが真のペルソナではないというのも、恐ろしい話ですが」

「えっ!? あの自分を殺す覚悟の修行って、自分のシャドウ殺してたの!? 迷いを切り払うとかじゃなくて!? 頭おかしくなるだろんなことしたら!」

 

 というか、ニャルラトホテプが本体じゃないとかこれマジ? 前座にしては大層すぎるだろ……。と、思っていると、急に器ちゃんはピタリと動きを止め、くつくつ笑い始めた。怖……。

 

「そう、そうですよ。私、自分を殺してました。何故って醜いからですよ。無様だからですよ。……私の本音はね、丁度、笹川エンゾウと同じです」

「……えー……誰だっけ……あっ、TDK二回戦でキー坊と戦った奴……だっけ?」

「よくご存じで。流石は異常猿愛者の本庄様」

「それはお前だろ」

 

 なんでそんな微妙な奴をたとえ話に出してくるんだよこのタフちゃんは。しかし彼女は真面目くさって続ける。

 

「サタンなど切っ掛けに過ぎません。運命など体の良い言い訳です。私は、私はですね、ずっと本庄様を殺したくて仕方がありませんでした」

「そ、そんなに嫌われてたのん……? えぇ……かなりショック……いやマジで……」

「断じて違います。愛しているから殺すのです。好きで好きでどうしようもないからぶっ殺すのです! だって、だって! もう全部が終わっているんですよ! こんな身体も心も運命も! 醜くどうしようも無いものだから! 全部無理矢理受け取らせてやるにはこれしかないんです!」

「えぇ……(ドン引き)」

 

 なんかこの娘凄いことを言い出したんだけど。引力、即ち(ラブ)ってレベルじゃねーぞ! つかマジで意味不明……。

 

 ……いや、違うのか。器ちゃんの表情。狂気に混じった正気の中に、俺はそう察する。

 

 彼女は召喚を続け、ペルソナを振う中にも、泣いてしまいそうで、今にも死んでしまいそうで。そう言った表情で激情を叫んでいた。

 

「こんな仕組まれた運命程度で、ヤタガラスの皆様を、諏訪さんを! 傷付けるような女がどうして! ミシャグジ様を解体して術式にし、そこにサタンを嵌め込み卵とし、終末の引き金を引いた女が! 気色の悪い、悪魔に芯まで冒された女が! 心も体も運命も醜い女が! まともな幸せなど望めるはずが、望んではいけないのです!」

 

 <メギドラオン>をライドウに切り裂かれ、ニンスレのカラテに触手で対抗しながらも、器ちゃんはまるで余裕を見せていない。

 

「私はねぇ、狂ってるんですよ頭がおかしいんですよ! こんなに自分が嫌いなのに死んでしまうのが一番だと思っているのに! それでも、それでも! 本庄様のことが好きで好きで堪らなくて、それでも絶対に報われるはずがないのだから! だから殺してしまえと! 思いの丈あらん限りぶつけてその身に受け取らせてしまえと! そう考える気色の悪い女なのです!」

 

 寧ろ誰かを傷付ける度に、深く傷付いたように歯軋りをして、勝手に動く身体に自暴自棄になっているようであり。

 

 だから俺は呟いた。

 

「……ま、多少はね」

「っなに、何が多少ですか! 殺して下さいよ殺そうというんですよ私は貴方を本庄様を! それともなんですか愛してくれるとでもいうのですか私をこんな私を本庄様が!」

「ま、多少はね!」

「っ……なん、なんですか。その目は」

 

 そっちだってなんだよその目は。怯えて、震えて、殺されたがってる目を浮かべて。自分が悪いと、決めつけて卑屈に歪んでいる顔を浮かべて。

 

「大体よぉ、器ちゃんが醜かったらジュセとか肥溜め以下の蛆虫以下だろ。嫌われっぷりも野獣に劣るよ。あいつは汚物である以上に、世間から嫌われているからな」

「あーっ何言ってるのか分かりませんよ何が言いたいのかまるで分かりませんよ! 本庄様が何を言おうとも、もう私は皆様を傷付けて!」

「諏訪さんは」

 

 その言葉に、ひゅっと器ちゃんは息を呑んだ。同時に、俺が懐から取り出した鈴に目を見開く。

 

「託したよ、この鈴を。救って欲しいって。……良かったなぁ? 器ちゃんの周りに居るのは優しい奴らばかりだぜ。誇らしくないのかよ」

「なに、が、誇らしいと! そんなものを、見せ付けて。私は、私は!」

「誇らしくないかっつってんだよお前よぉ!」

「ひっ」

 

 ……ああ、そういう所だよ。怯えて頭を守るように縮まり込んだ器ちゃんに、ライドウが不意に呟く。

 

「……どうしました本庄。妙に、苛立っていますが」

「ああ? 苛つくに決まってんだろ。このボケガキはよぉ、テメエのくっだらねえ悩み一つを破滅の原因と勘違いしてやがるんだぜ」

「く、下らない、なんてっ! 本庄様が! 私に! この苦悶を、そんな言葉で!」

「下らねえよ。苦悶なんてねえよ。だってお前、嫌われてねえからな。受け入れられているからな。はい解決! 終わり! 閉廷! ……にしないのは、サタンのマヌケのせいでしかない。器ちゃんは、なんにも悪くねえだろう?」

 

 それで納得できねえか? そういう顔をしてやがるからな。だったらこっちも同じだよ。

 

「ニンスレ。お前はヒーロー相手にゃ滅法強いよな。お前を主軸に立て直すぞ」

「……私が言うことでもないが、良いのか、サマナー。私は殺すぞ。善悪の区別無く、ヒーローは全て殺す」

「一度殺すぐらいしなきゃ分からねえだろ。メスガキ分からせだぜ! 自分がどんな小っ恥ずかしい勘違いをしているかをな」

 

 りん、と鈴を鳴らし、器ちゃんを睨む。その先にあるものを睨んでいる。クソッタレのボケのサタン。運命を手繰るのがその悪魔だというのならば、全ての原因はそこに在る。

 

 諏訪さんは救えなんて言ったがよ、救い方は指定されてねえよな? だったら一度ぶっ殺して、サタンぶっ殺した後で蘇らせてやる。テメエが全ての原因だと思い込んでいるガキの頭に、何もかもが終わった後の世界を見せてやる。

 

 ガキが。お前なんか、終末に関わらせてやるものかよ。

 

 ……しかし、不意に器ちゃんは、顔を覆った手の隙間から、震える声で言った。

 

「そ、それでは……返事は、そういうことで、しょうか?」

「あ? 返事? 今からぶっ放す銃弾のことか?」

「い、え……。その、あの。受け入れられている、ということは……本庄様は、私の」

「えっ今それぇ!? お前の頭お花畑かよぉ!?」

 

 頭タフちゃんじゃなくて頭少女漫画かよお前よぉ!? いや確かにどさくさ紛れにドン引きの愛情を伝えられたけど、それ今返事しなきゃ駄目なやつ!?

 

 えぇ……おいライドウ、なんとか「嫌ですよ」……ですよねー「それで、返事は?」えっ、なんでお前までせっついてくんの?

 

 だが、上手く行けば戦わずとも満足させられるという事でも……ああ違うってか駄目だなこの考えは。あんな顔に嘘はつけねえし嘘が通じるとも思えん。だから必死になって戦闘思考から頭を切り替えるが、しかし……うーん……。

 

「いやー……うーん器ちゃん……いや器ちゃん自体はタフ要素抜けば別に良いんだけど……というか諸手を挙げて歓迎するんだけど……APP18くらいあるし……」

「そ、そうですかっ? ああ、うう、ううん。ど、どうしましょう……」

「ただぁ……そのぉ……純粋に、この年で器ちゃんレベルの人生背負い込むには覚悟が足りないっていうかぁ……器ちゃんで人生終了の予感をビンビンに感じるっていうかぁ……」

「……えっ?」

「もうちょっと遊ばせて欲しいっていうかぁ……」

「は?」

 

 あっ、これ絶対選択肢間違えた。

 

「うわ。本音ですかこれ」

「屑だな。サマナー」

「う、うるせえこっちはまだ大学二年生なんだぞ! ちょっと人生の岐路を迫られて真面目に考えた結果がこれだよ! それにご機嫌取りに嘘言ったって絶対通じねえだろ!」

 

 だけど、それはそれとして、言わなくても良いこと言っちゃったな。うん。いやマジで(冷や汗)

 

「ふうん、そういうことですか」と、器ちゃんは表情を消し、手を下げた。同時に、あの、やっぱこれマズい選択肢だったなぁ!? ニャルラトホテプがドロッドロに溶けてそっから悍ましすぎる何かが産まれようとしているんだけどぉ!?

 

「はいっ、クズ確定ですね。……そんなに私の愛情表現は幼稚ですか! 滑稽ですか! ええそうでしょうね悔しいですが仕方ありません! ですので全部! 全部を、今から受け取らせてあげます!」

 

 ボボパンと空気が弾け、MAGが弾ける。光輝が満ちる。暗黒の輝きが器ちゃんの胸元から放たれている。何あれ!? どす黒い輝きの中心、あれ、なんだっけ、あっ釣り針! サチチって奴!

 

「本庄何をやらかしたんすか! あれ殆ど悪魔の本体じゃないっすかぁ!」

「それも天津神! いや性質としては天ではなく、なれば本当に最悪だ! お主これでは殺すも生かすもないぞ!」

「すまんこ(震え声)」

 

 器ちゃんの内部に取り込まれていた神の権能が、ペルソナという形を通して顕現する。海の権能は異界に通じ、地母神に通じる。故に現われるのは古い神。混沌と死の化身そのものだ。

 

「第二のペルソナ──伊邪那美大神!」

 

 真っ赤な骸骨が無数の混沌の触手を従え、悍ましき死と腐敗を撒き散らし、現われた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。