「な……なんですかあこれはァ……腸だ……腸が出てるですゥ……はひぃ……」
「大丈夫じゃないから黙ってろサマナー」
「い、一度言ってみたかったから……」
「ミヤモト・マサシのコトワザに曰く、『狂人の真似をしたら実際狂人』。もっとも、オヌシは真似ですらなく狂人であるが」
ちょっと、あの、マジで身体が冷たくなってきたところで、イーノックが回復魔法を掛けてくれた。あいつらぶっ殺すまでには、必要だと思ったからな。面白半分で応援しているようなパンピーの目をこちらに向けるには、血を流してやるのが一番だ。
「生のこの……自己犠牲感覚が、いいじゃないですか? そのための生傷? あとそのための血潮?」
「良くねえっすよマジで。……まさか、これからもその戦法を取るつもりじゃないっすよね」
「いやだぜってえやだ! こんな殺す覚悟(自分)なんて最悪すぎるわ! だから何とかして下さい! お願いマッスル!」
「誰がマッスルっすか」
戦闘が終わった後。思い付きの戯言が上手く行ったことに気をよくして、「俺の事、今日からいーちゃんって呼んでくれよ。戯言だけどね」とか言ったら思いっ切り詰められた。主にライドウに。すっげぇ怖かったゾ……。
「話は変わるけど、いーちゃんの本名云々って妹の死に関係したトラウマから勝手にそう決めつけて他人と関わらないようにしている防衛機制だと思うんだけどそこんところどう?」
「知らねえっすよ。いいから黙ってろ」
「まあ結構古いからね……仕方ないね」
「そういう問題では、ないのですが」
そんな事を思いながら、段々とイーノックの回復魔法が効いてきた。腸が……腸が戻っていくですゥ……あわわっ、いっぱい戻っていくですゥ!
「はひーっ!(完全回復)」
「お主、本気で気が狂ってるのではないか」
「その通りですよ、ゲイリン。本庄は完膚なきまでに気が狂っています。……それ程までに大好きですか、野獣先輩という悪魔が」
「あ、あいつの事なんて全然好きじゃないんだからね!」
「古いっすね……」
ともかく、ぶっ殺した悪魔共の血溜まりを後にして、さっさと行かなきゃな。今だってそこら中で魑魅魍魎じみたネットミーム共が犇めいているんだ。ターヘルアナトミアさんの頭ぶっ叩いて、クソボケアホマヌケゴミのサタンにゲロウンコ茶漬け食わせたる!
そんでまたぜえはあ言って、駆け抜けた霞ヶ関は遥か後方、眼前に聳えるは半蔵門である。その前に門番のように立ち塞がるのは……あれ? 普通の悪魔だな。普通のでっかい蝿だ。
「魔王:ベルゼブブだな。……何故、こいつはまともな姿をしているのだ。ありがたいのか脅威なのか、儂の頭は茹だり始めてきたぞ」
「分かった! こいつはうんこに集る蝿の化身だ! サタン=野獣先輩=うんこ。故に三段論法でサタン=うんこ! だからこいつはここに居る!」
「な訳がなかろうが! 我をあんな下劣な奴等と一緒にするな! サタンの奴が霊格を取り戻す手伝いをするからと味方してやったものを、まさかこんな事態になるとは……!」
なんか深刻なトーンで話しているが、結局の所、良いように使われているだけじゃねえか。名のある大悪魔が門番役とか泣けるなあ?
「……ですが、脅威ですよ。サタンに召喚されたベルゼブブという事実は、存在その物に影響を与えています」
「えーじゃあこいつもネットミームに影響受けたりする?」
「誰が! 我をそこらの悪魔と同じく見るなよ。貴様らなど直ちに殺し尽くしてくれるわ!」
「誘い受けか何か?」
じゃあ、ちょっと試してみるかと、刀を抜きかけた三人を制止し、俺は単身前に出た。
「なあベルゼブブ、通って良いよな? 俺達は通って良いはずだぜ。サタンにそう聞かされてねえのか?」
「はあ? 何を。貴様らは何者だ!」
「オナラです」
「……よ、よし通れ!」
「えぇ……マジすかこれ……」
なんか「何だこれは!? 何故こうなる!?」とか言ってるベルゼブブを放っておいて、俺達はすたすたその脇を通り抜けていく。全く、警備の甘さにビックリくりくり(UDK)
それで内部に入ったは良いものの、何かさっきから坂上さんが変である。右腕に麻呂から貰った直刀を掲げたまま、顔を引き締めて静々と歩いている。よく分かんねえ文字が刻まれた剣がギラギラ輝いてカッコイイ(小並感)
「新手の魔除けか何か?」
「……はい。ええ、そうです。……良かった、無事でしたか」
「あっ、ふーん……(冷や汗)」
坂上さんがまともな敬語使ってるって事は、マジにやばい相手って事で、つまり大人しくしなきゃ(使命感)。思えば外部には数多蠢いていた悪魔共も、中には一体も見受けられん。
暫く云々言っていた坂上さんだったが、不意に長く溜息を吐き、剣を収めた。電波交換終わった?
「……帝は無事っす。咄嗟にマサカド様に結界を張っていただいたっす。四方に四天王を据え、暫くは安全っす」
「はえ^~流石は……流石は……平将門公だぁ……(何か言おうとして怖じ気づいた)」
「流石に言葉を選んだか……」
いやーだって流石に諏訪さんのミシャグジさまを上回るそれはよぉ……というかサクサク進むなお前な。さっきまでの死闘が嘘みたいだぜ。テンション上がるなぁ~~。
……まあ、本当の地獄はここからなんですけどね、初見さん。
「では、行きましょうか」
そうライドウが指し示したのは、宮内庁の古めかしい建物である。なんか凄まじくおどろおどろしい異界に変貌しているんですがそれは……。
「本来なら地下だけに限定されていた異界が、建物全体にまで拡張されてるな。異常事態が発生しているのは確実。単なる襲撃でなく、何らかの事を起こす気か」
「それ化け物の胃の中に入り込むようなモンじゃん……外から纏めて爆撃とか出来ねえの?」
「無意味です。あれは現状において世界の中心。物理的影響は意味を成さず、入ることすら難しい。故、切り裂き無理矢理突破します」
「マサカド様もんな事するんじゃねえって言ってるっす……マジにやめろ」
「アッハイ」
えぇ~~この中に入るの~~マジで? いや~~絶対何か仕掛けてあるって~~! でも有効な手立てがそれしかねえんだったらしょうがねぇなあ。
野獣もこの中に居るんだったらな。
「ファーストペンギンは誰にするぅ?」
「儂だ。お主やライドウ、坂家宝剣を持っている坂上と違い、死んでも代えが利くからな」
「えっ、ちょ、冗談……」
言ってる間にゲイリンが異界を切り飛び込んで直ちに出てきた。「一見して普段通りだ」そう言いながら腕を振る。こっち来いって……うーん、覚悟ガンギマリ過ぎない?
セカンドペンギンという語が存在するのかは知らんが、戦々恐々と俺は異界に降り立った。慣れた入り方ではあるが、しかし状況は普段とは一変している。何時何処から敵が襲ってくるか分からんとか心臓が休まらないにも程があるってんでぇ!
しかし、内部は確かにゲイリンの言ったとおり、普段通りの様であった。ぴいちく鳴く鳥たちが一羽も見受けられないのは不気味だが、静謐な木造の廊下はしんと静まって威圧感を与えている。それその物が一種の霊格を持っているようですらある。うん、いつも通りだな!(感覚麻痺)
「同胞らは何処へ?」
「深奥、本拠地、神楽の間。打って付けではありますね。悪魔召喚の儀を成す間を選ぶとは」
「ヤタガラスの人員を生贄に使うとかぶっ殺してやる……!」
ライドウが居るからダンジョンを探索して宝箱を開ける暇がない。「そんなものがあるわけないでしょう」いや王道としてありそう……ありそうじゃない?「あるとしても、それは元々我らのものです」あっ、そっかぁ……。
進む廊下には何時もの通り、暗闇と歴史だけがあり、悪魔の出現など気配さえ存在しない。なのに嫌な予感だけはぴりぴりと首筋に漂いやがる。流れるMAGの異常さだ。
……本来ならば、防御、隠密に使われるはずの龍脈が、ただ一点に集中している。そこがライドウの言う神楽の間か。俺は使ったことがないから詳しい位置は知らないけど(半ギレ)
だが、不意に金属音が聞こえた。キィンと激しい音が断続的に響く。戦闘の音である。直ちに三人が駆け出る。
廊下を駆け、眼前には羽を生やした悪魔四体。強い。強いが、敵ではない。敵にはならない。そら、一瞬で首が切り落とされた。
「ひっ、はぁ……ようやく、ですか」
「はい。ようやく、です」
「頑張ったな。遅れて済まなかった」
悪魔に対抗していたのは、巫女服を纏った女サマナー。古臭い鈴を振り回しては徒手空拳で頭を砕いていたタフな人……ってか諏訪さんじゃないっすかぁ!
「お父さんが心配してたゾ~~これ。娘がまた悪魔相手に黒歴史晒さないかってなあ?」
「は……! いつも通りですわね、本庄。それが頼もしくさえ感じますよ」
「……どういう状況ですか?」
「サタン。あのクソ蛇が『トリックスター』だのぐちゃぐちゃ言って、儀式を行おうとしています。……時を同じくして、阿多様の様子がおかしくなり、異様な強さのメシアンが襲撃してきました。我々も抵抗しましたが、本物の神格を持っている阿多様相手では、分が悪すぎました」
「げっ、ワグナスかよ……てか器ちゃんもかよ……」
エリーが言ったとおりになってる……ってコト!? それに、あのカオスヒーロー云々って猿空間の世迷い言じゃなくてマジだったの……?
というか、それら相手によくこの人生き延びてたな。いや、満身創痍感半端ないけど……本当に、何時もの悍ましい気配が欠片しか感じられないほどだけど。
そんな視線に気が付いたのか、りぃんと手に持った鈴を寒々しく鳴らし、諏訪さんは言った。
「情けない事に、ミシャグジ様を奪われました。ガイアの糞共と同じ狙いですわね。或いはガイアも奴等の手中に? どちらにせよ、同じ事……複合する神性を一つ所に纏め、より高き何者かに成り果てるつもりです」
「……阿多もまた、神楽の間ですか」
「そうですわね。故にこその、阿多様と言ったところでしょう。学習した方式を元に、混沌の器に生誕するつもりなのです。まさしく阿多様は打って付け。所か、初めから仕組まれていたと……」
チッ、と舌打ちを一つして、諏訪さんは廊下に倒れ込んだ。ひゅうひゅうと呼吸は速く、脂汗が額に滲んでいる。
「何が、諏訪の才女。現人神の再現か。子供一人守れずして、その名は荷が重すぎますわ」
「……諏訪さん」
「よしなさい本庄。お前に、そんな目を向けられるなど、虫唾が走ります」
「皆様、言うべき事はそれだけです」諏訪さんがそう言って三人に目を配った。それを受け、三人は方々に駆け出した。
「坂上の鎧、ゲイリンの予備管、ライドウの……歴代の……っはは。それさえも必要になるとは。空前絶後の危機ですわね」
「諏訪さんを守るの俺だけって大丈夫なんですかね?」
「なに、サタンがもっとも警戒しているのは貴方でしょうに。先程までは溢れんばかりだった悪魔共が、急に『あのキチガイ野郎』と口を揃えて消え去りましたわ。……計画を阻害されつつあって、専守防衛に移行したのでしょう。何かやらかしましたわね? キチガイ本庄」
「ま、多少はね? 俺のこと、戯言遣いって呼んでも良いですよ」
「あっ、懐かし……」
けらけらと笑って、しかし諏訪さんは長く溜息を吐いた。疲れている。傷付いている。
「……イーノック」
「使うな。MAGの無駄ですわ。これは肉体の傷ではなく、魂の損傷で在るが故に。……だから、愚痴を言わせなさいよ。少しの間でも」
「少しって……あんた」
「……全く、伝統も糞もない、ゴミみたいなホモガキが私の相手とは、諏訪も軽んじられましたわねえ」
「ですが」と諏訪さんは俺に手に持っていた鈴を持たせた。錆がついた鈴。異様なまでに霊格を感じる鈴。
「さなぎ鈴……祭祀の、神事の、神器なれば。きっと、それも役に立つはず」
「……死亡フラグ立ててる場合じゃねえですよ、諏訪さん」
「死にませんよ。役に立てないから託すのです。……私では、あれには勝てない。蛇神に諏訪の血族が勝てる道理はないと……は! 散々利用した伝承の弱点が、今更ここで効いてきますとは!」
皮肉めいて諏訪さんは笑い、しかし直ちに打ち消した。
「ヤタガラスが狙われた原因の一端は、私にあり、諏訪の血族にあります。クソ蛇は言っていましたわ。『人類の集合無意識を纏め、唯一神を超越する』と。世迷い言と喝破しましたが、どうにも、ええ、そんな顔ではございませんねえ?」
「面白いモン見せてやりたい所ですがね、生憎、それがマジならマジヤベーゼって所です」
「それ、戦隊? それともアニメの方? っはは、まあ良いですわ」
そこで諏訪さんは俺の腕を強く掴み、流れ出した口元からの血を拭うこと無く言った。
「阿多様を救いなさい。お前がやれ。お前が救え。お前に託しましたわ」
「……なんで、俺に言うんだよ。ライドウとかじゃねえの?」
「それでは殺してしまうでしょう。或いは、殺されてしまうでしょう。……お前だけが、生きて、阿多様を、あの娘を、助けられる。……とても、苦しい顔を浮かべておりました」
ひひ、と苦しい笑みを見せて、諏訪さんは自分に回復魔法を掛ける。だが、弱い。傷が塞がる気配が全くない。より深いところに傷がある。
「ほら、無駄。故、向かえ。あの娘が、可哀想。運命に翻弄された、逃げ出すことも出来ぬ……救世主」
「……諏訪さん」
「何ですか、そんな顔。下らない。馬鹿馬鹿しい。お前、そんな顔をする奴でしたか?」
「……だってよ、諏訪さん」
「腕は無事ですわよ。それ以外は、無理ですが。……私の代わりに、あの娘に詫びてやって下さいまし。……殺してあげることも、守ってあげることも出来なくて、ごめんなさいって」
焦点の合わぬ瞳で呟いて、しかしふと諏訪さんは、安心したように笑みを浮かべた。
「……あは。その、顔を。何時も浮かべていれば」
そう言って、諏訪さんが目を瞑った。死んではいない。深く眠っている。何時、目覚めるのかは分からない。
「概念を深く身に宿した異能者は、概念的影響を深く受ける。ミシャグジ様が奪われた諏訪は、半身を失ったに程近い」
いつの間にか戻ってきたゲイリンがそう言い、諏訪さんを抱きかかえ、近く部屋の布団に下ろした。
そうして、ガチャガチャと物々しい音が聞こえる。聞き覚えのある音だ。見れば、完全装備に身を包んだ坂上さんが立っていた。
「拙速を選んだか、霊的防御を破れなかったか。恐らくは前者だろうが、舐めてんのか? 坂上家をよぉ」
平安時代から伝わる国宝級の装備に、腰には常通り宝剣鬼切を、もう片方には坂家宝剣を。兜を被ったその面は悪魔染みて、しかし静かに佇んでいた。
「準備が出来ました」
ライドウが現われた。その姿は先のそれと何ら変わってないように見える。しかし、その身体から発せられる異様なMAGは、尋常で無いものを身に下ろしたと察せられる。
……それで、俺はどうだ?
正直、今すぐにでも逃げ出したい。男気張る場面はネットミーム共との殺し合いで十分こなしただろう。諏訪さんの言葉だって、こいつらに任せとけば悪いようにはしないはずだ。
……そう考えるのを、諏訪さんも分かっていたはずだ。
「……だったらよお、格好悪いよなあ?」
こんなクッキー☆声優がよお、父親にネットで胸晒していることがバレた三十路女がよお、俺に託しやがって。それで気を失いやがったんだ。
その上で、何もかも投げ出して、逃げ出すって?
そんなの、夢見が悪いにも程があるだろうが。
だからよ、悍ましいほどに沸き立つMAGを前にして、俺の弱気よ「止まれ」俺の臆病よ「止まれ」いいや違うな。俺は違う。進む神楽の間に呟く。「止む止む!」と。
「装備十分。威力十分。坂上田村麻呂はここに在り」
「十八の管は常に抜ける。葛葉ゲイリンは申し分なく」
「葛葉ライドウ、ここに見参」
目の前の襖の向こう、異様なMAGの流れを感じている。神楽の間の、その前室。本来は祭祀の準備を整えるための一室に、悍ましき気配が充満している。
だから俺は銃を抜いた。COMPを操作した。
「大丈夫だ。問題ない。……そうだな、サマナー」
「運命者が二体。なに、アブハチトラズよ。オヌシと私であればな」
「当たり前だよなあ? ……さあ、行こうぜ!」
開いた神楽の間には二体の人影。悍ましきMAGの前座が二人。いや、殆ど本命と言っても相応しい二人が瞳を向ける。
「神のため。人のため。私の名はロウヒーロー。……すまないな、本庄」
白く、白く、真っ白な男。
「愛してるからぶっ殺します。それが私の本音です。……軽蔑しましたか? 本庄様」
黒く、黒く、真っ黒な少女。
見慣れた顔の二人は、見慣れぬ殺意を以て、俺達と相対していた。
[魔人:ロウヒーローと 魔人:カオスヒーローが 出た!]