「とりあえずニンスレを他に当たらせる! ブロントさん相手に忍者は鬼門だ!」
「一応聞くけどなんでっすか? 結構押せてるようには見えるっすけど」
「あの馬鹿げたヒーロー二体ぶっ殺せたニンスレが、クルースニク如きに手間取ってる時点で間違えてんですよ! ブロントさんは汚い忍者には絶対負けない! それが謙虚なナイトってやつ!」
いや本来のFF11では、ナイトは忍者にジョブとしての立場を思いっ切り取られていた過去があるのだが、それ故のブロントさんの(元ネタの)忍者敵視であるのだが。しかし今はそんな歴史的事実などどうでも良くなっている! ブロントさんが『そう』だから、『そう』なるんだ!
だが、これは悪手だったか。俺がそう言った瞬間にブロントさんはにやりと笑い、カカッっと盾を振ってニンスレの腹に剣戟を打ち込む。急に動きが良くなりやがった。
「イヤーッ!」
「やはりナイトは格が違った!」
「グワーッ!?」
「チッ……! 認識、か? そう認識するからか? 碌に説明も出来ねえ……!」
もんどり打って転がったニンスレに、グラットンソードを叩き込むその姿は、先のそれよりも洗練されている。対してニンスレの動きは悪くなる一方で、どことなく重く、汚い動作に変わり始めている。
糞が。攻略情報が却ってこちらの首を絞めやがる。俺の認識がこいつらの力を肯定しやがる!
……だけど、そもそもの話として、どうやればこいつらを消滅させることが出来るんだよ。
大体、大衆の願望って何だよ(哲学)。思えばベルベットルームも猿空間になってたし、もうこの世界の人類って終わってんじゃない?
しかし、迫り来る敵を対処しなければ死ぬのは事実。解決策よりまずは今を乗り切らなければ。
「くたばれ! ジュラル星人め!」
「だからってこれを乗り切るのかよ!? おい研坊! 俺達は人間だぜ!? ジュラル星人じゃねえから!」
「黙れジュラル星人!」
「このキチガイがぁ!」
何とかイーノックと共にニンスレを離脱させようとしていた最中、背後から光線が飛来してきた。それを必死になって避け、返すように弾丸を放つ。だが、流石は未来の意味不明な科学力……いや、そう俺が思い込んで居るからか? 傷一つ付きやがらねえ。
しかし、不意に斬撃が飛んできたかと思えば、チャー研は一撃で真っ二つにされ、地に落ちた。その斬撃が放たれた先、ライドウは無表情にキワミと壮絶な剣戟を繰り返している。
「ゴブリンバット!」
「二重の極み、ですね」
「ガトチュ・エロスタイル!」
「牙突零式、ですね」
「フルチン、サーセン!」
「龍槌閃、ですね」
「はえ^~すっごい……(戦慄)」
キワミの腕が、まるで複数有るかのように分裂し、そこから様々な剣技に拳技を繰り出している。掛け声は奇怪に過ぎるが、技のキレは馬鹿らしくなるくらいに冴え渡っている。
だが、非現実的な漫画の技を無数に繰り出されているにも関わらず、ライドウは動じない。四刀に一刀で返し、五撃に一刀で返す。所かますます対処が早くなり始めている。
「今度という今度は許さないぞ! 可哀想なお友達が可哀想だ!」
「支障ねぇ!」
「応援、ありがとー!(勝手に代弁)」
「ノーコメもありや……」
ぶっ殺されたチャー研が一瞬で立ち上がって光線をバラマキする。イーノックにいくらか打ち落とさせてはいるが、それさえも片手間に切り刻むのは流石はライドウって言うかドン引きライドウって感じだ。
「ライドウ鬼つええ! このまま逆らうやつら全員ブッ殺していこうぜ!」
「はい。葛葉ライドウは揺るぎません。ですので、貴方も何か……」
「はぁ~んお仕置きしてほらカモーン! 拷問して縛ってこうセクシーだって言ってぇ!」
「うわ」
「げっ!? ライドウ!?」
「なんて声……出してやがる……! ライドォ!」
「うるせえぞ喋る置物!」
KYMの唐突な恥態にドン引きしたライドウが、一瞬動きを止めた。その隙を突き、「盛大にやろうぜ!」と<至高の魔弾>が無数に放たれる。
「イーノック!」
「アバドンを頼む!」
「かしこまり!」
援護にイーノックを差し向けたが、代わりに襲ってくるのはキバヤシだ。たかがマガジンの編集者が大層な悪魔降ろしてんじゃねーよ!
「本日をもって地上の活動は停止する──!」
「お前のせいで何人の小中学生が学校休んだと思ってんだ!」
<メガトンプレス>決めて来るキバヤシに、久々にCOMPから杵を召喚してぶつけ合う。だが、当たり前だが吹っ飛ばされた。……ねえレベル上がった恩恵ってMAG総量以外にねえの? 俺まだスキル一つも覚えてねえんだけど?
しかし、もんどり打って転がった先は想定通りだ! キバヤシが突っ込んでくる前に、目の前を赤黒と褐色の風が通り抜ける!
「イヤーッ!」「グラットンすごいですね!」「イヤーッ!」「それほどでもない!」「イヤーッ!」「な、なんだってー!?」「イヤーッ!」
キバヤシが、丁度壮絶なイクサを重ね合っているニンスレとブロントさんにぶちのめされた。状況判断を怠ったな! だが、眼鏡を割れさせながらもまだ立ち上がって元通り! 糞がよ!
だから、そうだ。やっぱり闇雲に戦うだけでは駄目だ。このままではジリー・プアー(徐々に不利)どころではない。真綿で首を絞められて殺される!
そんな風に思考を巡らせていた最中、ふと、オルガが笑って言った。
「やっぱすげえよサタンは……」
「……お前だけさっきから死にっぱなしなのはどういう了見だよ?」
他のネットミーム共は戦っているのにオルガだけさっきから希望の花咲かせては復活を繰り返しているんだが。その横に居るミカも死体の傍で無表情のままだし、一番何なんだよこいつら。
「オルガが人の部分で、俺は獣の部分。それで人面獣身の妖獣:クダンらしいよ」
「わざわざ説明してやるとか、やっぱすげえよミカは……」
「んな説明されようがテメエ役立たずじゃねえか。何がクダンじゃ! さっさと消えろ!」
銃弾をぶっ放して「うああああああ!?」とオルガがいつも通りに倒れる。それを見てミカが「何やってるんだよオルガ……本当にさ」と呟いたが、しかしオルガは顔だけ上げて、あのドヤ顔(皆さんご存じ)で言った。
「だからよ……『止まるんじゃねえ』ぞ……!」
「は?」
再び希望の花が流れ出して、オルガが死んで。しかし俺の足は勝手に動き出した。あっ、そういやクダンって死の間際に予言するって妖怪……えっそこは悪魔通りなのかよ!?
突っ込む先はベルフェゴール阿部さんだ。ゲイリンと坂上さんがぶち殺している真っ最中だ! やべえ死ぬ!
「チッ……一旦消えろ。<空間殺法>!」
「よかったのかホイホイ攻撃してきて。俺は<テトラカーン>だって使うんだぜ?」
「ナイスでーす♂」
「な……本庄っ!」
あっマジでヤベえ。坂上さんの斬撃がそのまま俺に跳ね返ってきて死ぬ。そこで問題だ。クダンの予言によって止まることは出来ない状況で、どうやって攻撃を躱すか?
三択──ひとつだけ選びなさい
答え①ハンサムで頭が良い俺は突如反撃のアイデアがひらめく。
答え②仲間が助けてくれる。
答え③躱せない。現実は非情である。
「本庄っ!」「チィッミスった死ぬなよ!」「二番です。今行きます!」「ここで死ぬ定めではない!」そんな声が、何とか回避しようとする頭に酷く伸びて聞こえていた。
走馬灯のように単語が広がっては消えていく。光景が断続的に瞬きながら、その言葉一つ一つが耳に囁きかけてくる。
……だが、何よりも目の前に浮かんで離れなかったのは、薄ら笑いだった。
あいつら、笑っていやがった。ほくそ笑んで、上手く殺せたと笑っていやがった。
語録の一つもなく、冷たく浮かべられた奴らの薄ら笑い。死に行く俺へ向けた八つの嘲笑。それは悪魔としての本性をこれ以上無く曝け出していて、その顔に酷く似合ってなくて。
だから俺は、気が変わった。
「……だったら、よお」
回避はしない。まともに受ける。ぐぶ、と口から血が出た。胴体を切断され、腸が腹から溢れ出た。
全身をズタズタに切り刻まれて、立っているのもやっとだった。だが、俺は笑っていた。何せ一番だ。「何を……」なあライドウ、分かるか?「そんな状態になってまで、貴方は」聞け。一番だよ。俺は突如として、反撃のアイデアが閃いたのさ。
「なあにが、大衆の無意識。ふざけるんじゃ、ねえよ、ボケが」
イーノックが飛んで来、回復魔法を掛けようとするが、「やめろ」と手を挙げて制止した。イーノックが困惑したような顔を浮かべる。だが今は、これで良いんだ。
ぐたりと右腕を持ち上げて、俺は阿部さんを指差した。奴は口笛を吹いて「いい男じゃないの」と言っているが、ちゃんちゃらおかしいよ、お前。
「ばぁか。お前なんか全然いい男じゃないね」
「その減らず口、とことん喜ばせてやるからな」
「口振りだけ真似ても違えんだよ。何せお前、<テトラカーン>を使いやがっただろ? それが答えだよ、ボケのベルフェゴール」
その指摘に、阿部さんが……ベルフェゴールが硬直する。へえ、そんな反応を見せるのか? 一丁前に、人の真似をして。
「阿部さんは、バキュームカーみてえに、糞でも精子でもションベンでも、受け止めるんだよ。なのにお前は、何だって? <テトラカーン>? バカじゃねえのか。ああ?」
「……それは」
「テメエもだよ。ボケのオベロン。お前、さっきから何してやがった? レスリングの一つもせずに、支援ばっかして、んじゃねえか。どこが、ビリー兄貴じゃ、ボケ」
「……何の問題ですか?」
「問題しかねえよ。ラミレスビーチの名が、泣くね。だらし、なくって、歪みしかなくて、しょうもない、包茎の屑どもが」
……いつの間にか、辺りは静かになっていた。ひゅうひゅうと、風抜けた呼吸の音だけが聞こえる。
……さあ、どうだ。悪魔共はどうなっている。物音はしない。イーノックが、倒れようとする俺の身体を支えてくれている。
「……流石っすね。大衆の無意識がこいつらを生み出したって事は、それに働きかけられるって事でもある……ってことっすか?」
「血を流してまでも大衆に真実を見せ付ける。奴等の正体は血を好む残虐な悪魔であり、断じてトリックスターやらではないと突き付けると。……風が吹いたな。間違いなく」
「っへ、へへへ……そう、そういうことを。言いたかった」
坂上さんとゲイリンが意図を理解してくれた。こいつらは偽物だって。だからそれを突き付けてやれって。
だから、見たいな。掠れた視界に相手を窺う。なあライドウ、奴等の顔色はどうなっている?「硬直しています」そりゃあ最高だ。俺もこの目に拝みたいもんだぜ。
「だけど、な。目が、な。それは、お前達のせいだ。……お前達のせいか? いいや。違うだろう? お前達の皮を被っている、そのクソッタレ、悪魔共のせいだ」
「そうっすよ。……テメェら全員、大衆の望みその物じゃねえ。都合良いようにサタンに誂えられただけの偽物だろうが」
「ならば、殺せば死ぬのが道理。死ねば死ぬのが道理」
坂上さんとゲイリンは、息を呑む悪魔共に剣気を鋭く高めていく。だが、ライドウだけは、どうにも揺らいでいる。常の通りじゃない。
そりゃあ、そうか。「そう、ですよ」お前は頭の中を覗けるもんな。
「本気で、貴方は、気が狂ってます」ライドウが、珍しく喉奥から絞り出したように言った。「だって、貴方、それ」そうだよ。だから俺は、アスファルトに血を吐いて、げらげら笑うのさ。
何せ、俺が今言ったことは全て、全く根拠のないハッタリだからな。
ぶっちゃけ、言いたかっただけだよこんなの。何ら勝算のない、賭けとも言い難い八つ当たりだ。
あの薄ら笑い。あの顔に似つかわしくない悪魔の顔を見た途端、頭がプッツン来やがって、思わずぶちまけたくなったのさ。『お前達は全員偽物なんだ』って。
何が大衆の無意識だ。それに働きかけてどうなるかなんて全く分からない。大体、イーノックだって推定大天使だし、ニンスレは自分から偽物だって言っていた。それで奴等の薄っぺらさを突き付けて、弱体化するなんて、そんな美味い話があると思うのか?
「思わねえがよ……信じては、いたさ」
そうとも。根拠なんて全くないが、信じているんだ。
だって俺は、あいつを知っているからな。あいつはこんな、不出来な物じゃなかった。いつだってふざけて、馬鹿馬鹿しくて、下らねえステハゲ野郎だったからな。
だから、あいつがサタンなんて悪魔な訳がないんだ。
だから、こいつらだって同じだ。こいつらは、こんなクソみたいな悪魔なんかじゃない。もっと面白くて、ふざけた奴等で、その魅力をこれっぽっちも引き出せてない。
だから否定するんだ。大衆がそれを望むから何だってんだ。だってそいつらは本気じゃねえだろ。本気で、あいつらが悪魔として存在すると、思っちゃいねえだろ。
俺は違う。信じている。こいつらは下らない偽物共で、本物のあいつらが何処かにきっと存在するんだって! だからこそ、こんな糞共が大衆の支持を得るわけがないんだって! 俺は否定するんだよ!
「お前ら、つまらねえんだよ。この、にわか共め!」
「だってお前達は」指を突き付ける。「お前達の正体は」突き付けてやる。「ベルフェゴール」に、「オベロン」に、「クルースニク」に、「ベルセルク」に、「メルキセデク」に、「アバドン」に、「クダン」に。げらげら笑って見下してやる。
「お前達は全員、ネットミームの化身じゃない。だから死ぬんだ。死ねば死ぬんだ。動画のように繰り返さない……たかが、悪魔だからな」
……さあ、どうだ?
何が起きる? 俺の戯言は戯言のままに終わるか? 単なる敗者の意趣返しとして一蹴されるか?
「ライドウ」
「はい」
奴等は叫んで消滅したか?「いいえ」身体が溶けてスライムにでもなったか?「いいえ」無限の復活の魔法は解けたか?「はい」
「その実在を信じ、その存在を信仰し、故に偽物を唾棄する、真なる意味での信仰者とは、この世界で貴方一人しか居ないので」
「……っははあ……どういう意味ぃ?」
「野獣先輩という悪魔の存在を、本気で信じている貴方にとっては、この七体も確かに悪魔として存在するのだと、そういう信仰があるのでしょう。……幾万の流言を撥ね除ける、唯一の信仰、ですか」
「気が狂ってますね」そう言ってライドウは剣を振る。凛とした音が耳に涼しく、何処か身体が安らいでいく。
「大衆とは移ろいやすく、気まぐれで身勝手な風見鶏です。強きに流れ、弱気を叩く。……『目』は貴方に向きました。もっとも、何時まで続くかは分かりませんが」
「俺が、うえ、死に体なのも、意味あった? これってヒーローっぽいかな?」
「私にとっては」
不意に、周囲の空気が変わる。
「人間ごとき」「このような力など」「死ね」糞共が糞の正体を表す。糞みてえな文句を垂れ流しやがる。
だが、今更だろ。お前らが勝てるわけねえんだよ。
だって、こっから見る三人の背中、超カッコいいもんな。